物理最強信者の落第魔法少女

あげは

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新衣装

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「呪詛洞穴」を攻略すると決めた私たちの歩みは変わった。
 余計な戦闘を避け、階層を下ることを主目的に、私たちは最低限の探索のみで進んでいく。
 そうして時間を掛けず、三階層へと続く門へとたどり着いた。
 そこは一階層と同じ円形の広場。門を塞ぐように数体の”侵略者”が立っている。

「ゾンビが五体、それにあれは――『喰人肉グール』かな。ゾンビの上位個体だね。ゾンビとは動きもパワーも桁違いだから、気を付けるんだよ」

「……私任せなのは変わらないのね」

「まあ、仕方ないと思ってほしい。今のボクらの中に、前衛は君しかいないんだ。サポートは任せてくれたまえ。ただのゾンビなら王女様とメイドさんだけでも過剰戦力だ。君は喰人肉《グール》に集中していいよ」

「はぁ……やるしかないのね。――〈転身〉」

 私の体を眩い光が包み込む。
 ここに来るまでの間、”侵略者”との戦いを避けながら、私とミルフィは転身後のドレスについて猛議論を行っていた。
 ああでもない、こうでもないとダンジョンを探索しつつ、二人の意見を組み合わせた折衷案を生み出すのはなかなか骨が折れる作業だった。
 デザインをしたのはミルフィだ。私は歩きながら、イメージを伝えただけ。
 それでも、前の”チャイナドレス”よりもかなりいい出来だと思う。

「うん、いい。気に入ったわ」

「ボクオリジナルの”戦闘衣装バトルドレス”。ボクの知っているとある騎士の衣装をモチーフにしたよ。君の要望通り、色は黒。腰の大きなリボンで愛らしさを演出。そのヒールも戦闘用だ。これまで通り動けるはずだよ。うーん……最初はどうかと思ったけど、実際に着てるところを見ると中々アリだね」

「アリスさん、素敵です!」

「これは……姫様にもお似合いに……帰ったら作ってみようかしら」

 マリーさんは目を輝かせて、褒めてくれた。……かなり嬉しい。
 アリーさんが私のドレスを観察して、ぶつぶつ何か呟いている。
 ちょ、ちょっと目が怖――裾をめくり上げないでくださいっ……!

「それじゃ、行ってくるから。他のゾンビはどうにかしてね」

「任せておくれ。アリス、無茶はしないように、ね」

「わかってるわ」

 ミルフィの忠告を聞き入れ、私は広場に飛び出した。
 すると門を塞いでいた喰人肉が動いた。
 まるで獣のような動きで、広場を縦横無尽に駆け回っている。
 これが、ゾンビの上位個体? まったく別の生き物じゃない。
 自分の目に魔力を集中させ、身体強化をかける。
 それでようやく喰人肉の動きを目で追えるようになった。

「動きさえ分かれば……っ」

 私はガントレットを装着し、待ち構える。
 後方から火の玉が門の前のゾンビに向け、放たれていく。
 ミルフィらの支援を感じ、笑みがこぼれる。
 今までなら、こんなことはありえなかった。私はただの足手纏いでパーティーのお荷物。「役立たずの魔法使い」はいらない少女だった。
 でも、今は違う。彼女らは私を支えるために戦ってくれている。私が戦いやすいように、力を尽くしてくれる。
 それがどんなに嬉しいことか。たぶん、誰もわからないんだろうな……。

 気を抜いた隙を狙って、喰人肉が懐に飛び込んできた。
 その顔は気味の悪い笑みで歪んでいる。勝った気でいるのだろう。
 鋭利に尖った爪で私の体を裂こうとする。

「――悪いけれど、今の私は、誰にも負ける気がしないわ」

 喰人肉の爪と私の拳が衝突する。
 魔法で強化し、魔力を纏った私の拳が、喰人肉の爪に負けるはずもなく、大した抵抗もなく鋭利な爪は砕けた。
 余程自信があったのか、驚愕している。

「”侵略者”も驚いたりするのね。私たちは、先に行かなければならないの。こんなところで躓いている暇なんてないのよ!」

 私の渾身のパンチが、喰人肉を門まで吹き飛ばした。
 ベシャッ!と音を立て衝突し、そこへタイミングよく飛んできたアリーさんの炎が、ゾンビもろとも喰人肉を焼く。
 地面に焦げた跡を残し、喰人肉とゾンビは肉片も残らず消えたようだ。

「〈解除《リリース》〉。さあ、先へ急ぎましょう」




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