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隊長と美琴くん シリーズ

「星降る夜に」編

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「隊長ー、今日は無理じゃないですかー?」

 暗雲立ち込める夜空。
 月の明かりすら見えない真っ暗闇の中、隊長といる。
 何でも流星群が観測できるとかで望遠鏡をもって張り切って出かけたのはいいけど、あいにくの空模様ってとこ。

「美琴くん、観測にはハプニングがつきものなんだよ。少しの時間でも雲が切れて見えることだってある」

 見上げる夜空にはそんな気配すらないけど。
 それどころか雨でも降るんじゃないの?
 街の明かりが見えないところまでとこんな山奥。
 しかも運転はこの私。
 隊長は免許すら持ってない。頭は良いが持ってないし。
 天気予報では全国的に曇りを示していて観測は絶望的なのは判っていた。
 なのに、隊長ってば行くの一点張り。
 研究者としてはこういう時は譲れないらしい。
 助手としては仕方がないのでついていくしかないし。
 観測地点まで荷物を運ぶのも私の役目。
 軽自動車の半分を占拠した天体望遠鏡。組み立てるのも大変だった。

「隊長ー、足元結構凸凹してますから、気を付けてくださいねー」

 そう言いながら荷物を持ってヘッドライトを照らしながら歩く。

「あと、雨降りそうですよ。望遠鏡、大丈夫ですかねー?」

「んー、そうだねえ」

「うわっ」

 その時、何かが引っ掛かり、私は望遠鏡を守るため、後ろ向きに傾いた。
 そしてそのまま、ガツンとした衝撃を食らう。

「だ、大丈夫か? 美琴くん!」

「あはははは、目の前にお星さまたくさん出てますよー、隊長」

「美琴くん!」

 視界が緩んでたくさんの流れ星を目にした後、意識が遠ざかっていった……。


 気づいたときは車の中。
 後頭部には大きなたんこぶ。
 頭を押さえつつも、車外からは雨の音が聞こえている。
 打ち付ける音が結構激しく、観測は絶望的と把握。

「……結構、降ってますね。帰りますか?」

「美琴くん、気がついたのか?」

「はい、どうにか。確かに隊長の言う通り、ハプニングが付きものでしたね。まあ、個人的にはたくさんの流星を見た気がしましたけど……」

 運転席に座る隊長に向かってテヘッと笑って見せるも無表情。
 まっすぐ前を見据えたまま、相変わらずの様子。

「……まあ、もう少し待ってみよう。本物が見れる、と思うよ」

 そういった矢先、あれだけ降っていた雨足が弱くなる。
 隊長がフロントガラスにワイパーをかけると雲の切れ間が現れた。

「あ、やんじゃいましたね」

 雨粒に濡れた窓ガラスにどんよりとした雲を残したままの夜空。
 一瞬だったけど、すぅーと星が流れた気がした。
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