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日記
しおりを挟む「……ねぇ、アンタ知ってたんでしょ? これのこと」
陽は沈み、夜の闇を映した真っ黒な海。さざ波の音が鼓膜を心地よく刺激する。
アリスとケイトが眠る宿の部屋を離れ、高い灯台に上り海を眺めているツバキが呟く。
その場にはツバキの姿しかない。しかし、彼女は一人ではないと感じていた。
「何のことかな? ボクは何もしらな――」
「ここに書いてあるわ。『この日記の存在を知るのは、意地悪なスパルタ教官だけど、誠実な愛を持ったパンケーキ大好きの愛らしい使い魔さんだけ』ってね。やっぱりあの子の日記なのね」
「……まあ、書いてあるのなら誤魔化しても仕方ないね。確かにボクは彼女の日記の存在を知っている。何が書いてあるかまでは知らないし、ボクを封印した後、あの子がどこに日記を隠したのかも知らない。こうしてバラバラの紙になってダンジョンから発見されるとは思ってなかった」
可愛らしい声の後、暗闇からミルフィの姿が浮かび上がる。
ツバキは振り向き、ミルフィに対し紙を見せつけるように掲げた。
「あの子は……桜楽《さくら》の死の真相は知っているのね?」
「知っていてもそれは話せないかな。彼女との最後の約束だからね。君にだけは話すなと言われている」
ミルフィがそう言うと、ツバキは苦しそうに顔を歪める。
「どうして……いつも、桜楽は何も教えてくれない……。自分一人で抱え込んで、結局どうしようもなくなった時だけ助けを求める。でも……最後だけは何も言わなかった。誰にも、何も話さず、一人で死んだ……」
「サクラはそれを望んでいた。使い魔として、ボクは主の願いを優先したまでだ。君に話さなかったのは……サクラなりの思いやりだろうね」
「それなら全部話してほしかった! 自分一人で抱えて勝手に死んで……それで私が納得するわけないじゃない! 一人で世界の敵になって……人類最大の悪党? 桜楽はそんな子じゃない!!」
溜め込んでいた想いが涙となって溢れだす。
頼ってもらえなかった悔しさ、何もできなかった後悔。ツバキはその想いをずっと抱えて生きてきた。
「そうだね。サクラはとても優しい子だ。必ず誰かのために行動する。世界を守るために、世界の敵になった。世界を救う代償が、人類の敵になることだったんだ。君なら、彼女が何を選択するのか理解できるだろう? サクラにとってたった一人の家族、姉なんだから」
ツバキは乱暴に涙を拭い、顔を上げる。
その瞳には、強い怒りと熱情が宿っていた。
「真相を知りたいのなら、これを集めることだね。彼女はいつかのために自分の知り得る全てを日記に記していたはずだ。彼女の汚名を覆すのなら、まずは知らなければならない」
「もちろんわかってるわ。私は、あの子の死の真相を知るためにここまで生きてきたのよ。ようやく、手掛かりを掴めたのだから……絶対に見つけてみせるわ。そのためにも、アリスにはもっと強くなってもらわないといけないわね」
ツバキはニヤッと笑う。
これからアリスの特訓は、さらに過激なものになることだろう。
そんなことなどつゆ知らず、宿のベッドで暢気にアリスは眠っていた。
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