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悪役侍女、真実を知る

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「私は模索していたのだ。恥ずかしながら愚かな私は何も知らずに生きていたからね。まず君は我が公爵家の事情をどこまで知っているだろうか。……そうだな、私が今、公爵として君臨しているがあと数年もしない内に譲ることになっているのは知っているだろうか?」

 そう前置きして始まった話は小説でも簡単に描かれていた。
 グリフィス公爵家はアレクシスラント王国でも王家に続く地位にあると言われている。
 カーティスは公爵家の長男として産まれたが病弱で当主の才覚は持ち合わせていたものの、健康面で不安視されていた。
 祖母であるベルネッタは後継としてその点だけを指摘し続け、次の子を産まない母ヴァネッサにプレッシャーを与えてしまったのだ。
 結局はその恨みからブランディンを身ごもることになるのだが、その後は彼にのみ異常に執着するようになってしまった。
 つまり、ヴァネッサは長男であるカーティスよりもブランディンを選んだといえる。
 その証拠に後々ブランディンが成人を迎えれば公爵として爵位を譲る手筈となっているのだ。
 そして中継ぎにカーティスを穴埋め要員として補うだけの存在と見ているだけ。
 ところがエリオットはヴァネッサの意志を引き継ぎつつも公爵家はブランディンを中心に兄弟たちで支え合うように育てていこうとしていた。
 だがヴァネッサの執着的な意思はブランディンにがっちりと引き継がれていた。
 亡きヴァネッサのブランディン至上主義は水面下でしっかりと根付いていたのだ。
 ブランディンは今、学園生活2年目を送っている。
 学園生活はもう1年あるが卒業時には公爵となってしまうのだ。
 
「はい、存じております」

 だからこそ、アーデン入学の年に事件が起こってしまう。
 さすがに王家の中までには手が出せない故、思い通りにならないマーデリン個人を傀儡にしようという策略のために。

「そうか。私は見ての通り、健康面で不安があると言われている。それでもある程度は丈夫になれたと自負している。剣術も馬術も人並みに鍛え、学園に入学するレベルには体力がついていた。だが、少しでも無理をし過ぎるとすぐに熱を出してしまうのは変わらないようだが……」

 俯いていたから気づけなかったが今はほんのりと顔が赤い気がする。
 思わず近寄って大丈夫ですかと手を触れてみれば熱い。

「やはり執事長を呼んできますね!」

 慌てて出ていこうとすると、がしっと腕を掴まれる。

「待て! まだ話は終わっていない」

「ですが、熱が出ているようです」

「判ってる。いつものことだ。医者を呼ぶまでもない。少し休めば大丈夫だ。それよりも大事な話だ」

 カーティスは熱っぽい手で掴んだまま私を離そうとしなかった。

「わかりました。話は訊きます。手をお放しください」

 私は再び座り直すとカーティスと向かい合い、少しでも異変を感じたら今度は呼びに行こうと顔色を窺った。
 
「……判っているだろうが次期公爵はブランディンだ。それは亡き母の遺言みたいなものだ。父はそれを実現するために動いていて将来は補佐として私とアーデンがグリフィス公爵を支えられるように努めてきた。だがブランディンはそうではなかった。元々アーデンのことは歳も近いから気に食わない程度で嫌っているとばかり思っていたためにフロンテ領に引き離す形をとってしまった。まさかその裏でアーデンを追い込んでいるとは想像もつかず、安易に報告のみに留めてしまったことが悔やまれる。だからこそ君がいてくれたことに救われた。そして今もこうして生き延びているのも君のおかげだ。それ故に知ってほしいと思った」

 一瞬、躊躇しながら決意したかのように顔をぐっと上げる。  
 息苦しそうな表情を浮かべながらも必死に伝えようとしてる紫の瞳が光った。

「アーデンは私の子だ」

 カーティスはとんでもない爆弾を投下した。
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