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7.甘雨(かんう)
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学校から自宅に帰り、月森が綴った番号を確かめた。不発は避けたかったので、夕方の時間帯を狙った。夕食時ならツバメも家に帰っている可能性が高かったし、最悪、彼女の父親に事情を説明する手段もあった。
番号を一字一字確認し、ゆっくりとその番号順にボタンを押していった。電話をかけることに、かなりの神経を使ったのは生まれて初めてだった。
ほどなくしてコール音が耳元に届いた。
ワンコール。
出ない。
ツーコール。
まだ出ない。
室内の掛け時計をちらりと見る。もう六時を回っている。自宅に誰か居てもおかしくない時間なのに、一向に出る気配がなかった。
かけ直すか?
五回目のコールを聞き流し、受話器を耳元から外そうとした瞬間、
かかった。
息を呑んだ。
口の中が一気に乾いた。
「あの、もしもし」
うわずった声で呼びかけた。でも受話器の向こう側は無言のままで、応答はなかった。
「……小山内さんですよね?」
電話に出た相手が父親だという線も踏まえて問いかける。けどやっぱり相手は答えてはくれなかった。少し時間を取り返事を待つも、結果は同じだった。物音一つしない。
「……小山内なら返事してくれ」
呼びかけても、空しい沈黙だけが返ってきた。
僕は、何をやっているんだろう。
最初は南雲先生に厄介ごとを頼まれて、その次は見捨てられないからと月森に協力を仰がれた。でも、どっちも自分にとって大した得になっていない。むしろ貧乏くじを引いているばかりだ。
次第にふつふつと何かが喉奥からこみ上げてきた。でもそれを不本意に相手にぶつけてしまうのは間違いなような気がしたので、ぎりぎりのところで気持ちを紛らわせた。
「小山内ならそのまま聞いててくれ」そう言い、僕は教室に掲示してあった給食の献立表を思い浮かべた。「この間は悪かった……その、明日学校に来いよ。月森も心配してたぞ。それに、久々に給食でばんぺいゆのゼリーが出るんだ、しかも果肉入りのやつが」
食べ物で釣る。ごく単純な方法だった。
それでもツバメには一番効き目がありそうな誘い文句だった。それはここ数ヶ月のことで僕が実感した確かなものだった。
受話器越しにはやはり何も返ってこない。
それでも、僕は呼びかけた。
「いつまでも引きこもってないで出てこいよ、ケンカ相手のお天道様も、雨さえ降らせちゃえばどうってことないだろ?」
わざと煽るように言い放つも、やっぱり自分だけの一人芝居に終わった。
「……じゃあ明日、待ってるからな」
静かに言い、受話器を置いた。
時間に換算して五分と経っていないでき事なのに、僕にはひどく長く感じられた。
番号を一字一字確認し、ゆっくりとその番号順にボタンを押していった。電話をかけることに、かなりの神経を使ったのは生まれて初めてだった。
ほどなくしてコール音が耳元に届いた。
ワンコール。
出ない。
ツーコール。
まだ出ない。
室内の掛け時計をちらりと見る。もう六時を回っている。自宅に誰か居てもおかしくない時間なのに、一向に出る気配がなかった。
かけ直すか?
五回目のコールを聞き流し、受話器を耳元から外そうとした瞬間、
かかった。
息を呑んだ。
口の中が一気に乾いた。
「あの、もしもし」
うわずった声で呼びかけた。でも受話器の向こう側は無言のままで、応答はなかった。
「……小山内さんですよね?」
電話に出た相手が父親だという線も踏まえて問いかける。けどやっぱり相手は答えてはくれなかった。少し時間を取り返事を待つも、結果は同じだった。物音一つしない。
「……小山内なら返事してくれ」
呼びかけても、空しい沈黙だけが返ってきた。
僕は、何をやっているんだろう。
最初は南雲先生に厄介ごとを頼まれて、その次は見捨てられないからと月森に協力を仰がれた。でも、どっちも自分にとって大した得になっていない。むしろ貧乏くじを引いているばかりだ。
次第にふつふつと何かが喉奥からこみ上げてきた。でもそれを不本意に相手にぶつけてしまうのは間違いなような気がしたので、ぎりぎりのところで気持ちを紛らわせた。
「小山内ならそのまま聞いててくれ」そう言い、僕は教室に掲示してあった給食の献立表を思い浮かべた。「この間は悪かった……その、明日学校に来いよ。月森も心配してたぞ。それに、久々に給食でばんぺいゆのゼリーが出るんだ、しかも果肉入りのやつが」
食べ物で釣る。ごく単純な方法だった。
それでもツバメには一番効き目がありそうな誘い文句だった。それはここ数ヶ月のことで僕が実感した確かなものだった。
受話器越しにはやはり何も返ってこない。
それでも、僕は呼びかけた。
「いつまでも引きこもってないで出てこいよ、ケンカ相手のお天道様も、雨さえ降らせちゃえばどうってことないだろ?」
わざと煽るように言い放つも、やっぱり自分だけの一人芝居に終わった。
「……じゃあ明日、待ってるからな」
静かに言い、受話器を置いた。
時間に換算して五分と経っていないでき事なのに、僕にはひどく長く感じられた。
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