君との恋の物語-Reverse-

日月香葉

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卒業-Reverse-4

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卒業式の次の日からの三日間が、一番きつかった。
派遣のバイトは思っていたよりもずっと重労働だった。
仕事の内容は、本屋から返品されて戻ってきた書籍を大きさ毎に別の箱に詰めてコンベアに流すだけ。これが結構きつい。
まず右側の下段のコンベアから流れてきたダンボールを自分の前に引っ張ってバーコードをスキャンする。それからダンボ―ルを開けて本を取り出し、左側のトレイに積み上げてボタンを押す。空いたダンボールは右側の上段のコンベアに流す。
単純だけど、重労働だった。
定時は8時半から17時だったけど、繁忙期の今は19時まで残業が当たり前だった。
残業の2時間が特にきつい。。腕も重くなるし、腰痛も出てきた。
もう少し。もう少し。そう言い聞かせて必死に働いた。
 
仕事を終えるころにはフラフラになり、帰りの電車でさぎりと電話の約束をして、何度も寝かけながら帰宅した。
帰宅後は真っ先に風呂に入り、約束通り21時ぴったりに電話を掛けた。
「もしもし」
『もしもし』
さぎりの声が、遠く感じる。それに、ものすごく久しぶりな気がした。
「大丈夫?」
『うん、けど、ちょっとしんどかった』
「そっか。どんな仕事なの?」
『ちょっとわかりにくいんだけど、コンベアから流れてきた本を大きさ毎に分けて箱に詰めていく仕事。一度お店に出て、売れずに返ってきた本なんだって。』
思い出すだけでもしんどかった。
「量が多くて辛かったの?」
『まぁ、そうかな』
一つ一つも重かった。
「そっか。頑張ったね。ほしいものが、あるんだっけ?」
『ありがとう。うん。どうしても、すぐほしいんだ。』
俺たちの特別な記念日の為にね。
「うん」
『さぎり』
「うん?」
『明日は、電話できるかわからないけど、明後日は、また電話していい?多分、今日くらいの時間』
「いいよ。待ってる。」
『ありがとう。電話できるなら、それまで頑張るよ。もう少し』
 だから。。あれ?俺今、喋ってるか?
 






 
どうやら、電話しながら寝てしまったらしい。自分から電話したいと言ったのに、悪いことをしてしまった。
こんなに疲れたのは生れてはじめてだ。それもあと二日。頑張ろう。
派遣が終わった次の日は入試の結果発表の日だ。そう考えると、重労働なのはよかったかもしれない。バイト中も、終わってから帰って眠るまでの間も余計なことを考えずに済む。
バイトは、ようやく慣れてきたというところが最終日になった。ものすごくしんどかったけど、いい経験になったと思う。お金を稼ぐ大変さを、少しだけ理解できた気がした。

 
 
 
バイト最終日、つまり入試結果が出る前日も、約束通り21時に電話をかけた。
「もしもし」
『もしもし』
疲れてはいたけど、明日はもうバイトがないと思うとかなり気が楽だった。
『大変だったけど、やってみて良かった。世の中にはいろんな仕事があるんだな』
これで、プレゼントができるぞ。

『さぎりは、私立は受かってるんだよね?』
「うん。一応ね」
それならまぁ、安心。。でもないか。
『まぁ、二人とも国立に受かればいいけど、行くところがあるのは羨ましいな。』
これは正直な気持ちだった。
『結果待ちのプレッシャーが怖くてバイトしてたのもあるんだ。』
これも。
「そっか。恒星でも、やっぱり怖いんだね。」
『当たり前だろう?受験生なんだから。』
いつでも落ち着いているように普段から心掛けているだけだよ笑
『明日の結果、俺からメールするよ』
「え?」
『決めておかないと、お互い連絡するタイミングに迷いそうだから』
『二人とも合格していたら、なにか美味しい物を食べに行こう。』
「うん。受かってるといいね。」
 
 
 
 
 
 
 
結果、二人とも合格していた。
少しあっけなく感じたのは、合格者一覧に自分の番号を見つけたほんの一瞬だけだった。
次の瞬間にはこれまでのことが走馬燈のように脳内再生された。志望校を決めた時のこと、夏のコンクールのこと、初めてのレッスン、さぎりに告白した日のこと、ケンカした日のこと、一人でひたすら勉強していた夜。
全てがランダムに再生されて、気付いたら視界が歪んでいた。そう、全てはこの瞬間の為。自分のやりたいことが見つかって、進路を決めて、ひたすら突き進んできた。辛いと感じれば、さぎりも同じ気持ちだと言い聞かせ、眠気とも疲れとも向き合ってここまできたんだ!そう、俺は、合格したんだ…!
涙は全然止まらないが、泣いてる場合じゃない!!こんなに嬉しいのは生まれて初めてだ!もっと喜ぼう!!思いっきり笑おう!!
そんな気持ちに反して涙は全然止まってくれない。いいか、今日くらい。思いっきり泣いても。
ありがとう。父さん、母さん。
ありがとうございます。先生。
ありがとう。さぎり。
そうだ、報告しないと。まずは…家族からかな。
一通りの報告を終えたらなんかスッキリしていたので、すぐに帰路についた。
というのもさぎりと会うことになったからだ。
さぎりは、宇都宮なので、俺より全然早くついてしまう。急がないと。

 

いつもの公園に着くと、やはりさぎりが先にいた。
『おまたせ』
声をかけると、さぎりは反射的に立ち上がった。
「んん。私も、今きたところ」
きっと俺に気を遣ったんだろう。ごめんな。
でも、今は。。
『合格、おめでとう。』
思いっきり抱きしめた。安心してまた視界が滲む。
『これで、来月から大学生だ。二人とも。』
どうにかこれだけは言えた。声は震えたけど。
「うん、合格、おめでとう。」
さぎりの言葉にもう我慢できなくなった。涙が止まらなくなった。
『ありがとう。さぎりがいなかったら、俺は合格できなかった』
本心だった。さぎりはどんな時でも俺を支え、受け入れてくれた。
「恒星は頭いいもん、きっと一人でも大丈夫だったと思うよ。でも、ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ」
さぎりは俺の頭を抱えるようにして抱きしめてくれていた。
これは。
また告白した時のことを思い出した。
「大好き」
『俺もだ。絶対に、離さない。来月から、別の学校だけど、絶対。』
途切れ途切れにはなってしまったけど、ちゃんと伝えられた。
「私も離さないよ。絶対。」
暖かい。この時間がずっと続いたらいいのに。
 
 
 
 
 
次の日からは、少々忙しかった。まず、バイトの面接。それからそのまま例の物を買いに行った。面接は特に問題もなく、その場で合格をいただき、2日後の夕方から出ることになった。夕方からなのは、さぎりとの約束があったからだ。本来ならバイト優先だろうけど、さぎりとの約束が先に入っていたのと、卒業して早々に派遣バイトに行ってしまったことの埋め合わせのつもりだった。。。のだが。。
さぎりもバイトが決まったようで、よりによって俺が夕方からバイトという2日間の昼間にバイトが入ってしまったらしい。流石にちょっと面白くなかったが、まぁ、バイトを入れたのはお互い様だから仕方ない。か。
記念日を前に揉めたくなかったので、引き下がった。その日だけは思いっきり楽しみたいからな。今回のことはもう忘れよう。



記念日当日。この日もさぎりが先に待っていた。
そして俺の姿を見つけると、いきなり。
「この間はごめんね。。約束してたのに。」
やっぱり気にしていたのか。。あの時、引き下がってよかった。
『んん、大丈夫。結局は、俺もバイトになっちゃったしな。それよりさ、気にしなくていいから今日を思いっきり楽しもうよ!!』
その為に、色々用意してあるぞ!
「うん、ありがとう!」
まずは池袋にある水族館へ。栃木には海も水族館もないので、どうしても行っておきたかった笑
お昼は事前に調べておいたレストランへ。価格はリーズナブルだけど、結構本格的なチーズを使った料理が有名なお店のようだった。チョイスは正解だった。味も香りも最高だった!
それから、池袋にきたら一度は見ておきたかった東京芸術劇場へ。すごい迫力だった。
いつかこんな大きなホールで演奏してみたいな。。
最後にお茶して、遅くなるといけないから今日はもう帰ろうと言い出した。
さぎりは意外そうな反応だったけど、了承してくれた。まぁ、そりゃそうだよな。早すぎるもんな。
けど、最後のサプライズはこれからだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最寄りに着く、本当に少し前。前の駅を出てすぐくらいのタイミングで
『さぎり、まだ時間大丈夫?』
一応聞いてみた。
「大丈夫だよ?」
だよな笑
それなら
『そうか。少しでいいから、ハーベストに行かないか?』
「いいけど、どうしたの?」
『ん、行けばわかるよ。』
まだ気づかない、か笑
 
 
 
 
ハーベストの敷地の一番奥にある電気屋の駐車場にまっすぐに向かう。
流石に気づいただろうか。。?
『さぎり。ちょっと話がある。』
真剣に聞いてほしい。
「うん。」
『ここで告白したのも、ちょうどこのくらいの時間だったな。あれからもう、二年だね。』
「うん。」
二年。。つまり、高校生の間をほとんど一緒に過ごしたことになる。
『一年の時は、あんまり特別なお祝いをできなくてごめん。』
その代わり、今回は半年以上時間をかけて用意したよ。
「そんなの、気にしてないよ?それに、記念日は二人のものでしょう?」
さぎりならそう言ってくれると思っていた。でも
『うん。だけど、今回はちゃんとお祝いをしたかったんだ。その為には、どうしてもすぐにお金が必要で、それで派遣に出た。』
この意味がわかるかな?そう、全てはこの日のために。
『さぎりにこれを、受け取ってほしい。』
薄いピンク色のクロスで包まれた、小さな箱を取り出した。
「え、これって。。」
『うん。』
そう言って箱を開けた。
お店に選びに行った時、一際目を引いたのがこのペアリングだった。
ちょっと高かったけど、即決だった。
 
さぎり?泣いてるのか?
 
『泣くことないだろ?』
 
もらい泣きしそうになったが、意識して笑顔でいることにした。
「だって、だってぇ。。」
さぎりの頭に手を乗せた。
『さぎりに似合いそうな指輪を、一生懸命探したんだ。』
『この指輪を見つけた時、すぐにこれだ!って思った。さぎりを好きになった時の気持ちに似てて、その瞬間には、もう決まってたよ』
すると急に抱きつかれた!
「ね、大好きだよ!ありがとね!バイト、大変だったのに、ありがとね!」
さぎりがわんわん泣いている。大変だったけど、頑張ってよかった。
『ありがとう。こんなに喜んでくれると思わなかったよ。』
しばらくはそのまま抱き合っていた。さぎりの背中をさすりながら、幸せを感じていた。
 
夕日が沈むのを見て、歩き出し。
今まではなかったお揃いの指輪を着けて。
まだ馴染まないけど、指輪の感触が誇らしかった。

「ねぇ、どうして私の指のサイズがわかったの?」
やっぱり気づいてなかったか笑
『あぁ、それはね、』
「それは?」
『秘密。』

「なんでよ!」
久しぶりに意地悪してみた笑
『嘘だよ。香水買いに行った時だよ。雑貨屋さんで、指輪を手に取ったでしょ?』
『あの時、着けたリングのサイズをさぎりに見られないようにチェックしてたんだ。香水が欲しかったのは本当だけど、一番の目的は、指のサイズだった』
そう、全てはこの日のために。
今日は最高にいい日になった。
ありがとう、さぎり。
来年も、再来年も、こんな風に過ごせたらいいな。。
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