【BL】気付いてないのは篠原だけだよ。【オメガバース】

ちゃっぷす

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第十五話

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 あれからナオの配信がピタッと止まった。
 もう、『たまごかけごはん』の一話から最新話までを三回は通して聴いた。
 それだけ時間が経っても、未だにナオは俺に連絡を寄越さない。

 真人と話をしてから、ちょいちょい頭によぎるんだ。
「俺がベータだったら、どうなっていたんだろう」って。
 それが耐えられない。世界がぐにゃっと歪んで、頭が捻りつぶされそうな感覚になる。

 俺は必死に考えるのをやめる。
 ……やめようと思えば思うほど、脳みそに深く刻まれてしまう。

 こんなことを考えてしまう俺は、いつもの俺じゃない。
 もう、ナオのことを考えるのに疲れたかもしれない。
 このままじゃ、俺が俺じゃなくなってしまう気がする。


 ◇◇◇

 ある授業中、隣の席の女子が消しゴムを落とした。
 俺は苦笑いした。あー、こういうシーン、『たまごかけごはん』にもあったなーって、勝手に思い出してしまったのだ。

 俺が消しゴムを拾ってやると、女子は頬を赤らめて礼を言った。
 この女子も、あの主人公みたいに、こんな些細なことで「世界はあったかいなあ」なんて感じるのだろうか。

 休み時間に入ると、隣の女子のまわりに友だちが集まっていた。
 女子がコソコソとこんな話をしているのが聞こえた。

「聞いて。この消しゴム、さっき篠原くんが拾ってくれたんだ。匂ってみてっ!」
「うわっ、これやば……! フェロモンの匂い移ってんじゃーん……!」
「そうなのよぉー……!」

 あの消しゴム、今夜のオカズにでも使われるんだろうなー。まあ、いいけど。
 ……あれぇ~? おかしいな。なんでちょっと不快なんだろうか。
 俺は上質アルファで、フェロモンの匂いでオメガが喜ぶのなんて当たり前のことなのに。世界の摂理なのに。


 その三日後、消しゴム女子に告られた。まあそうなるわな。
 ……もう、いっか。
 ナオからは連絡が来ないし。縁が切れたんだろう。

 それにもう、「自分がアルファじゃなかったら」、なんてことを考えるの、疲れたし。

「いいよ。付き合おっか」

 消しゴム女子のオメガ臭、嫌いじゃないし。抱けるな、って思ったし。あっちも俺のフェロモンの匂いが好きっぽいし。
 俺たちは、アルファとオメガだし。

 付き合って初日だというのに、消しゴム女子は俺を家に招いた。
 家に行ったら、やることはひとつしかない。
 消しゴム女子は俺のフェロモン臭にやられていた。目の焦点が定まらず、絶頂が止まらなかった。

 ベッドのそばに、あの消しゴムが転がっていた。


 消しゴム女子は、俺と付き合えたことが幸せ極まりないようだった。
 当然だよな。この俺と付き合えているんだから。
 オメガにとってそれ以上の幸せなんて、ないもんな。

 ある昼休み、消しゴム女子と外のベンチでメシを食っていた。
 メシを食っている最中でさえ、女子はべったりと俺と体をくっつける。
 そして食べ終えたあとは、決まっておねだりをする。

「ねえ、駿くん。キスして……」
「またあ? 人見てるって」
「いいじゃん、別に……。お願い~……」

 はあ……。俺のフェロモンに依存しきっている。ここまできたら中毒者だ。
 この女子はそこまで強いオメガじゃないから、俺のフェロモンがキツすぎたのかもしれない。

「駿くん……」

 俺を見ているようで、見ていない視線。
 ……全てを見透かされているようなナオの視線とは大違いだ。
 この子は俺の、顔とフェロモンにしか興味がない。

 ……いや、それが当たり前なんだけど。
 あれ? なんでこんなこと……

「……一回だけな」

 もう、そろそろお別れかな。
 鼻も慣れて、全く匂いが分かんねえし。

「んっ……」
(えっ……!?)

 軽くキスをしたつもりだったのに、女子が舌を絡めてきた。おいおい……学校でそんなキスしてくんなよ……。


 その時。
 近くで物が落ちる音がした。
 その方向に目をやると――

「……ナオ」

 そこには、地面にうずくまって荷物を拾っているナオがいた。

 今の、見られたか。
 ……まあ、もう、いいか。

 はあ。なんか体がダルいわ、今日は。
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