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第一話:砂塵
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蛍宇宙(ホタルコスモス)。
それは、星々や惑星が無数に散らばっている虚空。
光を失った代わりに、黄色い花蛍(ハナホタル)が赤や青に瞬き、有象無象に空間を染め上げる。
船や飛行機、ロケットが行き交う光の海を、今日も人や動物、植物、神までをも含む星間者(せいかんしゃ)たちが、商売繁盛やお宝、観光等を求めて駆け巡る。
そんな喧騒とは無縁に、ただ一人、旅を続ける男がいた。
「ちっ、エネルギーがなくなる! くそ!」
ガンっとフィンガーグローブをはめた手で操縦機を叩く。
さらにもう一度。
舌打とともに、ガタイあるワイルドな赤髪のショートヘアが揺れた。
その男――バルガン。
鋭い赤い目つきで機械を睨み、左の剃り込みを指先で無意識に触れる。
肺を満たす毒煙を深く吸い込んだ。その煙が苛立ちを少しでも鎮めてくれればいいが。
バルガンは、ぼさぼさと頭を乱暴に掻きながら呟いた。
「動かなくなったな……。どこかで供給をしねぇといけねぇな」
それから何時間経ったか。
「どれだけ漂ったか分からねぇ。」
ただの鉄くずになった船は虚空に漂い続け、
思考の海に沈んだバルガンは窓越しに闇の絨毯を見つめていた。
花蛍の光が無秩序に瞬き、赤や青の残光が肌を照らす。
それは、巨大な闇のキャンバスに命の粒が散らばるような光景だった。
省エネモードに入った船内では、小さな白いライトの残像がちらつく。
その光はまるで、今の状況を静かに見つめてるかのようだった。
毒煙を吸ったせいか、あるいは気が抜けたせいか。
漂流の単調な揺れが、気づかぬうちに意識を落とさせていた。
数分後、バルガンは目を覚まし、眉間に皺を寄せて吐き捨てるように見やった。
焦げ茶色の惑星が、ぽつんと浮かんでいる。
「あー……そこかよ」
顔をしかめ、操縦席をブーツで軽く蹴ったバルガンは降下操作を済ませ、船外へ出る。
乾いた砂がブーツに沈んだ。
「2時間か……」
エネルギー補給装置に船を預けたが、バルガンの船は他より三倍ほど大きく、満タンまでには時間がかかる。
手続きも済んだため、しばらく暇になったバルガンは空港の窓越しに広がる砂漠を眺めた。
惑星「ガリッド」。
果てしなく続く乾いた大地。
その向こうには、わずかに残った緑の帯が広がり、花畑や観光地として知られる地域も残っている。
「犯罪率が上がってる――」
そんな記事をどこかで見た覚えがある。
砂漠化で作物が育たず、食い物を求めて賊になる連中が増えているらしい。
陽気で奔放な気質の者が多かったが……
もしかしたら、自分もこの土地に生まれていたら、悪いことの一つも考えていたかもしれない。
ふと視線を向けると、砂に慣れた子どもたちが笑いながら走り回っていた。
「無邪気だな」
バルガンは嘆きながらも、わずかに笑みを浮かべた。
あんな環境でも笑えるのか、と少しだけ羨ましく思った。
(ん~手続きを済んだが、じっと待つのは性に合わねぇ。どうせ二時間潰すなら、近くの街――セルタンゴでも覗いてみるか)
セルタンゴ。
緑と砂漠が同居する小さな街で、惑星一の大貴族ロンドの領地でもある。
「惑星一の商人街って聞いてたが……思ってたより人通りは少ねぇな」
かつて商人たちで賑わった街は、いまや静まり返り、空いた露店の布だけが風に揺れていた。
悪い噂ばかりが続いていたのを思い出す。
唯一の声と言えるのは、風に揺れる布のぱたぱたという音だけだった。
その音がどこか、砂の匂いより錆びの匂いが勝っている気がした。
「少し歩いてみるか……」
歩いていると、一人の商人が客に売り込みをしていた。
「どうです、どうです、この純銀仕立ての星匙(ほしさじ)は!」
黄色い前髪を整え、靴から服まで清潔にこなし、緑の帽子に白い羽。
そんな着飾った露天商が、場違いなほど熱を込めて売り続けていた。
それは、星々や惑星が無数に散らばっている虚空。
光を失った代わりに、黄色い花蛍(ハナホタル)が赤や青に瞬き、有象無象に空間を染め上げる。
船や飛行機、ロケットが行き交う光の海を、今日も人や動物、植物、神までをも含む星間者(せいかんしゃ)たちが、商売繁盛やお宝、観光等を求めて駆け巡る。
そんな喧騒とは無縁に、ただ一人、旅を続ける男がいた。
「ちっ、エネルギーがなくなる! くそ!」
ガンっとフィンガーグローブをはめた手で操縦機を叩く。
さらにもう一度。
舌打とともに、ガタイあるワイルドな赤髪のショートヘアが揺れた。
その男――バルガン。
鋭い赤い目つきで機械を睨み、左の剃り込みを指先で無意識に触れる。
肺を満たす毒煙を深く吸い込んだ。その煙が苛立ちを少しでも鎮めてくれればいいが。
バルガンは、ぼさぼさと頭を乱暴に掻きながら呟いた。
「動かなくなったな……。どこかで供給をしねぇといけねぇな」
それから何時間経ったか。
「どれだけ漂ったか分からねぇ。」
ただの鉄くずになった船は虚空に漂い続け、
思考の海に沈んだバルガンは窓越しに闇の絨毯を見つめていた。
花蛍の光が無秩序に瞬き、赤や青の残光が肌を照らす。
それは、巨大な闇のキャンバスに命の粒が散らばるような光景だった。
省エネモードに入った船内では、小さな白いライトの残像がちらつく。
その光はまるで、今の状況を静かに見つめてるかのようだった。
毒煙を吸ったせいか、あるいは気が抜けたせいか。
漂流の単調な揺れが、気づかぬうちに意識を落とさせていた。
数分後、バルガンは目を覚まし、眉間に皺を寄せて吐き捨てるように見やった。
焦げ茶色の惑星が、ぽつんと浮かんでいる。
「あー……そこかよ」
顔をしかめ、操縦席をブーツで軽く蹴ったバルガンは降下操作を済ませ、船外へ出る。
乾いた砂がブーツに沈んだ。
「2時間か……」
エネルギー補給装置に船を預けたが、バルガンの船は他より三倍ほど大きく、満タンまでには時間がかかる。
手続きも済んだため、しばらく暇になったバルガンは空港の窓越しに広がる砂漠を眺めた。
惑星「ガリッド」。
果てしなく続く乾いた大地。
その向こうには、わずかに残った緑の帯が広がり、花畑や観光地として知られる地域も残っている。
「犯罪率が上がってる――」
そんな記事をどこかで見た覚えがある。
砂漠化で作物が育たず、食い物を求めて賊になる連中が増えているらしい。
陽気で奔放な気質の者が多かったが……
もしかしたら、自分もこの土地に生まれていたら、悪いことの一つも考えていたかもしれない。
ふと視線を向けると、砂に慣れた子どもたちが笑いながら走り回っていた。
「無邪気だな」
バルガンは嘆きながらも、わずかに笑みを浮かべた。
あんな環境でも笑えるのか、と少しだけ羨ましく思った。
(ん~手続きを済んだが、じっと待つのは性に合わねぇ。どうせ二時間潰すなら、近くの街――セルタンゴでも覗いてみるか)
セルタンゴ。
緑と砂漠が同居する小さな街で、惑星一の大貴族ロンドの領地でもある。
「惑星一の商人街って聞いてたが……思ってたより人通りは少ねぇな」
かつて商人たちで賑わった街は、いまや静まり返り、空いた露店の布だけが風に揺れていた。
悪い噂ばかりが続いていたのを思い出す。
唯一の声と言えるのは、風に揺れる布のぱたぱたという音だけだった。
その音がどこか、砂の匂いより錆びの匂いが勝っている気がした。
「少し歩いてみるか……」
歩いていると、一人の商人が客に売り込みをしていた。
「どうです、どうです、この純銀仕立ての星匙(ほしさじ)は!」
黄色い前髪を整え、靴から服まで清潔にこなし、緑の帽子に白い羽。
そんな着飾った露天商が、場違いなほど熱を込めて売り続けていた。
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