むしょうのあい

池 尚穂

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8話「しあわせの壊れる音」

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 それでもよっちゃんとの暮らしは貧乏ながらも楽しかった。
 17歳の誕生日を迎えた日、親父が突然現れるまでは・・・

 よっちゃんの夜食の用意をしていると、ギィトン、ギィトン力なく足を引きずるような足音が
 ドアの前で止まり、コン・・コン、うちのドアを叩く音。

  「俺だ・・サチ(幸)、開けてくれ」
  聞き覚えのある親父の声、恐怖と嫌悪で体がこわばる。

  「嫌だ!帰れ!!警察呼ぶ!」
  『よっちゃんは仕事だし、初子さん・・』
  初子さんを呼ぼうとしたが、
  『親戚の葬式でいないんだ。それにみんなに迷惑かけたくない』

  「金をせびりに来たわけじゃないんだ。サチ(幸)開けてくれ・・一目でいいから顔を見せてくれ・・」
  昔と違い力ない声に、ドアを開けると、青白く痩せこけた親父が立っていた。

  「良江は?」
  「仕事に行ってる」
  「金を持ち出したしな。会わす顔がねえ・・・
   幸、一緒に来てくれねェか」

  「嫌だ!今まで10年間も放ってたくせに。また殴ったり蹴ったりするため?それとも売り飛ばすため!?!」
  怒りで今迄の事をぶちまける私。

  親父が詫びながら、急に泣き始め
 「これが最後の願いだ。頼む」
 「嫌だ、行きたくない!」
 「俺は・・・癌なんだ。 末期なんだ。こんな事言えた義理じゃないんだ。分かっている。でも、
 頼む一緒にいてくれ!ひとりで死にたくないンだ・・・」

 「よっちゃんは・・・」
 「良江には、悪いことした。これ以上巻き込みたくねェ」 
 涙を流しながら懇願する親父。
 『ここで見棄てたらよっちゃんに嫌われるだろうな。・・・それが一番嫌だな』
 私は よっちゃんに簡単な書き置きを残し、親父と出ていった・・・
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