君との恋の物語-Blue Ribbon-

日月香葉

文字の大きさ
13 / 21

Aブラス

しおりを挟む
『木管楽器は、この部分は特に音色を大事にしてもらいたい。音量で勝負するんじゃなくて、木管らしい音でお願いします。今のバランスでいくとサックスが少し大きいので、抑えてもらいたい。自分たちのところでもちゃんとクラが聞こえる音量で。ではもう一度Dから』

11月最後の火曜日。この日から、Aブラスのリハーサルが始まった。

指揮をしてくださっているのは、客演指揮者の中野先生。

Aブラスはうちの大学の名物なので、リハーサルの回数も、プロの環境に近づけるために少なく、指揮者も必ず客演を呼ぶ。

私はもちろん、先輩達も初日はすごく緊張するって言ってた。

今回の指揮者の中野先生は、ユーモアもあってすごく面白い先生。だけど、指揮はすっごく分かりやすくて、なんていうか、自分達の実力以上の演奏に【導かれる】ような感じ。

指揮を見てると、演奏も誘導されるっていうか、【正解が見える】って感じかしら。

『小太鼓!』

先生が合奏を止めて急に叫んだ。

え…小太鼓って…恒星じゃ

『さーし!!!』

この言葉で合奏場にいた先生方は全員爆笑。学生はホッと一息をついた。

私は、先生のおっしゃった言葉の意味がわからなかったんだけど、悪い言葉じゃなさそうだったので安心した。

後で先輩から聞いたんだけど、この【さーし】という言葉は【すばらしい】っていう意味みたい。

すごいな、恒星。初日のリハーサルで名指しで誉められるなんて…。

私も頑張ろう。

その後も先生からの的確な指示とユーモアのあるお話で本当に楽しいリハーサルだった。

リハーサルは残り2回。さらに当日のゲネプロと本番。

今日のこと、しっかり忘れないようにしなきゃ。





片付けも終わったので、学校の図書館でリハーサルの復習をすることにした。

楽譜に咄嗟にメモしてたことを綺麗に書き直す。後で見返した時に意味がわかるように。

復習自体はすぐ終わったんだけど、せっかくだから、もう少し曲の勉強をしていくことにした。

スコアを開いて読み返す。

練習番号や、場面ごとに区切って、情報量が多いページは特によく読んでおく。

んん?ここなんだろ、臨時記号がいっぱい入ってる。

あぁ、そっか、転調するところだ!

なるほど、複雑に見えるけど、ちゃんと分かりやすい法則の上で調が変わっていくんだ。

面白い!やっぱり音楽て面白い!

って思って次のページを読もうとしたら、肩を叩かれた。

驚いて振り返るとサックスの同級生、橋本恵(あだ名はめぐ)がいた。

「あぁ、めぐ!どうしたの?」

めぐは、トランペットの高橋君と最近付き合い始めた子(詳しくはBlue Ribbon8話、mutual affection6話参照)

『すっごい楽しそうだね!何読んでるの?』

「あ、これ?スコア!吹奏楽の」

すると、目を大きくして

『結ちゃんて真面目だね!それ、Aブラスの曲でしょ?』

「真面目かな?うん、そう!今日リハだったから!」

『そっかそっか、ごめん、邪魔しちゃって。またね?』

そう言って手を振りながら去っていった。

ん?めぐはなんで図書館にいたんだろ…?

まぁいいか。

さて、続き続き!

そう言えば、転調する時ってティンパニってどうなってるんだろ?

和声で考えればバスな訳だから…

あ、やっぱり。臨時記号ついてる。

普通に行ったら4音じゃ全然足りないし、ここなんか1小節の中でも5音出てくる。。

んーこれって…?




『ん?あぁ、この場合は叩きながら音替えするんだよ』

ってサラッと言うけど、それってすごく難しいんじゃ…?

「へー!どうやって?」

あ、もちろん会話の相手は恒星。図書館で考えててもわからないからすぐ電話しちゃった。

そしたら、ちょうど練習してるっていうから打楽器室にお邪魔している。

運良く、今日は打楽器室には誰もいないみたいで、その場でレクチャーしてくれた。

『まず、前の小節の4音を作って、下2音はそのまま。』

うんうん。

『で、上はDとEにしておいて、Dを叩いたらペダルで半音上げてEsを叩いて、E』

え?何今の。正面から見たら同じティンパニを2回叩いただけなのに、音だけは半音上がった!

『この時に大事なのは、叩く瞬間にペダルを踏むこと。ペダルの方が早ければ叩く前にグリスタンドになるし、遅ければ叩いた後にグリスタンドになっちゃうからね。』

なるほど。確かに叩く瞬間にペダルを踏み込んでいることがわかった。

でもこんなの、曲中にこんなに正確にできるって、打楽器の人ってすごいのね。

「すごい!神業ね!」

素直な感想を言うと、恒星はすこし照れたような顔になった。

かわいいw

『まぁ、神業ってほどじゃないけど、合奏中、ここ演奏してて違和感なかっただろ?ってことは、増田先輩が上手いってことだね。』

そっか。今回1位通過は増田先輩だったんだ。

うん。全く違和感なかったな。恒星もだけど、やっぱり増田先輩ってすごいんだな。

「そっか!増田先輩すごいね!ありがとう!邪魔してごめんね」

そう言って打楽器室を出ようとすると、ちょうど入ろうとしていた人とぶつかりそうになった。

!!

「すみません!失礼しました!」

相手も大変驚いた模様…。でも、すぐに表情を崩した。

『こちらこそ。大丈夫?』

「大丈夫です。すみません、お邪魔しました!」

すっごい綺麗な人だった…あの人は確か、

鈴木、先輩…?

なんだろ、あの人、あんなに綺麗だったっけ…?

あれじゃまるで…。

まぁ、いいか。

結構いい時間だし、どっか空いてる教室見つけて練習しよ。

幸い、空いてる教室はすぐに見つかったので、学校が閉まるまで練習することにした。

Aブラスの復習からブラスの授業の予習まで、意外とがっつり練習できた。

今日は収穫の多い日だったな。

帰ろっかな。

練習中ずっと放置していた携帯を見ると、めぐからメールが来ていた。

【結ちゃん、今日は何時くらいまで学校にいる?よかったら、帰りにちょっと話さない?】

ん?なんだろ。メールが来てたのは、30分前くらい。とりあえず返信しよう。

【ごめん、今気付いた。これから帰るけど、まだ学校にいる?】

すると、すぐ返信。

【いる!正門にいるね。】

待ってたのかな?急いで行こう。






「ごめん、おまたせ。」

めぐは、コートを着て更にマフラーをしてもまだ寒そうにしていた。

『んん、こっちこそ急にごめんね』

それは全然いいけど。

「行こっか。」

めぐは東京出身だから一人暮らしだけど、駅の方に住んでるので方向は一緒だった。

なんとなく一緒に歩き出したけど、めぐは何か言いたそうにしながらも切り出せないみたいだった。

「なんか、あった?」

立ち止まって、涙ぐむめぐ。ちょっと!

「どうした?」

すぐに答えられるような状態じゃなさそうなので、とりあえず通り沿いにあった公園のベンチに連れて行って並んで座った。

『ごめんね。』

いや、全然いいけど。

「どうした?」

『私、恋愛に向いてないかも。』

はい?

「なんでまた」

『この間ね、賢治君に、』

賢治?あぁ、高橋君か。

『家に来たいって言われて、それ自体は全然良かったんだけど、なんか、』

『その後どうなるんだろって考えたら、ちょっとこわくなっちゃって。』

あぁ、なるほど。めぐは、男性経験がないんだ。

『断ったら、賢治君は怒ってなかったんだけど、なんか、すごい悲しそうな顔してて。』

優しいんだな。2人とも。

『その日は、そのまま帰っちゃって。私、なんて言ったらいいかわかんなくて。』

「そっか。」

『学校でも、顔合わせにくくて。』

それは、考えすぎな気もするけど。まぁ、気持ちはわかる。

けど、こういうことは本人達が向き合って話すしかないと思う。

「2人とも優しいんだね。」

めぐがこっちを向く。

『え?』

「なんか、めぐの話を聞いてると、お互いに気持ちを先読みし過ぎてるんじゃないかと思うのよね。」

めぐは、黙って聞いていた。

「でもそれって、お互いのことを想ってる証拠だと思うんだ。けど、直接言わないと伝わらないこともあるんだよ。なにも怖がることないよ。高橋君も怒らなかったんなら、それはめぐの気持ちを尊重しようと思ったんだと思う。でも、どういう気持ちかわからないから、悲しかったんじゃないかな?」

『私、どうしたらいい?』

簡単よ!

「話し合ったらいいと思う。ちゃんと会って、思ってること全部言ってみたら?高橋君だって、わからないよりずっといいと思うよ?」

『そうかな?』

「そうだよ!女の子の初めてって、すごく大事なことだもん。それは、男の子だってわかってると思うよ。」

まぁ、その点私の決断はすっごい早かったけど。(Blue Ribbon6話参照)

こう言うことは、人それぞれ。私は付き合う前から覚悟を決めていたっていうだけ。

『うん。私、賢治君と話してみる。このままじゃ居られないし。』

「うん!大丈夫だよ!相手は彼氏なんだもん。わかってくれると思うよ!」




すっかり泣き止んだめぐを送って、電車に乗った。

今日は、長い1日だったな。

でも、充実してた!Aブラスはレベル高いことがよくわかったし、勉強して、練習して、楽しかったな。

明日からまた頑張ろ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...