ヒロインの、はずですが?

おりのめぐむ

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王立貴族学院 二年目

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「あれ、マリア?」

 キルシェ先生の居る研究棟へと向かう途中、見慣れた赤ピンク系の髪を二つに束ねた後ろ姿が目に入る。
 
「しゃ、シャルなの? 良かったわ!」

 ぱぁぁぁと嬉しそうな笑顔に問えば何とマリアも補習組。どうやら名前の書き忘れや解答欄がズレてたとか最後のテストもいろいろと注意散漫でやらかしたみたいらしい。
 わたしと同じく進級には問題ないけどこの状態が続けば来年は危ないんだって。
 マリアはよくモノを落とすし、ちょっと抜けているところがあるもんね。
 ということで二人してキルシェ先生の補習を受けることになった。

「君たちは毎回毎回テストだけではなく、普段から集中できていないようなところがある」

 室内に入るとそこには白シャツにタイだけというラフな格好のキルシェ先生が黒縁眼鏡を光らせて腕を組みながら待っていた。
 研究棟は各先生たちの待機室のようなもので本棚、机と椅子があるだけのシンプルなつくり。
 しかも個別指導ができるようにか長机と椅子があり、わたしたちはそこへ座った。

「判っていると思うがこのままだと来期は完全に落第だからな」
 
 この補習に関してはわたしたち二人だけの特別版らしい。
 というのも同じように赤点を取った子息令嬢はいるものの、彼らは教科だけ特化してヤバいという状況らしい。
 つまりは単科の補習で済むから各々の教員が個別指導済みとかでもちろん課題を与えられている。
 ところがわたしとマリアに関しては各教科は概ね理解しているものの、例によってのやらかしで全教科に影響するミスを犯しており、それも毎度のテストごと、注意散漫な点で危機感があると担当教員であるキルシェ先生が判断した様子。
 そうだよね。毎度のテストで点数は上下しても全教科を通してケアレスミスは治ってないんだし。
 ともかく留年を仄めかされ、ぞっとした。お爺様にもまた心配させてしまう。
 まあ、これ以上迷惑かけないためにもがんばるしかない。
 思えば提出物に関してはアイネさんに助けられていたんだよな。
 事前にチェックが入ってたから問題なかったわけでチョコクレープ作戦が成功してからは二人の邪魔しちゃ悪いと自主的に行動したのが運の付きだったよう。
 テストどころか普段の提出物ですら何度もやり直す羽目になってたし。
 同じくマリアの方もソフィアさんのチェックが入っていたのにも拘らずちょいちょいうっかりでやらかしてたみたいで。
 これは今後のことを考えての救済措置の補習であることは間違いない。
 メアリは学年最後にはトップ10入りしてたから問題ないってことはご愛敬。
 今、わたしだけじゃなかったのがラッキーだったかなと思うことにした。

「ともかく焦る必要はないが集中して取り組むように」

 与えられた課題を前にキルシェ先生が注意を促した。
 といっても難しいものではない。二人とも概ね理解はしているものの、ケアレスミスの蓄積だから慎重に取り組むだけ。
 互いに一問一問確かめながら事を進めるから妙な緊張感はあり、集中はできた。
 初日ということもあってか熟していく気持ちが強かったのかも。

「……そろそろ時間だな」

 キルシェ先生の声が聞こえ、もうそんなに経ったのかと思った。

「頭を使い過ぎたからといって帰りが注意散漫だと困るぞ」

 ニッと笑いながらわたしとマリアの手元にキャラメルを一つずつ置いていく。

「わぁ、キルシェ先生、ありがとうございます」

 マリアが嬉しそうに声を上げる。
 おおっ、疲れた脳内には嬉しい糖分補給にピッタリ!
 今は正しいスペルがぐるぐると頭の中を回りっ放しだから緩和できそうかも。

「ありがとうございます。早速いただきますね」

 マリアと共に包みを開けて口の中へと放り込む。
 歯にくっつきそうな固さで甘さの中にほろ苦さと塩味を感じてとても美味しい。
 う~ん、これは合いそうな気がする。

「……アレンジで小豆を入れて美味しく作れるかも」

 思わずぼそりと呟くとキルシェ先生が怪訝そうな顔をする。

「ん、ラペーシュ嬢はこの売り物が作れるというのか?」

「……先生、実はシャル、お菓子作りが得意なんです。それにアズキを甘味にした発案者なんですよ!」

「まさか国内で流通し始めた餡子というのが……」

「そうなんです。すごいですよね!」

 マリアが拝むように手を合わせて誇らしげに微笑む。
 前世で知ってたから作ってみただけでなんかすいませんって感じ。

「いえいえ、ええっと、わたしだけの成果じゃありません。メアリとマリアの協力もあってこその賜物でして!」

「君たちはただの迂闊者という訳ではないようだな。ふっ……だがもう少し配慮して学業の方にも気を向けて欲しかったといえるが」

 ヤレヤレといった感じでキルシェ先生が甘く微笑む。
 普段見たことのない緩んだ空気で何となく大人の色気が流れる。
 いつもと違う雰囲気にちょっとドキッとした。

「ま、わき目を振らず気をつけて帰るように」 
 
 軽く手を上げるキルシェ先生とほんの少し近くなった気がして初日が終了した。
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