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そこに立っていたのは長い巻髪ツインテールの女子生徒だった。なぜか軍帽を被り、手には乗馬用の鞭を持っている。
これもまた学校の中では一躍有名な弓原ノエルである。風紀委員会の委員長であり、その乗馬鞭で散っていた生徒の数は計り知れない。なぜか風紀を正すという大義名分さえあれば暴力が容認されている。警察が拳銃を所持しているのと同じ理由であるが、なぜ腕章の他に軍帽を被っているのかは謎である。
海常臨高校の恐怖の象徴として君臨していた。だが一部の男子生徒には密かな人気を博しているらしい。
「どうせいくら電話したって出ないわよ」
「なぜあなたにそんなことが言えるの? 副会長はずっと私の隣にいたのです。あなたになんか分かりっこないわ」
「それが昔からの悪い癖よ。星美は真っすぐすぎるのよ。どこまでも正直で、真面目でそれでいて誰よりも強い。だけどね人間は星美みたいに皆、聖人君主じゃないのよ」
青橋の砕けたような喋る方。いつもに比べて角が取れ、気品で塗り固められたガードが少しだけ緩んでいる。
それもそのはず、この二人は幼馴染であるのだ。小学校からの付き合いで、男を寄せ付けないことで名が知られていた。
ノエルはそう言うと、二歩三歩歩いた。そして空を見つめながら言う。
「確か学校の規定で部活の発足は会長の署名又は副会長の署名が必要よね。『バンキシャ部!』だっけ、あの承認の署名って誰がやったの?」
言葉に詰まる青橋。バンキシャ部がいまこうやって活動していることを摘発できないのは学校に提出された申請書にある。
「つまりさぁ、あんたが慕っているその副会長は裏切ったんだよ……」
「ノエル!」
青橋は凄い形相でノエルの胸倉に掴みかかる。他の生徒には決して見せない表情だった。
「星美もお人よしよね。あたしだったら罰を与えた後、クビにするけど」
「これ以上言ったら、例えあなたでも許しませんよ」
「分かったわ。もうこのことについては言わない」
ノエルから手を放し、落ち着きを取り戻す青橋。
「でも最後に一つだけ言わせて、星美のその太陽のような真っすぐさも時にはその灼熱で火傷させてしまうことがあるということに」
返す言葉ないとはこういうことか。何となく気が付いていた事実から目を逸らしたいがために電話をかけて真実を聞きたかった。赤頭のいつも通りの声が聞きたかった。
心配をしているという言い訳を持って、その本質はただただ杞憂であってほしいという願望からだった。
スマホを持った腕がだらりと垂れ、膝に手を突いてうなだれる。
その肩を叩いたノエルが最後に言った。
「元気出しなよ、センスのいいパンツ履いてるんだし」
「ノエル!!」
いつもは気品に振舞う生徒会長だが、幼馴染の前だとどこにでもいる女子高生に戻る。だが無邪気に追いかける青橋の心には拭いきれないしこりが残っていた。
新設された部室。
カビもなくホコリも無い。
これが部活か。アニメ部の時のような何の目的もなく、自堕落な生活を送っていた時からは一転、三人は忙しくなっていた。だがそんな忙しさをも心地よく感じる部室の環境。そして記事が全校生徒の関心を奪うという優越感。
ここでその完璧な設備の一端を紹介しよう。
まずは一人一台のノートパソコン、そしてふかふかのソファ、さらにはコピー機やプリンター、そして大きなホワイトボードにプロジェクター、最後に部室の一番目立つ位置に置かれた三角木馬。
三角木馬!?
「おい、岩寺なぜこんなものがなぜ部室にあるんだ」
「これは僕の椅子です」
そう言って、三角木馬に跨る岩寺。気持ち悪い声を上げながら体をよじっている。
「普通の椅子に座れ、普通のな!」
三角木馬の側面を蹴り倒す雷伝。岩寺を乗せた三角木馬はそのまま横に倒れた。さらなる奇声を上げるその様は虫に似ている。
一風はもう見向きもしない。
「そんなことしていないで仕事しろ!」
「まぁ仕事はしているのですがね」
岩寺はノートパソコンを立ち上げる。
「僕がバンキシャ部のホームページを作りました」
「エロサイトじゃないだろうな」
「僕がそんなものを見せたことが在りますか?」
確かにブレッドⅡも名称と制作過程は最低だが、かなり使えたソフトだった。それなら今回も制作秘話は置いといて期待できる。腕を組み、パソコンを覗き込むと、画面にピンクと黒の背景の怪しげなホームページが広がった。
それに続き、一風も雷伝の隣から顔を出した。
確かにバンキシャ部とは書かれているが、どう見てもいかがわしいサイトである。
岩寺は飄々とページをスクロールさせた。
「これがメンバーの紹介ページとなっております」
「これお前が載ってないじゃないか」
「僕はヒラなので、一応部長と副部長のお二人を載せた形を取らせていただきました」
「そういうことか」
納得し、まじまじと画面を見つめる雷伝。するとおかしな点に気が付いた。
「ちょっと待て、なぜ顔の下半分がモザイク加工されているのだ?」
「これは個人情報の流出を防ぐためです」
「ではこれは何でありますか」
メンバーの写真の下には漢字ではなく下の名前だけが平仮名で書かれていた。「みちる♡」と「ともり♡」
どう考えてもこの「♡」は要らない気がする。
「これも個人情報の流出を防ぐための手段ですね、最近何かと物騒ですから」
「じゃあこれも個人情報だよな」
雷伝が指さしたところには二人のスリーサイズが記載されていた。
「これは重要なので書きました」
「ふざけるな!!」
努力虚しく殴られる岩寺。三角木馬と共に部室を追い出された。
これもまた学校の中では一躍有名な弓原ノエルである。風紀委員会の委員長であり、その乗馬鞭で散っていた生徒の数は計り知れない。なぜか風紀を正すという大義名分さえあれば暴力が容認されている。警察が拳銃を所持しているのと同じ理由であるが、なぜ腕章の他に軍帽を被っているのかは謎である。
海常臨高校の恐怖の象徴として君臨していた。だが一部の男子生徒には密かな人気を博しているらしい。
「どうせいくら電話したって出ないわよ」
「なぜあなたにそんなことが言えるの? 副会長はずっと私の隣にいたのです。あなたになんか分かりっこないわ」
「それが昔からの悪い癖よ。星美は真っすぐすぎるのよ。どこまでも正直で、真面目でそれでいて誰よりも強い。だけどね人間は星美みたいに皆、聖人君主じゃないのよ」
青橋の砕けたような喋る方。いつもに比べて角が取れ、気品で塗り固められたガードが少しだけ緩んでいる。
それもそのはず、この二人は幼馴染であるのだ。小学校からの付き合いで、男を寄せ付けないことで名が知られていた。
ノエルはそう言うと、二歩三歩歩いた。そして空を見つめながら言う。
「確か学校の規定で部活の発足は会長の署名又は副会長の署名が必要よね。『バンキシャ部!』だっけ、あの承認の署名って誰がやったの?」
言葉に詰まる青橋。バンキシャ部がいまこうやって活動していることを摘発できないのは学校に提出された申請書にある。
「つまりさぁ、あんたが慕っているその副会長は裏切ったんだよ……」
「ノエル!」
青橋は凄い形相でノエルの胸倉に掴みかかる。他の生徒には決して見せない表情だった。
「星美もお人よしよね。あたしだったら罰を与えた後、クビにするけど」
「これ以上言ったら、例えあなたでも許しませんよ」
「分かったわ。もうこのことについては言わない」
ノエルから手を放し、落ち着きを取り戻す青橋。
「でも最後に一つだけ言わせて、星美のその太陽のような真っすぐさも時にはその灼熱で火傷させてしまうことがあるということに」
返す言葉ないとはこういうことか。何となく気が付いていた事実から目を逸らしたいがために電話をかけて真実を聞きたかった。赤頭のいつも通りの声が聞きたかった。
心配をしているという言い訳を持って、その本質はただただ杞憂であってほしいという願望からだった。
スマホを持った腕がだらりと垂れ、膝に手を突いてうなだれる。
その肩を叩いたノエルが最後に言った。
「元気出しなよ、センスのいいパンツ履いてるんだし」
「ノエル!!」
いつもは気品に振舞う生徒会長だが、幼馴染の前だとどこにでもいる女子高生に戻る。だが無邪気に追いかける青橋の心には拭いきれないしこりが残っていた。
新設された部室。
カビもなくホコリも無い。
これが部活か。アニメ部の時のような何の目的もなく、自堕落な生活を送っていた時からは一転、三人は忙しくなっていた。だがそんな忙しさをも心地よく感じる部室の環境。そして記事が全校生徒の関心を奪うという優越感。
ここでその完璧な設備の一端を紹介しよう。
まずは一人一台のノートパソコン、そしてふかふかのソファ、さらにはコピー機やプリンター、そして大きなホワイトボードにプロジェクター、最後に部室の一番目立つ位置に置かれた三角木馬。
三角木馬!?
「おい、岩寺なぜこんなものがなぜ部室にあるんだ」
「これは僕の椅子です」
そう言って、三角木馬に跨る岩寺。気持ち悪い声を上げながら体をよじっている。
「普通の椅子に座れ、普通のな!」
三角木馬の側面を蹴り倒す雷伝。岩寺を乗せた三角木馬はそのまま横に倒れた。さらなる奇声を上げるその様は虫に似ている。
一風はもう見向きもしない。
「そんなことしていないで仕事しろ!」
「まぁ仕事はしているのですがね」
岩寺はノートパソコンを立ち上げる。
「僕がバンキシャ部のホームページを作りました」
「エロサイトじゃないだろうな」
「僕がそんなものを見せたことが在りますか?」
確かにブレッドⅡも名称と制作過程は最低だが、かなり使えたソフトだった。それなら今回も制作秘話は置いといて期待できる。腕を組み、パソコンを覗き込むと、画面にピンクと黒の背景の怪しげなホームページが広がった。
それに続き、一風も雷伝の隣から顔を出した。
確かにバンキシャ部とは書かれているが、どう見てもいかがわしいサイトである。
岩寺は飄々とページをスクロールさせた。
「これがメンバーの紹介ページとなっております」
「これお前が載ってないじゃないか」
「僕はヒラなので、一応部長と副部長のお二人を載せた形を取らせていただきました」
「そういうことか」
納得し、まじまじと画面を見つめる雷伝。するとおかしな点に気が付いた。
「ちょっと待て、なぜ顔の下半分がモザイク加工されているのだ?」
「これは個人情報の流出を防ぐためです」
「ではこれは何でありますか」
メンバーの写真の下には漢字ではなく下の名前だけが平仮名で書かれていた。「みちる♡」と「ともり♡」
どう考えてもこの「♡」は要らない気がする。
「これも個人情報の流出を防ぐための手段ですね、最近何かと物騒ですから」
「じゃあこれも個人情報だよな」
雷伝が指さしたところには二人のスリーサイズが記載されていた。
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