死に別れた縁と私と異界の繋

海林檎

文字の大きさ
5 / 61

しおりを挟む
 むぎに連れてこられた場所は

「ここは妖だけが住まう魂迷町」

 魂が迷う町。
 響きが怖いと思った結は町の出入口の前で顔がひきつっていた。


「······ハロウィンの仮装とかじゃないんだよね?」

「ハロウィン?異国のなにか??」


 この世界にはハロウィンと言う概念はないようだ。

 町の中にいるのはどれも人とは違う姿の見た事もないものばかりだった。

 彼らからすれば結の方が珍しい客人だろう。


「人間?」

「何で人間が?」



 すれ違う度に物珍しそうな目で誰しもが結を見る。

 その視線がどれも居心地が悪くむぎに抱かれたままの結は体を強ばらせていた。


「ついたよ」

 ここがこの町を仕切っていると言う長がいる屋敷だとむぎが言う。

 しっかりした作りの大きな木造の門が目の前に見える。
 正面からではなくむぎは裏手に回って裏口のドアに入っていく。


「長に会いに来ました」

 玄関に入って中にいる首の長い妖にむぎは結を見せれば「あら、大変」と、直ぐに屋敷の中を案内された。


 案内された場所は二階の応接間。


 首の長い妖····ろくろ首は「長を呼んできますので暫くお待ち下さい」と、言って部屋から出て行った。


「私、お茶貰ってくるね」

 むぎは椅子から立ち上がりそそくさと飲み物を貰いに出ていき、応接間の中には結一人だけが取り残されてしまった。



「人間だ」
「人間の女の子だ」


 応接間から覗いてくるのは小さな男の子と女の子。
 三歳くらいに見える物珍しそうな目で見てくるその顔が可愛らしい。



 この子達も妖か何かだろうか。


 バッチリ目があって結はニッコリ笑えば子供達はパァァッと目を輝かかせて応接間に入ってきた。



「人間さん。飴ちゃん食べる?」

「甘いお花で作った美味しい飴ちゃん」

 はいっと女の子の方の小さな手からは紙に包まれた花の形をしたピンクの可愛らしい飴が乗っていた。

「くれるの?」

「うん!美味しいよぉ」

「ありがとう」

 紙の上の飴をヒョイッと摘み食べれば味わった事の無い甘さが口の中に広がった。
「美味しい」と、笑顔で言う結とニコニコ顔の女の子。


「····あーあ。食べちゃった」

「え?」

「食べちゃった食べちゃった!」

 まるで悪戯が成功した様に嬉しそうに笑う男の子。




 食べてはいけないものだったのだろうか。




「·······お前ら何してんだ?」








 ----ぇ?






 扉から聞こえた声に反応し結は顔を上げる。



「あ、長だ」

「逃げろー!」


「また何か悪戯でもしたのかねぇ?」

 長と言う人物の横をすり抜けた瞬間にスウッと子供達は消えていった。

 普通ならそこで驚愕する事なのだが



 結にとってはもっと信じ難い事が目の前で起きていた。



「·····アンタが言ってた人間かい?



           へぇ···美味そうじゃん」




 冗談なのか本気なのか分からない言葉を投げかけ結を見下ろす長はニヤァっと笑った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...