【完結】【R18BL】彼女いない歴=年齢の俺、オネエに恋を学ぶことになりました

ちゃっぷす

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第七章

第五十七話 暑くてクサい夏祭り

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 夏祭り当日――

「夏祭りは浴衣一択!」と言って、伊吹さんが浴衣を用意してくれた。それだけじゃない。着付けとヘアセットまでしてくれた。

「青春、楽しんできてね!」

 満面の作り笑顔を浮かべた伊吹さんに見送られ、俺は動きづらい下駄に文句を垂れながら、待ち合わせ場所に向かった。

 待ち合わせ場所には、カササギくん、ヒナちゃん、マリちゃん、あと三人のいつものメンバーが待っていた。
 俺はカササギくんの元に駆け寄り、思わず叫ぶ。

「なんで私服なの!?」

 まさかの男で浴衣を着ているのが俺だけだという事実に驚愕した。
 カササギくんはケロッとこう答える。

「友だちと夏祭り行くのに浴衣なんて着ないだろ」
「友だちと行くから着るんじゃないの!?」
「いやいや……浴衣なんて彼女と行くときしか着ないって……」
「そんなもん!?」
「お前張り切りすぎだろ~あはは!」

 伊吹さん!? カササギくんはこう言っていますけど!? もしかしてこれジェネレーションギャップ発生してます!?

 浴衣姿をイジられて恥ずかしがっている俺のそばに、ヒナちゃんが近寄ってきた。

「似合ってるよ、睦くん」
「気を遣わなくていいよ……ごめんね、なんか俺だけ張り切ってて……」
「ううん。ほんと、似合ってる。それに見て。私も浴衣。おそろいだよー」

 ヒナちゃんは袖を掴んでパタパタさせた。薄ピンクの浴衣が似合っている。かわいいな、ヒナちゃん。そして優しい。

 女子組はみんな浴衣を着ていた。マリちゃんは濃い紺色のシックな浴衣だ。いつもより大人っぽく見える。他の子たちも色とりどりで、いやあ、眩しい。

 俺たちはのろのろと歩きだした。
 みんなのうしろをヨタヨタとついて歩いていると、さりげなくマリちゃんが隣にやってくる。
 ……ちょっと気まずい。マリちゃんも同じことを感じているようで俯いたままだ。

「……やほ」
「うん」
「今日来ないかと思った」
「なんで?」
「……私と会いたくないかなーって」

 意外と気にしいなんだな、マリちゃん。

「俺、マリちゃんのこと好きだよ」
「え」
「友だちとしてね」
「うん。……私も」
「だからお互い忘れよ」
「……そだね」

 マリちゃんはぎこちない笑みをちらっと見せてから、前を歩いている女子たちの元に戻っていった。
 ……これも青春の一ページなのかもなあ。

 夏祭り会場に到着して、俺はBar Sugar Velvetのみんながなぜあんなに現地を嫌がっていたのかを悟った。
 人が多い。うるさい。人ごみがすごすぎて、全く知らない人と腕が触れ合うほどの距離感だ。知らない女の人とぴったりくっついてしまい、その人の汗が俺の手首を濡らした瞬間、ぶわっとサブイボが立って倒れかけた。

 俺の異変に気付いたマリちゃんが、様子を窺う。

「睦? どうしたの?」
「マリちゃん……」

 俺はガタガタ震えながらマリちゃんの腕にしがみついた。

「知らない女の人の汗があ……」
「うわ、鳥肌やば。どうしたのそれ」
「俺女の人苦手で……触れちゃうとサブイボ立つんだよね……」
「いや、私にがっつりしがみついてますけど」

 確かにそうだな。ってか俺、この人にちんこ触られたし。おっぱい揉んだし。キスまでしたのに。そういえば、サブイボなんて立たなかったな。

「マリちゃんってほんとに女……?」
「いや、あんたが一番知ってるでしょ」
「じゃあなんで……?」
「さあ」

 マリちゃんがクスッと笑う。

「女じゃなくて、〝マリ〟っていう人として見てるんだよ、きっと」
「……そうかも」
「それ、けっこう嬉しいなあ」

 そう言われてみればそうだ。
 Bar Sugar Velvetの人たちも、マリちゃんも、ヒナちゃんも。いつの間にか「女の人」という枠から抜け出していた。だから普通に話せるようになったんだ。触れられてもサブイボが立たなくなっていたんだ。

「そっか。そういうことかあ」
「納得した?」
「うん。ありがと」
「もう大丈夫?」
「うん」

 俺はそっとマリちゃんから手を離した。なんだかさっきよりも視界が広くなった気がする。

「俺、マリちゃんとこれからも仲良くしたい」
「当たり前でしょ? ってかさっきそういう話で落ち着いたじゃん」
「マリちゃんと話したいこといっぱいあるんだ」
「うん、しよしよー! 私も睦に聞いてもらいたいこといーっぱいあるんだよ!」
「そういえば、彼氏とどうなったの?」
「それがさあ~、聞いてよ睦ー!」

 美味くもないヤキソバを食って、激安チョコソースをぶっかけただけのクレープを頬張って。
 なかなか進まない行列の一部になって、俺たちは真夏の夜の下を歩く。

 暑くてクサい。ほんとにそうだ。
 でも、この汗が伝う感覚も、古い油の匂いも、うるさい騒音も。
 俺はきっと、ずっと忘れない。青春の日の記憶として、おっさんになってもふと思い出すのだろう。
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