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 リビアンが再び転生している間に今の世には魔物を殺す為の組織がつくられたようだった。



(多分、前回にたくさんの貴族が殺されたからだよね……)

 あの会場にいた人間は皆今までの転生では見かけたことのない綺麗な服を着ていた。しかも会場には屈強な男たちが護衛として付いていたのを覚えている。あれだけ殺されていれば国が動くのも無理はないだろう。



 対魔ギルドといって冒険者たちがそのギルドに登録して魔族が従える魔物や魔族を討伐してくれるらしい。魔族は姿を見せることが稀だが1度姿を現せたら被害は計り知れない。なので魔族討伐には多額の報酬がかけられて、その上、魔族を殺した者は王族から称号を貰えるようだ。



 ギルドは冒険者でなくても自由に行き来できる。依頼する場合もあるけど冒険者から得た情報を開示していて商人や旅人の貴重な情報源になっている。

 リビアンもその1人でよくギルドに入り浸っている。魔族が現れたらきっと何処よりもギルドに情報が集まるはず。しかもギルドには仕事を探しにきた冒険者たちがいる。万一のことがあってもきっと冒険者たちが何とかしてくれるに違いない。





「リビアン、また来たのね」

 今日もまたギルドに足を運んでいると馴染みの受付嬢、ミレイが声を掛けてきた。



「うん、今日もお仕事お疲れ様」

 そう返してから掲示板の情報を読み始めた。各地で魔物が出現したとの情報ばかりで魔族の情報はほとんど出ていなかった。すると受付にいたミレイがニヤニヤとした顔で話しかけてきた。



「ほら、お目当てのあの人がいるわよ~?」

「……うん?」



 お目当て?ミレイの言っていることが分からずに思わず首を傾げた。

 とぼけちゃって~~とからかってくるミレイだが本気で何のことを指しているのか分からなかったリビアンの様子を見てようやくミレイが本気で分かっていないことに気付いた。



「え?リビアンってあのレオン様と会う為にギルドに来てるんじゃなかったの?」

「ええ!?何でそうなるわけ……」



 レオンという青年は若くしてCランク冒険者まで昇級した美形の青年だ。

 そのルックスと地位に町の女の子も惹かれていて彼の周りにはいつもたくさんの女の子たちが集っていた。

 リビアンの目から見ても本当に魅力のある青年だと思う。威張り散らすこともなく、正義漢溢れる男だ。好感を持たないわけがない。だけどそこまでだ。好感は好意にも思慕にもならない。リビアンにとってはそれ以上の感情を持つことはなかった。



(恋愛もしたいけど、今はあの魔族から生き残ることだけを考えなくちゃ)

 もし仮に恋人が出来てもあの魔族と出くわしてしまったらその恋人の身も危ない。下手に親しい人を作れば巻き込まれて殺されてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。





「あら?噂をすれば彼が帰ってきたわ」

 そんなミレイの言葉に騒がしい入り口の方を見ると人だかりが出来ていた。高身長の彼は頭一つ抜けているのですぐに見つけることができた。金髪の髪を持つ爽やかな彼は優しい笑みを浮かべて周りの人たちに挨拶していた。本当に素敵な青年だと思う。あまり話したことがないリビアンでも彼が好青年だと分かるほどに。だけど、リビアンの心が揺れることはない。いつも頭を占めるのはあの醜い顔を持つ恐ろしい男だけ。

 リビアンはいつものように魔族に関する情報を集めようと資料に視線を落とした。がすぐに彼女の耳に衝撃な言葉が飛び込んできた。





「レオンがまた魔族を殺したってよ!!」



 ドクン―――ッ!!男の叫んだ声にリビアンの心臓が激しく鼓動した。



(魔族が討伐された、……まさか、あの魔族が?)

 そう思った時にはもう既に体が動いていた。



「ちょ、ちょっとリビアン!?」

 ミレイの制止の声が後ろから聞こえたが振り払って集団の方へ走っていった。女の子のいぶしげな視線を無視して、人だかりを押しのけて進んでいき、その中央にいる人物の前へと踊り出た。



「あのっ……!!殺した魔族ってどんな姿でしたか……!?」

 ガシッとレオンの服を掴みながらそう尋ねると、彼は虚を突かれた顔のまま答えてくれた。



「……あ、ああ。半分獣の姿をした男の魔族だったよ」



 (違う……、あの魔族じゃない……)

 そう思ったと同時に何故か体の力が抜けた。



(あれ?何で私はホッとしたんだろう……)

 だってあの魔族を殺してくれたら私はもう自由なんだ。もう殺されなくて済むんだから……

 なのに、殺されたのが彼じゃないと分かって安心している。



 そんなリビアンの様子を見てレオンは優しい表情で彼女の肩に手を置いた。

「大丈夫だよ。魔族は倒したからもう安心してくれ」

 肩に手を置かれて思わずビクッと大袈裟に反応してしまい、仰け反ってしまった。



「え?」

「あ、……す、すみません!!」

 すぐに頭を下げて人垣から逃げ出すとそのままギルドから逃げ出した。その背を姿が見えなくなるまでレオンが見つめていたとは知らずに。





 ―――数日後。

「リビアンったらあんなアプローチをするとは思わなかったわぁ」

「だから違うって、私はただ死んだ魔族が誰か知りたかっただけだから」

 そう返したリビアンだったが、あれから何故かレオンがこの街に戻るとリビアンに声をかけてくるようになった。

 他の女の子たちの視線が怖いのでなるべく話を切り上げようとするが、レオンは気にすることなく何度も会いにきていた。



「レオン様ってリビアンのこと絶対に好きだよね」

「何を言ってるの。そんなはずないでしょ」

「だってリビアンって本当に美人なんだもん。リビアンが気があるような素振りを見せたら簡単に恋に落ちちゃうわ」



 また、だ……美人という言葉に何か引っかかりを覚えた。前世であの女性に言われたことがまだ心に突き刺さっているのだろうか。確かに自分は周りと比べて整った容姿を持っている自覚はある。でもリビアンにとっては容姿など二の次だ。死にたくない、彼女の心にあるのはそれだけだった。



 そうしてレオンを避けていたリビアンだったが、何故か帰路を共に着くことになってしまった。

 入り口前で待っていたようでリビアンが帰ろうとする時に呼び止められてしまい、大勢の人の前で断れるはずもなく、頷いてしまった。



「呼び止めてしまってすまない。君と話してみたいと前から思っていたんだ」



 困ったように微笑むレオン。レオンの視線に下品なものは含まれていなくてリビアンは少しだけ安心した。そういうところもレオンが女性から人気がある理由の1つなのだろう。そんなことを他人事のように考えていたリビアンだったが、再び話しかけられてハッと我に返った。



「前に倒した魔族のことを聞いてきたよね?あれはどうして?」

「……前に女ばかり攫って殺す魔族がいると聞いたことがあって、その魔族かと思ったんです」



 正確に言えば聞いたのではなく、体験したのだけども。そんなことを正直に言えるはずもなくリビアンが少し濁しながらそう答えると、レオンは不思議そうに首を傾げた。



「その噂は本当かい?」

「?……ええ」

「いや魔族の情報はCランク以上の冒険者には一早く届くんだがそのような魔族は聞いたことがないな」

「……へ?」



 ありえない、だってあれだけの頻度で会っているんだ。数えきれない程の女の子を攫っていないとおかしい程に。……でも確かにこれだけギルドに通って情報を集めているのに女の子の連続失踪を聞いたことが無い。そこまで考えて1つの考えに行きついた。



(……いや、まさか)

 もし、攫っているのがリビアンだけならあり得る。それなら100年の中でたかが1人、2人の女が消えるだけだ。病死や夜逃げ、事故で死んだと思われるのが妥当だろう。まさか魔族が攫っているなんて誰も思わない。



(……何で?私が転生者だから?)

 でも転生者を攫って殺すことに何の意味がある?殺すだけなら出会ってすぐに殺せばいいだけなのに、あの魔族はわざわざ別の場所に閉じ込めた後に意味の分からないことを強要してその後、殺している。







『オレを見ロ、目を逸らすナ』

 ……あの地を這うような低い声が今もなおリビアンの耳に残っている。



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