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これから。
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シャルロッテ達を追いつめた王は、怒りと憎しみに異常なほど瞳をぎらつかせていた。
「皆、手を出すな。この大罪人は俺が直々に首を刎ねてやる!」
言うが早いが、ドゥム王は剣を振りかざしてシャルロッテに斬りかかる。
そのまま激しく剣を斬り結ぶこととなったが、時間が経つにつれてドゥム王が劣勢になりつつあるのは誰の目にも明らかとなってきた。
ドゥム王は幼少期より武張ったことを好み、王族として剣の才能を磨く環境にも恵まれていたが、いかに油断していたとはいえシャルロッテに帯剣を奪われ、正面から斬られるのを避けられなかった程度なのである。
豊かな剣才に恵まれ、ここ数年は盗賊として毎日のように生きるか死ぬかの斬り合いをしているシャルロッテの相手ではなかった。
ドゥム王の傷跡を隠す仮面の下から荒い息が漏れ、剣を振り回す度に汗が飛び散っている。
王に付いてきた兵士達は待機状態のまま互いにチラチラと目を見交わした。
ここに居る者達で一斉にかかれば、シャルロッテを討ち取ることは可能かもしれない。
だが、手を出すなと命令されている以上、それは出来ない。
ドゥム王の気質を考えると、勝手な手出しを咎められてシャルロッテの次に首を刎ねられることになりかねないからだ。
王の命が危機に晒されていれば話はまた別だったかもしれないが、今のところ息ひとつ乱さず剣を振るっているシャルロッテは、ドゥム王の剣を躱したり受け流したりするのみで、とどめを刺そうとする素振りを見せない。
加えて、シャルロッテの仲間らしい黒髪の二刀流が猛獣のような金の瞳でこちらを睥睨している。
兵士達が手を出せば、奴もあの二刀を振るって襲い掛かってくるだろう。
混戦となればこちらの犠牲も少なくはあるまい……。
様々な思惑が兵士達を動けなくしていた、その時である。
複数の蹄の音がこちらに近づいてくるのが微かに聞こえてきた。
行幸についてきた残りの兵士まで王を追いかけてきたのか?
まさか、王妃であるチェルシーを置いて?
シャルロッテの気が僅かに逸れたのを、ドゥム王は見逃さなかった。
「死ね、シャルロッテ!!!」
ドゥム王の剣が頭上高く振り上げられ、鈍い光を放つ。
しかし、彼の言葉が現実になることは無かった。
急速に視界が歪み、相対しているシャルロッテの姿が傾ぐ。
剣は振り下ろされることなく音を立てて地面に落ち、次いで白目を剥いたドゥム王がゆっくりと馬から落下していく。
仮面をつけた状態で重たい剣を振り回していた負荷が、ついに身体の限界を超えたのだった。
気絶したドゥム王を見下した後、シャルロッテは新たに現れた一団に目をやった。
予想通り兵士達であったが、一人例外が混じっている。
見慣れた野暮ったいローブと、見慣れない若い顔立ちにやや戸惑いながら、シャルロッテは新しい宰相だろうかと見当をつけた。
確か、新宰相は先代老宰相の孫だと聞き及んだことがある。
「何をしているのですか、早々と王を運んで介抱なさい」
「は、はいっ!」
新宰相の叱責に、兵士達は慌ててドゥム王に群がり、抱え上げた。
「今日中に予定の宿所まで進みます。すぐに王妃のもとに戻るように」
新宰相はシャルロッテやエリーゼには目もくれず、兵士達にそう告げると馬首を翻して去っていった。
一部の兵士達はシャルロッテをどうすべきか迷ったようだが、捕縛せよとも代わりに討ち取れとも言われていない以上、下手な行動は出来ない。
そんなこんなで全ての兵士達が引き上げた後、エリーゼがポツリと呟いた。
「……あたし達も帰ろっか」
アジトに帰った後は、今後の対応策に追われることとなった。
気絶から目覚めたドゥム王は今度は本格的に小隊を編成して追手を差し向けてくるだろう。
斥候と雑用係は顔を知られていないが、シャルロッテとエリーゼは顔を知られている。
どうすべきか侃々諤々の議論が行われている途中、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
まさか、もう来たのか。
四人に緊張が走るが、追手が律義にノックなどするだろうか?
エリーゼが用心しつつ扉に忍び寄り、開けると同時に来訪者の喉元に刃を突きつける。
「どうも、先程はご挨拶が出来ませんで」
来訪者は喉元の刃を気にする風も無く、ゆっくりとフードを脱いだ。
「…………宰相?」
「はい、そうです」
にこやかに微笑んでいたのは、先程シャルロッテ達に目もくれなかった新宰相だった。
「シャルロッテ嬢とお話ししたいことがあるのですが、宜しいですか? エリーゼさん」
「あたしは良いけどさ……」
エリーゼの視線を受け、シャルロッテは自分も構わないと答える。
わざわざ身一つでアジトに来るあたり、何か魂胆があるのだろうか。
それに、エリーゼの名前まで調べてきているのも気にかかる。
不審に思われているのを知ってか知らずか、新宰相はごく普通の客人のようにテーブルまで進み、自分で椅子を引いて腰かけた。
「無駄は省きましょう。ドゥム王は目を覚まされました。ですが、打ちどころが悪かったらしく、起き上がるのがやっとの状態です」
テーブルについて開口一番、新宰相はそう言い放った。
「痛みが酷いようで精神的にもかなり参っています。追手を差し向けるどころではないですね」
「それ、本当なんでしょうねぇ? こっちを油断させるための嘘じゃないんですか?」
口を挟んだ斥候に、宰相はチラリと目を向ける。
「嘘をついて何になります? 追手を編成する時間稼ぎのために宰相自ら出張ってきたとでも?」
確かに、時間稼ぎの作り話なら兵士でも寄こせば良い話だ。宰相である意味は無い。
「時にシャルロッテ嬢、現在、王都の外で盗賊の被害が増えていることは?」
「……知っておりますが、それが何か?」
斥候からもたらされる情報で、盗賊の被害が増えつつあることは知っていた。
悪どいやり方をする盗賊も増えたため、何度か盗賊同士で戦ったこともある。
今回だって、新興の荒くれ集団が王の御幸を襲うということで、チェルシーを心配したのが発端だった。
「今まで王や貴族が襲われることはありませんでした。ですが今回、新王の行列が襲われた。失敗には終わりましたが、これに続けとばかり、今後は王だろうが貴族だろうが構わず襲われる事態が相次ぐでしょうな」
そこで、と新宰相は身を乗り出す。
「シャルロッテ嬢、エリーゼさん、貴女達にこの国に蔓延る盗賊を討つ遊撃隊をお願いしたい」
「…………はい?」
新宰相の意図が掴めず、シャルロッテは目を丸くした。
横で話を聞いていたエリーゼ達も驚いたような顔をしている。
「ちょっと待ちなよ、そういうのって国の兵士がやるもんだろ」
「本来ならばそうです。ただ、現段階でそれは難しい。兵士達は長年に渡る先王の病臥で士気が下がっていますし……」
ここで新宰相は雑用係が運んできたお茶を飲み、一息いれた。
「今回の件で盗賊は勢いづくが、王や貴族は今まで通り、自らの護衛を増やせば良い程度にしか考えないでしょう。残念ながら、文官である新米宰相の私が、兵士を訓練して盗賊を討つ部隊を編成するよう進言しても聞き入れてはもらえないでしょうね」
それはそうだ、とシャルロッテは久しく忘れかけていた宮廷の空気を思い出しつつ頷いた。
「私の祖父が事なかれ主義で宰相としてずっと何とかやってきたのも一因ですけど」
やれやれ、と新宰相は首を振る。
「で、どうされます? 勿論、受けていただけるなら潤沢な資金提供は致しますが」
「…………」
シャルロッテは俯き、沈黙した。
これまでも闇商人や悪どい盗賊を標的としてきたので、遊撃隊への転身に特に異存は無い。
しかし、この新宰相は信用できる人間なのだろうか?
「私のことが信用できませんかね?」
シャルロッテの心中を見透かしたような発言に、代わりに答えたのは斥候だった。
「信用できませんねぇ。ぶっちゃけ貴方、裏で何やかやと糸引いてません?」
「はい?」
「とぼけないでくださいよぉ。最初に王の行列を襲おうとした新興連中、寄せ集めの割に謎の太いパトロンが居たんですけどねぇ」
斥候は新宰相に厳しい視線を向ける。
「妹想いで元侯爵令嬢な義賊を誘い出そうとした誰かさんがそのパトロンじゃないですかぁ?」
シャルは貴方の遊撃隊構想に最適の人物ですもんねぇ、と斥候は付け加えた。
なるほど、元侯爵令嬢で王や貴族側の事情に精通しており、妹が王妃という特殊過ぎる経歴の腕がたつ義賊は、新宰相にとっては願ったり叶ったりの人材だろう。
「腹黒は信用できませんよぉ」
斥候の言葉には、今後いつどんな理由で裏切るか知れたものじゃない、という含みがたっぷりと含まれていた。
「ふむ。まぁ一理ありますね」
そう言いつつ、新宰相は野暮ったいゆったりローブの胸元に手をやった。
「シャルロッテ嬢、前宰相である私の祖父と会ったことは?」
「それは……何度か」
シャルロッテはかつて侯爵令嬢で、王子の婚約者だったのだから。
「では、祖父の息子、私の父については?」
「確か、お若い頃に亡くなられたと……」
そこまで言って、ふと引っ掛かるものがあった。
前宰相の孫の話はあまり聞いたことがない。
それも、前宰相自身が意図的に伏せていたようなふしがあるが……。
「まぁ、こういうことですよ」
新宰相は自らの手で胸元をくつろげ、ウィンクして見せる。
四対の目がローブに隠されていた膨らみに集中し、そして。
「……着痩せする方なんだね」
エリーゼが外見的な感想を述べた。
自分が裏切ったら遠慮なく秘密をばらしてもらって構わない、と言われ、斥候は渋々と新宰相を信用することにした。
晴れて遊撃隊となったシャルロッテ達に頭を下げ、新宰相はアジトを去ろうとする。
「すみません、ひとつ宜しいですか?」
シャルロッテは新宰相の背中に向かって声をかけた。
これから自分達は、各地を回って盗賊を討伐することになる。
何年も、もしかしたら何十年も。
途中で命を落とす可能性だって、充分にある。
振り向いた新宰相に、少し躊躇ってからシャルロッテはこう告げた。
「チェルシーに、元気で、とだけ伝えていただけますか?」
新宰相はしばらくシャルロッテを見つめ、頷いた。
「わかりました、必ずお伝えしましょう」
「ありがとうございます」
少しだけ開いた扉から風が吹き込み、シャルロッテの髪を揺らした。
「皆、手を出すな。この大罪人は俺が直々に首を刎ねてやる!」
言うが早いが、ドゥム王は剣を振りかざしてシャルロッテに斬りかかる。
そのまま激しく剣を斬り結ぶこととなったが、時間が経つにつれてドゥム王が劣勢になりつつあるのは誰の目にも明らかとなってきた。
ドゥム王は幼少期より武張ったことを好み、王族として剣の才能を磨く環境にも恵まれていたが、いかに油断していたとはいえシャルロッテに帯剣を奪われ、正面から斬られるのを避けられなかった程度なのである。
豊かな剣才に恵まれ、ここ数年は盗賊として毎日のように生きるか死ぬかの斬り合いをしているシャルロッテの相手ではなかった。
ドゥム王の傷跡を隠す仮面の下から荒い息が漏れ、剣を振り回す度に汗が飛び散っている。
王に付いてきた兵士達は待機状態のまま互いにチラチラと目を見交わした。
ここに居る者達で一斉にかかれば、シャルロッテを討ち取ることは可能かもしれない。
だが、手を出すなと命令されている以上、それは出来ない。
ドゥム王の気質を考えると、勝手な手出しを咎められてシャルロッテの次に首を刎ねられることになりかねないからだ。
王の命が危機に晒されていれば話はまた別だったかもしれないが、今のところ息ひとつ乱さず剣を振るっているシャルロッテは、ドゥム王の剣を躱したり受け流したりするのみで、とどめを刺そうとする素振りを見せない。
加えて、シャルロッテの仲間らしい黒髪の二刀流が猛獣のような金の瞳でこちらを睥睨している。
兵士達が手を出せば、奴もあの二刀を振るって襲い掛かってくるだろう。
混戦となればこちらの犠牲も少なくはあるまい……。
様々な思惑が兵士達を動けなくしていた、その時である。
複数の蹄の音がこちらに近づいてくるのが微かに聞こえてきた。
行幸についてきた残りの兵士まで王を追いかけてきたのか?
まさか、王妃であるチェルシーを置いて?
シャルロッテの気が僅かに逸れたのを、ドゥム王は見逃さなかった。
「死ね、シャルロッテ!!!」
ドゥム王の剣が頭上高く振り上げられ、鈍い光を放つ。
しかし、彼の言葉が現実になることは無かった。
急速に視界が歪み、相対しているシャルロッテの姿が傾ぐ。
剣は振り下ろされることなく音を立てて地面に落ち、次いで白目を剥いたドゥム王がゆっくりと馬から落下していく。
仮面をつけた状態で重たい剣を振り回していた負荷が、ついに身体の限界を超えたのだった。
気絶したドゥム王を見下した後、シャルロッテは新たに現れた一団に目をやった。
予想通り兵士達であったが、一人例外が混じっている。
見慣れた野暮ったいローブと、見慣れない若い顔立ちにやや戸惑いながら、シャルロッテは新しい宰相だろうかと見当をつけた。
確か、新宰相は先代老宰相の孫だと聞き及んだことがある。
「何をしているのですか、早々と王を運んで介抱なさい」
「は、はいっ!」
新宰相の叱責に、兵士達は慌ててドゥム王に群がり、抱え上げた。
「今日中に予定の宿所まで進みます。すぐに王妃のもとに戻るように」
新宰相はシャルロッテやエリーゼには目もくれず、兵士達にそう告げると馬首を翻して去っていった。
一部の兵士達はシャルロッテをどうすべきか迷ったようだが、捕縛せよとも代わりに討ち取れとも言われていない以上、下手な行動は出来ない。
そんなこんなで全ての兵士達が引き上げた後、エリーゼがポツリと呟いた。
「……あたし達も帰ろっか」
アジトに帰った後は、今後の対応策に追われることとなった。
気絶から目覚めたドゥム王は今度は本格的に小隊を編成して追手を差し向けてくるだろう。
斥候と雑用係は顔を知られていないが、シャルロッテとエリーゼは顔を知られている。
どうすべきか侃々諤々の議論が行われている途中、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
まさか、もう来たのか。
四人に緊張が走るが、追手が律義にノックなどするだろうか?
エリーゼが用心しつつ扉に忍び寄り、開けると同時に来訪者の喉元に刃を突きつける。
「どうも、先程はご挨拶が出来ませんで」
来訪者は喉元の刃を気にする風も無く、ゆっくりとフードを脱いだ。
「…………宰相?」
「はい、そうです」
にこやかに微笑んでいたのは、先程シャルロッテ達に目もくれなかった新宰相だった。
「シャルロッテ嬢とお話ししたいことがあるのですが、宜しいですか? エリーゼさん」
「あたしは良いけどさ……」
エリーゼの視線を受け、シャルロッテは自分も構わないと答える。
わざわざ身一つでアジトに来るあたり、何か魂胆があるのだろうか。
それに、エリーゼの名前まで調べてきているのも気にかかる。
不審に思われているのを知ってか知らずか、新宰相はごく普通の客人のようにテーブルまで進み、自分で椅子を引いて腰かけた。
「無駄は省きましょう。ドゥム王は目を覚まされました。ですが、打ちどころが悪かったらしく、起き上がるのがやっとの状態です」
テーブルについて開口一番、新宰相はそう言い放った。
「痛みが酷いようで精神的にもかなり参っています。追手を差し向けるどころではないですね」
「それ、本当なんでしょうねぇ? こっちを油断させるための嘘じゃないんですか?」
口を挟んだ斥候に、宰相はチラリと目を向ける。
「嘘をついて何になります? 追手を編成する時間稼ぎのために宰相自ら出張ってきたとでも?」
確かに、時間稼ぎの作り話なら兵士でも寄こせば良い話だ。宰相である意味は無い。
「時にシャルロッテ嬢、現在、王都の外で盗賊の被害が増えていることは?」
「……知っておりますが、それが何か?」
斥候からもたらされる情報で、盗賊の被害が増えつつあることは知っていた。
悪どいやり方をする盗賊も増えたため、何度か盗賊同士で戦ったこともある。
今回だって、新興の荒くれ集団が王の御幸を襲うということで、チェルシーを心配したのが発端だった。
「今まで王や貴族が襲われることはありませんでした。ですが今回、新王の行列が襲われた。失敗には終わりましたが、これに続けとばかり、今後は王だろうが貴族だろうが構わず襲われる事態が相次ぐでしょうな」
そこで、と新宰相は身を乗り出す。
「シャルロッテ嬢、エリーゼさん、貴女達にこの国に蔓延る盗賊を討つ遊撃隊をお願いしたい」
「…………はい?」
新宰相の意図が掴めず、シャルロッテは目を丸くした。
横で話を聞いていたエリーゼ達も驚いたような顔をしている。
「ちょっと待ちなよ、そういうのって国の兵士がやるもんだろ」
「本来ならばそうです。ただ、現段階でそれは難しい。兵士達は長年に渡る先王の病臥で士気が下がっていますし……」
ここで新宰相は雑用係が運んできたお茶を飲み、一息いれた。
「今回の件で盗賊は勢いづくが、王や貴族は今まで通り、自らの護衛を増やせば良い程度にしか考えないでしょう。残念ながら、文官である新米宰相の私が、兵士を訓練して盗賊を討つ部隊を編成するよう進言しても聞き入れてはもらえないでしょうね」
それはそうだ、とシャルロッテは久しく忘れかけていた宮廷の空気を思い出しつつ頷いた。
「私の祖父が事なかれ主義で宰相としてずっと何とかやってきたのも一因ですけど」
やれやれ、と新宰相は首を振る。
「で、どうされます? 勿論、受けていただけるなら潤沢な資金提供は致しますが」
「…………」
シャルロッテは俯き、沈黙した。
これまでも闇商人や悪どい盗賊を標的としてきたので、遊撃隊への転身に特に異存は無い。
しかし、この新宰相は信用できる人間なのだろうか?
「私のことが信用できませんかね?」
シャルロッテの心中を見透かしたような発言に、代わりに答えたのは斥候だった。
「信用できませんねぇ。ぶっちゃけ貴方、裏で何やかやと糸引いてません?」
「はい?」
「とぼけないでくださいよぉ。最初に王の行列を襲おうとした新興連中、寄せ集めの割に謎の太いパトロンが居たんですけどねぇ」
斥候は新宰相に厳しい視線を向ける。
「妹想いで元侯爵令嬢な義賊を誘い出そうとした誰かさんがそのパトロンじゃないですかぁ?」
シャルは貴方の遊撃隊構想に最適の人物ですもんねぇ、と斥候は付け加えた。
なるほど、元侯爵令嬢で王や貴族側の事情に精通しており、妹が王妃という特殊過ぎる経歴の腕がたつ義賊は、新宰相にとっては願ったり叶ったりの人材だろう。
「腹黒は信用できませんよぉ」
斥候の言葉には、今後いつどんな理由で裏切るか知れたものじゃない、という含みがたっぷりと含まれていた。
「ふむ。まぁ一理ありますね」
そう言いつつ、新宰相は野暮ったいゆったりローブの胸元に手をやった。
「シャルロッテ嬢、前宰相である私の祖父と会ったことは?」
「それは……何度か」
シャルロッテはかつて侯爵令嬢で、王子の婚約者だったのだから。
「では、祖父の息子、私の父については?」
「確か、お若い頃に亡くなられたと……」
そこまで言って、ふと引っ掛かるものがあった。
前宰相の孫の話はあまり聞いたことがない。
それも、前宰相自身が意図的に伏せていたようなふしがあるが……。
「まぁ、こういうことですよ」
新宰相は自らの手で胸元をくつろげ、ウィンクして見せる。
四対の目がローブに隠されていた膨らみに集中し、そして。
「……着痩せする方なんだね」
エリーゼが外見的な感想を述べた。
自分が裏切ったら遠慮なく秘密をばらしてもらって構わない、と言われ、斥候は渋々と新宰相を信用することにした。
晴れて遊撃隊となったシャルロッテ達に頭を下げ、新宰相はアジトを去ろうとする。
「すみません、ひとつ宜しいですか?」
シャルロッテは新宰相の背中に向かって声をかけた。
これから自分達は、各地を回って盗賊を討伐することになる。
何年も、もしかしたら何十年も。
途中で命を落とす可能性だって、充分にある。
振り向いた新宰相に、少し躊躇ってからシャルロッテはこう告げた。
「チェルシーに、元気で、とだけ伝えていただけますか?」
新宰相はしばらくシャルロッテを見つめ、頷いた。
「わかりました、必ずお伝えしましょう」
「ありがとうございます」
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