【完結】【R18BL】彼女いない歴=年齢の俺、オネエに恋を学ぶことになりました

ちゃっぷす

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第二章

第十五話 ベロベロ、パンイチ、でもあたたかい夜

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 Bar Sugar Velvetで繰り広げられる怒涛のやりとりを眺めているだけで、あっという間に時間が経っていた。
 ふと我に帰った頃にはもう夜中の三時を過ぎていた。どうりで目がショボショボするわけだ。

 しこたま飲んだ伊吹さんは、ベロッベロに酔っぱらっていた。
 ジュン姐とげらげら笑ったり、俺にウザ絡みしたりと、ものすごくうるさい。というかいつもより声が野太い。

「伊吹さん。素の声出ちゃってますよ」
「あぁぁ~ん? うるさいわねえ~!! それが何!? なんか文句あるのぉ~!?」
「いえ、別に……」
「これもあたしなのぉ~!! あたしがあたしでいて悪い~!? ねえ、むっちゃん!!」

 そう叫んだあと、伊吹さんがカウンターに突っ伏して寝落ちした。
 ふむ。酔うとだいぶ鬱陶しいなこの人。

 ミラさんが伊吹さんをチラッと見てから、俺に耳打ちする。

「珍しい。伊吹が酔いつぶれるなんて」
「そうなんですね」
「送ってく。睦くんもそろそろ帰りなよ」
「そうですね。それじゃ……。あ、お代は……」
「君の分は私と伊吹とジュン姐で出しとくから、気にしなくていい」
「ええ……そんな……」

 俺が財布を取り出すと、ミラさんはうんざりした顔でため息をついた。

「学生がカッコつけない。私たちはお金に困ってない。君は?」
「ぐぅ……。す、すみません……」
「そういうときは、〝ありがとう〟って言う」
「あ、ありがとうございます……」
「ん」

 ママとジュン姐に見送られながら、俺たちは店をあとにした。
 酔いつぶれた伊吹さんに、俺とミラさんが肩を貸す。伊吹さんは自分の力で歩けないようで、ほぼ引きずられていた。

 ミラさんがタクシーを拾い、運転手に住所を伝える。
 目的地には十分ほどで到着した。ここが伊吹さんの暮らしているマンションらしい。

 ミラさんが俺に降りるよう合図する。

「部屋まで連れてってあげて。伊吹の部屋は八〇七号室。カードキーは伊吹の鞄の中」
「は、はい」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい……」

 俺の住んでいるボロ学生マンションとは全然違う。きれいでおしゃれだ。
 俺は伊吹さんを引きずり八〇七号室に向かった。
 玄関のドアを開けると、ふわっと良い香りが漂う。

「伊吹さん。家着きましたよ。歩けます?」
「んぇぇ……ん……ぅぇ……」
「何言ってるかさっぱり分からないです。……は、入りますよ」

 うわぁ……他人の家に入ったのなんてはじめてだ。明かりをつけると――
 床中に服が散らかっている、ちょーっと汚い部屋が見えた。テーブルの上には、デパ地下で買ったのであろう空の惣菜容器と、ビールやチューハイの空き缶がいくつか残っている。この人どんだけデパ地下惣菜と酒が好きなんだ。
 ベッドは整えられておらず、かけ布団がぐしゃぐしゃになっている。どんな寝相なんだってくらい、変な位置に枕があるし。

 俺は伊吹さんをベッドに寝かせてから床にへたりこんだ。伊吹さん、細身に見えてけっこう重ぇ……! 疲れた……!

「んぇ……? ベッド……?」

 伊吹さんが呂律の回らない声でそう言ったのが聞こえた。
 それからモゾモゾと体を動かす音が聞こえ――

 ポーン、とズボンが宙を舞った。

「……え!?」

 びっくりして振り返った俺の顔面に、長袖が叩きつけられる。

「ちょっ、なにすんですか!! ……って、なにしてんですか!?」
「んんん~……」

 パンツ一丁の伊吹さんが、気持ちよさそうに布団にくるまった。
 ああ……この人、パンイチで寝る派なのか……。うちの父さんもそうだったわ……。

 自称女子の裸を見るのは気が引けるので、さっさと帰ろうとしたのだが。
 散らかっている部屋を片付けてからにすることにした。
 値段は分からないが、バーで飲むのってきっと高いんだろう。おごってもらったんだから、ちょっとはお返しをしないと……と思ったのだ。

 俺は床に散らかった服を畳みつつ、部屋を見回した。部屋の隅にルンバがいる。こんなに床に物が置いていたら、あいつが活躍することもできないじゃないか。せっかく良いものを持っているのに、もったいない。
 それから空き缶や空容器をまとめ、キッチンに置いた。水場はびっくりするくらい綺麗にしている。料理好きか、全く料理をしないかのどちらかだな。たぶん後者だ。

 伊吹さんって……案外ポンコツなのかもしれない。
 そっちのほうが親近感が湧いて、ちょっと嬉しくなった。

「おじゃましましたー……」

 俺が家を出たころには、伊吹さんはすっかり夢の中だった。
 散らかった部屋は、きっと毎日が忙しいからなんだろうな。
 酒をたくさん飲むのは、きっと他人には見えないストレスがいっぱいあるからなんだろう。

 伊吹さんにとって、今日が少しでも楽しい一日だったらいいな。
 そして目が覚めた時、きれいになった部屋を見て、ちょっとだけ嬉しくなってくれたらいいかもな。
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