婚約破棄された侯爵令嬢ですが、これからは盗賊として立派に生きていきます!

かみき

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予想外の出来事

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「良いかお前ら! あとちょっとで王の行列がこの峠を通る! 先に待ち伏せしてる奴らと俺達で囲んで一気に襲うぞ!」
アジトから行列が通る道まで馬を進めながら、先頭のボスは最後の作戦確認を行う。
「馬車にあるもんは全部奪う! 王と王妃は殺さず人質にしろ、わかったな?」
ボスは今夜手に入る財宝のことを考えて目をぎらつかせ、背後に手下達の歓声が轟くのを待った。
返事が無い。
まるで誰も居ないかのようだ。
「話には聞いてたけどあんたの部下、ちょっとヘボ過ぎやしないかい」
「私にやられるぐらいだから相当な雑魚ですねぇ」
代わりに聞こえた耳慣れない声にボスが振り返ると、いつの間にか背後の部下達は全て叩きのめされて地面に転がっていた。
「なッ……いつの間に……!」
「あんたがデカい声で喋ってる間だよ」
「まさか最後の一人になるまで気づかれないとは」
普通、最後尾あたりの数人がやられた時点で気づかないもんですかねぇと斥候はやれやれと首を振る。
推測通り、新興盗賊団は王の通り道に待ち伏せする連中と、とどめの急襲をかける連中に分かれて行動を開始した。
『派手にやって王の護衛に気づかれると面倒だ、その前に勝負を決める』
というわけで、エリーゼと斥候はボスをはじめとする急襲部隊を密かにつけて最後尾から襲い、シャルロッテはそれよりさらに先に待ち伏せしている連中を倒す分担となっている。
「ふざけるな! てめぇらまとめて殺してやる!」
まさかの事態に、創造性の無い喚き声をあげながら襲い掛かってきたボスは、あっさりとエリーゼに倒された。
ちなみにエリーゼは二刀使いだが、ボスを倒すのに二刀も使うことは無く。
「うわ……先頭いくぐらいだから強いかと思ったのに……」
「引くぐらい弱かったですねぇ」
二人の頭に、昨夜話した内容がよみがえる。
ぽっと出の割にかなりの人数、パトロンがつきながらボスを含めて雑魚ばかり、そしてパトロンに繋がる線は徹底して消されている……。
「シャル、大丈夫かな」
ポツリと呟いた斥候の背中を、エリーゼは安心させるように強く叩いた。

斥候の心配は半分正解で、半分不正解だった。
というのも、王の行列が通るより遙か前に待ち伏せしていた連中はシャルロッテによって一人残らず叩きのめされたわけだが、ここで予想外の出来事が起こっていた。
「貴様、盗賊だな!」
「行幸の前の露払いだ! ひっ捕らえてやる!」
王の行列よりも先に、護衛とは別の兵士の一団がこの峠に差し掛かったのである。
昨今の盗賊事情を鑑み、待ち伏せを警戒して先に行くようにと新宰相の意を受けた部隊だった。
新興盗賊団を倒し終えて立ち去る間際だったシャルロッテは、運悪く彼らと出遭ってしまったのである。
斥候は王の行列についてかなりの情報を得ていたが、新宰相が別部隊を先に行かせることまでは掴みきれておらず、シャルロッテとしても青天の霹靂だった。
さらに悪いことに、兵士を盗賊と同じように撫で斬りにするわけにもいかず、シャルロッテは多数の相手を気絶程度で済むよう手加減しなければならない。
いかに王の行列を襲おうとした新興盗賊団を倒したとはいえ、シャルロッテ自身も立派な盗賊であるため、盗賊だからひっ捕らえてやると言われたら戦わざるをえないのである。
自分も盗賊だけど王の行列は襲いません、逆に襲おうとした連中を倒したんです、などと言っても通じるはずがあるまい。
といっても彼らの目的はあくまでも王を守ることだし、しばらく適当に戦っておいて単騎で逃げればわざわざ深追いはしてこないだろう、とシャルロッテは考えた。
その考えは概ね正しかったが、ここでさらなる誤算が起きた。
待ち伏せ対策で先に来たこの部隊は、シャルロッテと会敵した時点で後続の王の行列に伝令を走らせていた。
前方で多数の盗賊が倒されて地面に転がっており、どうもその場に居た顔を布で隠した人物が一人でやったらしいと報告を受けた護衛の兵士達は、何がどういうことやら把握しかねて、念のため王の行列を一旦止める判断を下す。
その旨を馬車の中のドゥム王に伝えたところ、伝えた兵士の頭に鞘ごと剣が降ってきた。
「何で行列を止めねばならんのだ!」
「し、しかし、前方で異変がありまして……」
「異変とは何だ! 具体的に言ってみろ!」
「それが我々にもよくわからず、ひとまず先遣隊の次の報告を待つしか……」
「ええい、もう良い! 話にならん! 私が自ら確かめる、行列を急がせろ!」
「は……はッ!」
鞘で殴られ頭にこぶをつくった兵士は、王の癇癪を恐れて早々に引き下がった。
そして、本来なら安全確認のため止まるはずだった王の行列は、さらに速度を上げて進むこととなったのである。
しかし、それでもシャルロッテが兵士達を軽く捻る方が早かった。
「ぐあッ!」
先遣隊の兵士を何人か倒したところで、シャルロッテは多勢に無勢だという風を装い、馬首を翻して逃げ去ろうとした。
「待て!」
当然、兵士達は追う様子を見せたが、ちらちらと王の行列が来る方向に目がいっており、やはり深追いするつもりは無さそうだ。
シャルロッテの正体に気づいた者も居ないようだし、これで何とかなるだろう。
そう思った瞬間、「何が起こったのだ!」と聞き覚えのある怒鳴り声が彼女の耳に届いた。
遠くからの声ではあるが、予想していたほど遠くではない。
シャルロッテは思わず声がした方を振り返った。
行列を急がせたドゥム王が、怒鳴り散らし、剣を振り回しながら、馬車から降りて自ら状況を確認しようとしている。
ただ、必死で制止しようとする周囲の兵士達に癇癪を破裂させているため、こちらの方を見てはいない。
安堵したシャルロッテが元の方向に向き直ろうとしたその時、ドゥム王の後ろからおっかなびっくりといった様子でチェルシーが馬車から顔をのぞかせた。
王と違って彼女はこちらを見て、そして──……

「お姉さま!!!」

チェルシーの口から、懐かしい異母姉を呼ぶ声が迸った。
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