【完結】【R18BL】彼女いない歴=年齢の俺、オネエに恋を学ぶことになりました

ちゃっぷす

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第七章

第五十八話 上がる花火、散る花火

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 百均のシートを二枚敷いて、七人がぎゅうぎゅう詰めになって座る。
 俺の隣はヒナちゃんだった。

「もうすぐ始まるね」

 まだ打ちあがってもいないのに、瞳の中がキラキラしている。よっぽど花火が楽しみなんだな。

「あっ」

 夜空にポーン……と控えめな花火が一発打ちあがる。
 それからちょっと間をおいて、色とりどりの中玉花火が数発。

「おぉ~~!」

 知らない人たちの歓声の中に、俺の声も入り混じった。

 徐々に打ちあがるペースが上がってきて、連発花火や大玉が交互に次々と上がっていく。
 うわぁぁ……もったいない。一発ずつでいい。一発だけでも充分きれいなのに、前の花火が消える前にどんどん次の花火が上書きしていく。

 うわあ。ここ数カ月の俺みたい。
 東京に来てから、いろんなことがいっぱい起こって、処理できないうちにまた次のできごとが起こって。
 一生分の大きくてだいじなことを、もったいないくらいぎゅうぎゅう詰めにして経験した。

 たくさんの観客がスマホを夜空にかざして、画面越しに花火を見ている。思い出を残すために、本物の花火を見捨てて。変なの。でも、忘れるよりはいいのかな。

「睦くん」

 ヒナちゃんに声をかけられ、俺は花火から目を離した。
 ヒナちゃんはこちらにスマホを向けている。

「何してんの?」
「撮ってるー」
「花火撮りなよ、花火」

 ヒナちゃんはスマホに花火を映したが、目線はこちらに向いたままだ。

「きれいだね」
「うん」

 今、伊吹さんも遠くからこの花火を見ているのかな。きっと涼しいところで美味しいものを食べながら見ているんだろうな。どんな表情で花火を見つめているんだろう。うっとりしているのかな。それとも切ない顔をしているのかな。どっちも想像できる。来年はこの目で確かめたい。

 大玉花火が打ちあがるたびに、心臓にキックペダルを踏み下ろされたような低音が、ドォンと響き渡る。
 ちょっと胸が痛くなり、衝撃で死んでしまわないか心配になるけど……
 これは、この場所でしか経験できない感覚なんだと思うと、とたんに大切にしたくなった。

 最後の一発が打ちあがり、花火大会終了のアナウンスが流れる。観客が感謝を込めて拍手をしていた。そして幸せそうな表情で、さきほどの感動を友人や恋人と分かち合っていた。この場を去るのが辛いのか、自分の分身である生ごみをそこに残して。

 会場からの帰り、俺たちはイチョウ並木の夜道を歩いた。花火大会のメイン動線からは外れているのか、一気に静かな雰囲気になった。
 感動の余韻を分かち合いたいのか、近くの公園で休憩することになった。
 そんな中、ヒナちゃんが俺にこっそり耳打ちする。

「睦くん。ちょっといい?」
「いいよ。どうしたの?」
「ちょっと話があって」

 そう言って、ヒナちゃんは「ジュースを買ってくる」とメンバーに言い、俺を連れて公園を出た。
 二人きりになると、さらに雰囲気が静かになる。

 自販機を探して歩いてしばらくしたとき、ヒナちゃんが俺を呼び留める。

「睦くん。あのね」
「ん? どうしたの?」

 話しかけておいて、ヒナちゃんは何も言わない。口を開いても、言葉が出ない。
 どうした? いつもと様子が違うぞ。まるで女子を前にした俺のようだ。

 ヒナちゃんは深呼吸してから、たどたどしく話しはじめた。

「はじめて睦くんと話したときのこと覚えてる?」
「う……。お、覚えてる……けど、あんまり思い出したくない……」
「あのときの睦くん、カンジ悪くて。きらいだなーって思った」
「おうん……すみません……」
「でも、次の日、謝ってくれて……素直な人だなーって思った」

 どうした、ヒナちゃん? 突然走馬灯みたいな語りを始めて……明日引っ越しでもするのか?

「それから、ちょっとずつ、睦くんと一緒にいると落ち着くなあって思うようになって……」
「あ、俺も。ヒナちゃんといるとすごく落ち着く」
「……でね、それからちょっとずつ……その……」

 ここでまた言葉が止まった。
 ヒナちゃんが自分の唇を指でなぞる。

「その……」
「ゆっくりでいいよ。言いづらいなら、言わなくてもいいし」

 ヒナちゃんは首を横に振り、何度も深呼吸した。
 そして――

「……好きになっていたの」
「わー、ありがとう。俺もヒナちゃんのこと好きだよ」
「ううん、そういうんじゃなくて、その……」

 ヒナちゃんはきゅっと目を瞑り、やけくそ気味に声を張り上げる。

「恋愛として、睦くんのこと好きになったの!」

 ……え?
 恋愛の好き? ヒナちゃんが? 俺を?

「……恋愛の好きってなに……?」

 俺の一言に、ヒナちゃんがビクッと怯えた顔をした。俺は慌てて弁解する。

「違うんだ! 俺、恋愛の好きが全然分からなくて。ずっと知りたかったんだ。それってどんな気持ちなの?」
「えっと……えっと……」

 ヒナちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。

「一緒にいるとドキドキして……、でもホッとして、落ち着いて……。ずっと一緒にいたいって思うの……」
「それって友だちとどう違うの……?」
「その、えっと……。わたし、睦くんの特別な人になりたいなって……思ってる……」

 あれ? その気持ち、知っている。

「それが恋愛の好きなの?」
「私にとっては、そう、かな」
「そっか……」

 ヒナちゃん、そんなふうに思ってくれていたのか。全然気付かなかった。
 え。どうしよう。俺、なんて答えればいいの? どう言ったってヒナちゃんを傷付けてしまう。
 この場から逃げ出したくなった。ヒナちゃんを傷付けるのも、ヒナちゃんに嫌われることもいやだった。

 ヒナちゃんが、おそるおそる俺を見上げる。

「睦くんは、私のこと……どう思ってくれてるの……?」

 今度は俺が口をパクパクする番だった。
 選べる言葉が限られている上に、どれを言っても結末は同じだ。

 伊吹さんならどう答えるだろう。好意そのものには喜んで、でも最終的にはヒラリとかわしそう。
 じゃあミラさんなら? あの人はズバッと本音を言うタイプだな。
 ジュン姐なら? ママなら?

 ……俺なら、なんて答えるんだ?
 俺は、ヒナちゃんと真剣に向き合って、でもちゃんと素直な俺の気持ちを言いたい。

「ヒナちゃん。ありがと。嬉しい。でも……ごめん」
「……」

 俺、今まで恋愛の好きが何かあんまり分からなかった。
 でも、ヒナちゃんの話を聞いていて、思い当たる節があった。
 俺にもそういう人いるなあって。

「ヒナちゃんのこと、友だちとして好き」
「……」
「あと……俺、恋愛として好きな人いるんだ」
「……そっかぁ」

 ヒナちゃんは無理に笑った。

「当てていい? ……マリでしょ」
「えっ、違う」
「あっ、そうなの?」
「うん。違うよ」
「そっかあ」

 それからヒナちゃんと俺は、みんなが待っている公園に帰った。
 戻ってきたヒナちゃんを、二人の女子が取り囲む。するとヒナちゃんがその子たちに抱きついた。

 遠くでそれを眺めていた俺に、カササギくんが話しかけてきた。

「まじかー」
「なにが?」
「あー……まじかー……」
「だからなにが」

 カササギくんが俺を見ないまま、無表情で尋ねる。

「オッケーした?」
「えっ……な、な、なんの話」
「告られたんだろ?」
「なんでそのことを……」
「普通分かる」

 カササギくんはメンタリストかなんかなの?

「で、オッケーした?」
「ううん」
「……え!? まじ!?」
「うん。俺、付き合ってる人いるし」
「ええ!?」
「……恋愛として好きな人、いるし」
「いや、そりゃ付き合ってるんだったらそうだろうさ……」

 そう言ってから、カササギくんが深いため息を吐いた。

「そっかあ」
「さっきからなに?」
「いや……別に」
「なにそれ」
「俺、がんばろ」
「急にどうした?」

 カササギくんは、悲しんでいるような、喜んでいるような、複雑な表情を浮かべていた。
 それでちょっと、ピンときた。

「もしかして、前に言ってた本気で好きな子って……ヒナちゃん?」
「おまっ……おま、そういうこと言うなよ!!」

 そうだったのか。
 好きって難しいな。
 本気で好きでも、純粋に好きでも、叶わない好きがあって。
 でも、それで終わりでもなくて。ここから始まる好きもあるんだろうな。

 恋愛の好きは移ろうんだ。
 そう考えると、ふと不安になった。
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