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王立貴族学院 二年目
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「スリィズ子爵家の領地へ訪問するのか、来月に?」
特別補習も日が経てば打ち解けていくもので初日に比べると先生とは親しくなったと思う。
今までは用がなければ関わらないという距離感で碌に話したことが無かったからかもしれない。
そんなこんなで特別補習の最終日。ばっちりと課題を熟し、いつものように雑談タイムへと入った。
さすがに2週間も経てばどこで集中すべきか理解できるもので二人ともミスが無くなった。
これで今後のテストは大丈夫、だよね、多分。
「はい。シャルからの検証結果がどうなるか楽しみなんです!」
マリアが祈るように手を組んで屈託なく笑う姿が可愛い。
春休み中、マリアとはほぼ毎日会っていたようなものだけど、忘れてはいけないもう一人、もちろんメアリとも会っていた。
店のお手伝いのために週末しか都合がつかなかったからようやく3人で顔を合わせた時にやっとこの予定は纏まった。
そもそも去年の小豆騒動をきっかけで思いついてマリアにとあるお願いをしていた。
といっても結局はソフィアさんがそれを訊きつけて仲介したことで実現できたことなんだけどね。
で、その成果を確認すべくこの時期、マリアの領地に赴くことは決めてた。
当初は協力者ということでソフィアさんを含めての4人だったはずなのにいつの間にか騎士くんが加わっていて、あれよあれよという間に何故かランチメンバー全員が参加ということに。
スリィズ子爵家が関わることだから細かいことは別に構わないんだけど、ただ高位なお貴族様や王族までも参加って負担が大きくなりそうで気が重くないのかな、と。
それにちょっと肉体労働的なことを行なうから体力的に大丈夫なのかは不安だともいえるし、まさかあのお願い事からこんな大げさになるとは思いもしないよ。
「そうか、少し気がかりだが……」
キルシュ先生が顎に手を当て少し何か考えるような素振りをした。
と、その時、ガシャンと大きく派手な音が響く。
どうやらマリアの手が当たったらしく、向かい合うように立っていた先生と机の間に筆記具がバラバラと散らばっていた。
「あ、お話の途中で私ったら……」
マリアが慌てた様子で立ち上がると長机の前へとしゃがみ込む。
先生も反応して拾い始める。もちろんわたしも手伝うために近づいた。
「あぁっ、先生もシャルもごめんなさいっ!」
焦っているためか少しでも早く自分で拾い集めようとするマリア。
わたしの近くにあったものにも身を乗り出して前かがみになる。
と同時に先生も同じものを拾おうと左手を伸ばしていた。
3人同時にそれを掴もうとしている最中、先生がひと足早くゲットした。
「わわっっ」
勢い余ったマリアが前のめりに倒れそうになるのを正面から受け止める。
危なっ、もう少しで顔から床にダイブするところだったよ。
そうして一安心したところでアクシデントが発生!
「痛っ!」
身を起こそうとしたマリアが一定の位置から身動きが取れない様子。
よく見れば先生のシャツの左袖口のカフスに結っている右側の髪の毛が引っ掛かっている。
「スリィズ嬢、動くな!」
筆記具を掴んだ左手をマリアが痛くならないように距離感を縮める先生。
「すまないが、ラペーシュ嬢、これを預かっていてくれ」
筆記具を渡してくると左腕を固定して髪を解こうとどうにかしようとしている。
でも髪を束ねた位置がカフスと複雑に絡まっていてどうしようもなさそう。
察したマリアがリボンをほどいて柔らかそうな髪を靡かせた。
サラリと右側の髪が広がり、幾筋かの分は抜けていった様子。
けどまだピーンと引っ張ってるカフスの根元に絡まったものは解けそうにみえない。
う~ん、見てる限りこれを解くにはちょっと面倒くさそうの一言。
はっきり言って切っちゃった方が早いかもと思ってしまった。ほんの少しの毛束だし。
「シャル、お願い。カバンにある裁縫道具からハサミを持ってきて欲しいの」
マリアもそう判断したようで頼んでくる。
「それはダメだ!」
わたしが立ち上がった時、キルシェ先生が声を上げた。
「女性の髪は大切なものだ。それは絶対に許すことはできないぞ!」
先生はカフスを掴むと左腕の方を強引に引っ張った。
ブチッと音が響き渡って一瞬の出来事。
見ればシャツの袖口の方が少し破れてる!!
「ああっ、袖口が!」
マリアが涙目になった。
「大したことはない。髪を傷つけるよりマシだ」
キルシェ先生は優しく微笑むとスッと立ち上がる。
「さあ、そろそろ時間だな」
気にさせないよう隠すように手を後ろに組んでそのさり気ない仕草がちょっと紳士っぽい。
けどマリアにしてみれば気にならない訳はない。ばっちり破れた部分が見えちゃってたし。
「でも……」
「週明けから新学期だ。気持ちを切り替えて身に付けたことを継続して努力するように、……分かってるな?」
眼鏡の奥の瞳がわたしたちを優しく見つめている。何も言うなと言わんばかりに。
う~ん、何でだろう、ちょっとキルシェ先生が眩しく見えた。
特別補習も日が経てば打ち解けていくもので初日に比べると先生とは親しくなったと思う。
今までは用がなければ関わらないという距離感で碌に話したことが無かったからかもしれない。
そんなこんなで特別補習の最終日。ばっちりと課題を熟し、いつものように雑談タイムへと入った。
さすがに2週間も経てばどこで集中すべきか理解できるもので二人ともミスが無くなった。
これで今後のテストは大丈夫、だよね、多分。
「はい。シャルからの検証結果がどうなるか楽しみなんです!」
マリアが祈るように手を組んで屈託なく笑う姿が可愛い。
春休み中、マリアとはほぼ毎日会っていたようなものだけど、忘れてはいけないもう一人、もちろんメアリとも会っていた。
店のお手伝いのために週末しか都合がつかなかったからようやく3人で顔を合わせた時にやっとこの予定は纏まった。
そもそも去年の小豆騒動をきっかけで思いついてマリアにとあるお願いをしていた。
といっても結局はソフィアさんがそれを訊きつけて仲介したことで実現できたことなんだけどね。
で、その成果を確認すべくこの時期、マリアの領地に赴くことは決めてた。
当初は協力者ということでソフィアさんを含めての4人だったはずなのにいつの間にか騎士くんが加わっていて、あれよあれよという間に何故かランチメンバー全員が参加ということに。
スリィズ子爵家が関わることだから細かいことは別に構わないんだけど、ただ高位なお貴族様や王族までも参加って負担が大きくなりそうで気が重くないのかな、と。
それにちょっと肉体労働的なことを行なうから体力的に大丈夫なのかは不安だともいえるし、まさかあのお願い事からこんな大げさになるとは思いもしないよ。
「そうか、少し気がかりだが……」
キルシュ先生が顎に手を当て少し何か考えるような素振りをした。
と、その時、ガシャンと大きく派手な音が響く。
どうやらマリアの手が当たったらしく、向かい合うように立っていた先生と机の間に筆記具がバラバラと散らばっていた。
「あ、お話の途中で私ったら……」
マリアが慌てた様子で立ち上がると長机の前へとしゃがみ込む。
先生も反応して拾い始める。もちろんわたしも手伝うために近づいた。
「あぁっ、先生もシャルもごめんなさいっ!」
焦っているためか少しでも早く自分で拾い集めようとするマリア。
わたしの近くにあったものにも身を乗り出して前かがみになる。
と同時に先生も同じものを拾おうと左手を伸ばしていた。
3人同時にそれを掴もうとしている最中、先生がひと足早くゲットした。
「わわっっ」
勢い余ったマリアが前のめりに倒れそうになるのを正面から受け止める。
危なっ、もう少しで顔から床にダイブするところだったよ。
そうして一安心したところでアクシデントが発生!
「痛っ!」
身を起こそうとしたマリアが一定の位置から身動きが取れない様子。
よく見れば先生のシャツの左袖口のカフスに結っている右側の髪の毛が引っ掛かっている。
「スリィズ嬢、動くな!」
筆記具を掴んだ左手をマリアが痛くならないように距離感を縮める先生。
「すまないが、ラペーシュ嬢、これを預かっていてくれ」
筆記具を渡してくると左腕を固定して髪を解こうとどうにかしようとしている。
でも髪を束ねた位置がカフスと複雑に絡まっていてどうしようもなさそう。
察したマリアがリボンをほどいて柔らかそうな髪を靡かせた。
サラリと右側の髪が広がり、幾筋かの分は抜けていった様子。
けどまだピーンと引っ張ってるカフスの根元に絡まったものは解けそうにみえない。
う~ん、見てる限りこれを解くにはちょっと面倒くさそうの一言。
はっきり言って切っちゃった方が早いかもと思ってしまった。ほんの少しの毛束だし。
「シャル、お願い。カバンにある裁縫道具からハサミを持ってきて欲しいの」
マリアもそう判断したようで頼んでくる。
「それはダメだ!」
わたしが立ち上がった時、キルシェ先生が声を上げた。
「女性の髪は大切なものだ。それは絶対に許すことはできないぞ!」
先生はカフスを掴むと左腕の方を強引に引っ張った。
ブチッと音が響き渡って一瞬の出来事。
見ればシャツの袖口の方が少し破れてる!!
「ああっ、袖口が!」
マリアが涙目になった。
「大したことはない。髪を傷つけるよりマシだ」
キルシェ先生は優しく微笑むとスッと立ち上がる。
「さあ、そろそろ時間だな」
気にさせないよう隠すように手を後ろに組んでそのさり気ない仕草がちょっと紳士っぽい。
けどマリアにしてみれば気にならない訳はない。ばっちり破れた部分が見えちゃってたし。
「でも……」
「週明けから新学期だ。気持ちを切り替えて身に付けたことを継続して努力するように、……分かってるな?」
眼鏡の奥の瞳がわたしたちを優しく見つめている。何も言うなと言わんばかりに。
う~ん、何でだろう、ちょっとキルシェ先生が眩しく見えた。
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