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16話
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◇◇◇
次の日、約束の時間に物置部屋を訪れると、ちゃんとヴァルア様が待っていた。
「へえ。本当に来たんだ。やっぱり大貴族って暇なんですね」
「失礼なことを言うんじゃないよ。暇なのは俺だけさ。他のヤツらはいっつも忙しそうにしているよ」
ヴァルア様は、僕が入って来たばかりのドアを閉め、そのまま僕を抱きしめた。
どうしてだろう。ヴァルア様に抱きしめられるだけで下腹部に緊張が走る。
「……離れてください」
「どうして?」
「下腹部に不具合が」
「へえ」
ヴァルア様はニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んだ。そして、唇を重ねる。
「……っ」
不思議なことに、ヴァルア様とキスをしても吐き気を催さない。むしろ……なんというか……
「~~っ」
理解できない感覚に戸惑い、僕はヴァルア様を押しのけた。拒絶されたはずなのに、ヴァルア様は嬉しそうにニコニコしている。変な人。
「君さ、キス好きでしょ」
「すっ、好きとか嫌いとか、そういうものじゃないでしょう?」
「いや、そういうものだよ。君、キスしているときが一番嬉しそうだよ」
「どっ!? どこからそんな発想が!? あなた、僕にキスをして、二度押しのけられているんですよ!?」
「うん。だから、そのくらい嬉しいんだろう? 嬉しいというか、気持ちいいというか。だって――」
ヴァルア様の手が、そっと股間に触れた。
「ほら、勃ってる」
「!?」
おかしい。昨晩司祭様とキスをしたときは、勃起するどころか萎えてしなしなになってしまったはずだ。司祭様の舌の感触が不愉快で、儀式が終わったあとに吐いてしまったし。
僕は助けを求め、ヴァルア様を見上げた。
「ヴァルア様……僕の体はおかしくなってしまったようです……」
「ん? どういうことかな?」
「実は――」
僕が悩みを打ち明けている間、ヴァルア様はそれはもう楽しそうに耳を傾けていた。
「ちょっと! こっちは真剣に悩んでいるんですよ!! それもこれも全てあなたのせいなんです。どうにかしてくださいよ」
ヴァルア様の瞳には、哀れみと歓喜が入り混じる複雑な感情が滲んでいた。
「端的に答えを言おうか。答えは、君は司祭のことを生理的に受け付けなくなっているからというのと、俺に好意を寄せているからだ」
「? なぜキスに僕の感情が影響するんです?」
「なぜって、そういうものだからだよ」
よく分からない。そもそも僕がヴァルア様に好意を寄せているということもピンと来ない。
「……あなたとは、やはり会話が成り立っていない気がします」
「そうだね。俺もそう思うよ」
今日はこのくらいかな。あまり成果はなかった気がするが、仕方ないか。この人の言っていることがトンチンカンで話にならないし。
僕は腰掛けていたテーブルから下りた。ヴァルア様に背を向け、ドアノブに手を伸ばす。
「それでは、そろそろ礼拝堂に戻りますので――」
言葉が途切れたのは、開けたドアをヴァルア様に腕で押し戻されたからだ。
背後に立つヴァルア様が耳元で囁く。
「もう帰るの?」
「え、帰りますけど……」
「俺は帰したくないんだがね」
「どうして?」
「どうしてって……。分からないかな」
「分かりません」
ヴァルア様がうしろから僕を抱きしめた。この人は抱きしめるのが好きだな。毎回こんなことをされている気がする。
僕の肩にあごを載せ、ヴァルア様が盛大なため息を吐く。
「君に愛というものを教えてあげたいよ」
「愛……」
僕が愛情だと思っていたものは偽物だった。司祭様から一心に受けていたそれは、愛情に見せかけた欲情だった。
捨て子の僕は、両親からも愛情をもらったことがないし。
僕は愛というものを知らないまま、ここまで育ってしまったんだ。
僕はおそるおそる振り返り、ヴァルア様を見上げた。
「本当ですか……?」
「ん?」
「本当に、僕に愛というものを教えてくれるのですか?」
ヴァルア様は目を瞬いた。
「まさかここに食いつくとは」
「……僕をからかっただけですか」
「まさか!!」
珍しくヴァルア様が大声を上げたのでびっくりした。
それからは、尻尾を振る犬のように――大貴族相手に大変失礼なたとえだが――目を輝かせ、僕の手を握った。
「俺が君に愛を教える!!」
「本当ですね。約束ですよ」
「ああ!!」
「それじゃあ、僕は礼拝堂に戻ります」
「えっ」
「また明日、この時間に」
「あ、はい……」
僕はヴァルア様を残し、物置部屋をあとにした。
本当の愛とはいったいどんなものだろう。ヴァルア様はどうやって僕に愛を教えてくれるのだろう。
そんなことを考えていると、ずっと沈んでいた気持ちが少しだけ軽くなった。
次の日、約束の時間に物置部屋を訪れると、ちゃんとヴァルア様が待っていた。
「へえ。本当に来たんだ。やっぱり大貴族って暇なんですね」
「失礼なことを言うんじゃないよ。暇なのは俺だけさ。他のヤツらはいっつも忙しそうにしているよ」
ヴァルア様は、僕が入って来たばかりのドアを閉め、そのまま僕を抱きしめた。
どうしてだろう。ヴァルア様に抱きしめられるだけで下腹部に緊張が走る。
「……離れてください」
「どうして?」
「下腹部に不具合が」
「へえ」
ヴァルア様はニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んだ。そして、唇を重ねる。
「……っ」
不思議なことに、ヴァルア様とキスをしても吐き気を催さない。むしろ……なんというか……
「~~っ」
理解できない感覚に戸惑い、僕はヴァルア様を押しのけた。拒絶されたはずなのに、ヴァルア様は嬉しそうにニコニコしている。変な人。
「君さ、キス好きでしょ」
「すっ、好きとか嫌いとか、そういうものじゃないでしょう?」
「いや、そういうものだよ。君、キスしているときが一番嬉しそうだよ」
「どっ!? どこからそんな発想が!? あなた、僕にキスをして、二度押しのけられているんですよ!?」
「うん。だから、そのくらい嬉しいんだろう? 嬉しいというか、気持ちいいというか。だって――」
ヴァルア様の手が、そっと股間に触れた。
「ほら、勃ってる」
「!?」
おかしい。昨晩司祭様とキスをしたときは、勃起するどころか萎えてしなしなになってしまったはずだ。司祭様の舌の感触が不愉快で、儀式が終わったあとに吐いてしまったし。
僕は助けを求め、ヴァルア様を見上げた。
「ヴァルア様……僕の体はおかしくなってしまったようです……」
「ん? どういうことかな?」
「実は――」
僕が悩みを打ち明けている間、ヴァルア様はそれはもう楽しそうに耳を傾けていた。
「ちょっと! こっちは真剣に悩んでいるんですよ!! それもこれも全てあなたのせいなんです。どうにかしてくださいよ」
ヴァルア様の瞳には、哀れみと歓喜が入り混じる複雑な感情が滲んでいた。
「端的に答えを言おうか。答えは、君は司祭のことを生理的に受け付けなくなっているからというのと、俺に好意を寄せているからだ」
「? なぜキスに僕の感情が影響するんです?」
「なぜって、そういうものだからだよ」
よく分からない。そもそも僕がヴァルア様に好意を寄せているということもピンと来ない。
「……あなたとは、やはり会話が成り立っていない気がします」
「そうだね。俺もそう思うよ」
今日はこのくらいかな。あまり成果はなかった気がするが、仕方ないか。この人の言っていることがトンチンカンで話にならないし。
僕は腰掛けていたテーブルから下りた。ヴァルア様に背を向け、ドアノブに手を伸ばす。
「それでは、そろそろ礼拝堂に戻りますので――」
言葉が途切れたのは、開けたドアをヴァルア様に腕で押し戻されたからだ。
背後に立つヴァルア様が耳元で囁く。
「もう帰るの?」
「え、帰りますけど……」
「俺は帰したくないんだがね」
「どうして?」
「どうしてって……。分からないかな」
「分かりません」
ヴァルア様がうしろから僕を抱きしめた。この人は抱きしめるのが好きだな。毎回こんなことをされている気がする。
僕の肩にあごを載せ、ヴァルア様が盛大なため息を吐く。
「君に愛というものを教えてあげたいよ」
「愛……」
僕が愛情だと思っていたものは偽物だった。司祭様から一心に受けていたそれは、愛情に見せかけた欲情だった。
捨て子の僕は、両親からも愛情をもらったことがないし。
僕は愛というものを知らないまま、ここまで育ってしまったんだ。
僕はおそるおそる振り返り、ヴァルア様を見上げた。
「本当ですか……?」
「ん?」
「本当に、僕に愛というものを教えてくれるのですか?」
ヴァルア様は目を瞬いた。
「まさかここに食いつくとは」
「……僕をからかっただけですか」
「まさか!!」
珍しくヴァルア様が大声を上げたのでびっくりした。
それからは、尻尾を振る犬のように――大貴族相手に大変失礼なたとえだが――目を輝かせ、僕の手を握った。
「俺が君に愛を教える!!」
「本当ですね。約束ですよ」
「ああ!!」
「それじゃあ、僕は礼拝堂に戻ります」
「えっ」
「また明日、この時間に」
「あ、はい……」
僕はヴァルア様を残し、物置部屋をあとにした。
本当の愛とはいったいどんなものだろう。ヴァルア様はどうやって僕に愛を教えてくれるのだろう。
そんなことを考えていると、ずっと沈んでいた気持ちが少しだけ軽くなった。
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