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二章 水の都
樹海突破
しおりを挟む――翌朝。
さて、私たちはこれからアタランティアに向かうのだが。
「……どっちに行くの?」
「さあ。そんなの自分もわからないっすよ。太陽の位置もわからないのに方角がわかるはずないっすし」
「あたしが知る筈もないわ! 逃げていたらここに辿り着いただけよ!」
誰も道が分からない。これじゃ進むに進めないしより迷うかもしれない。
こうなったのも全部カーナのせいよ。絶対にそうだから。
「ろぜっち、転移とかでこの樹海抜けたりできないっすか?」
「残念ね! 魔力が足りないから不可能よ! それに視認した空間にしかまだ干渉できないわ!」
「なんだ。まだ権能を使いこなせているわけじゃないんすね」
「ちょっと。あたしが不完全みたいな言い方はやめてちょうだい。あたしは完全無欠の絶対的な美少女なの。それだけは覚えておきなさい!」
自信満々にいえるその精神は何でできているのだろうか。
「とにかく方向だけでも決めましょう。こんなところでじっとしているなんて時間がもったいないわ」
「どうやって決めるんすか? まさか古典的な方法で棒とか使ったりしないっすよねー?」
ギクッ。
なぜそれを。まだだれにも話したことのないママから教えてもらった秘伝の方法なのに。
「その顔、図星っすね。しかも母親から教わった秘伝の技とか考えているっす。そんなの秘伝でもなんでもないっすよ。誰でも知っている方法っすから」
そんなっ……。
ママから教えてもらった特別なものだと思っていたのに。
私は膝からその場に崩れ落ちた。ルナとブラウが慰めてくれる。
うぅ~。モフモフ。
「そんなペットモフモフしてないで行くっすよー。なんとなく進めば必ず何か見つかる筈っすよ」
「適当な事言わないでよ。そんなだからこうして今絶賛迷子ちゅうなんだからねっ!」
「それについては仕方ないっすね。性分っすから」
開き直りおって。
しかし結局カーナの言う通り、とりあえず動くことにした。
この樹海を抜けなければいけないのは確実。
あ~。早くお風呂入りたいわ~。
「……ところで、なんでリリィたちだけブラウに乗ってるんすか?」
「楽だしモフモフできる。一石二鳥じゃない」
「自分も乗せるっていう選択肢はないんすか?」
「カーナが先導しなきゃなんだから歩いたほうがいいでしょ。だからよろしく~」
普段適当にしているのだからこういう時くらいマジメに働かせないといけない。
別に迷子になった意趣返しとかそんなんじゃないわよ。当然じゃない。
カーナのためにやっているのだから感謝してほしいわ。
「……リリィ。あとで覚えとくっすよ」
そんなもの知りません。
私は大切な事しか覚えておかない女なのですから。
とにかく私たちは歩き続けた。
◇◇◇
――三時間後。
「……ねぇ。ここって何か見覚えないかしら?」
「……奇遇っすね。自分もそう思っていたっすよ」
「あたしは細かいことは気にしないわよ!」
目の前には見覚えのある小さな水場があった。
なぜか元いた場所に戻ってしまったみたい。
「ちゃんと印付けてたわよね」
「当然っすよ。これでも自分シーフっすから。一度通った道を忘れるなんてありえないっす」
「それならこれはどういうことよ」
「自分にもわからないっすね~」
手詰まりだわ。
いくら樹海にいるからってこんなに迷うことなんてあるかしら。
こういう森は何度か経験しているはずなのに。
「ニャ~」
ルナちゃんが何か言いたそうにしている。
だからといって私の顔に張り付いてくるのはどうかと思うが。
ちゃんとかまっているはずなのに、甘えん坊さんね。
「どうしたの?」
「ニャ―」
「……魔法? 樹海そのものに?」
「ニャッ」
「何かがいるってことね。わかったわ。ありがとう、ルナ」
教えてくれたルナをギュッと抱きしめてあげる。モフモフ。
こういうとき役に立つのは一番古参の万能猫さんですね。
うちのルナちゃんは頼りになるんです。
誰にもあげませんからね! 私の猫なんだから!
「要するにこの樹海に魔法をかけて惑わせている何かがあるってことっすね」
「おそらくルナちゃんみたいな幻影魔法を使う何かよ。猫か人か……」
「人の気配はしないっすよ。魔物もいないと思うっす。となると……」
「話は分かったわ! ここら辺一帯を魔法で吹き飛ばせばいいのね!」
「どうしてそうなったの!?」
「いや、ある意味間違ってないと思うっすよ。特に貴重な植物が生えているわけでもなし、誰かの私有地でもない。それならかけられた魔法ごと吹き飛ばして新しい道を作るのも悪くないっすね」
と言って何か魔法の準備をし始める二人。
言っても聞かないと思うのでブラウを盾に隠れる。
しかし、ブラウも状況を理解してか口を開き何かの準備をしている。
ちょっと待って。ブラウまで何するつもりよ。
「それじゃ行くっすよ~。リリィ、伏せててくださいっすね~」
「ひぃっ」
私がルナちゃんを抱えたまま伏せると。
〈風神〉!
〈精霊砲〉!
「アオォォォォォォォン!!」
激しい轟音が鳴り響いた。
凄まじい風と衝撃で吹き飛ばされそうになるのを何とかこらえる。
しばらくして収まったところで顔を上げると……。
「うわぁ……」
眼前に生い茂っていた木々は跡形もなく消え去り、数百マイトル先まで見渡せるほどの大きな道が生まれていた。
「結構先まで言ったっすね。これなら迷うこともなさそうっすね。それに先の方に街道っぽいのも見えるようになったっすよ」
「さすがあたし! 可愛い私の魔法なんだから当然よね!」
「わんわん!」
褒めてほしいのか、ブラウが尻尾をブンブン振り回しながら駆け寄ってくる。
うんうん、偉い偉い。と、ほぼ現実逃避気味に撫でてあげる。
ていうか、うちのわんこ、口から何か出したんですけど! 何よあれ! 聖獣ってあんなこともできるわけ!
「わん!」
誇らしげに吠えるブラウを見て諦めがついた。
そういうものだと受け入れると決めたんだから。
開き直った私は、ブラウに乗りロゼちゃんとカーナを回収した。
そして新しく樹海にできた大きな道を駆け抜けていった――。
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