1 / 3
25歳のナイト・メア
しおりを挟む
はぁ、今日も疲れた。
今期から新人の指導係となってしまった私はただただ疲れていた。
社会人3年目となる私、五条ニ子は連日、残業に苦しんでいる。
何が悲しくて毎日毎日居残る羽目になるのか。
それは春に入ってきた新社会人、新人の後輩である河合陽菜が原因としか考えられない。
確かに私も新人時代は右も左も分からず、知らないところで先輩にたくさん迷惑をかけたかもしれない。
こんなこと聞いていいのかな、当たり前だったらどうしようとビクビクしながらなかなか先輩に聞くこともできなかった。
特に私の場合、威圧感のすごい男の先輩だったので余計に。
けれど教えてもらったことは忘れないようにと工夫し、一生懸命頑張っていたつもりだった。
もちろんやらかしてしまった時は理不尽なまでに怒られたりもした。
失敗や間違いを繰り返し、涙を呑んだ日々は忘れない。
ただ同期たちの指導係はそこまでなかったとのちに知ったのは半年経った飲み会の場。
その評判は最悪なもので陰では横柄な態度や行動が嫌悪され、避けられているらしかった。
あの先輩はヤバイ人、ということを知らず積極的に近づいていて、本当は極力関わりを持たないよう過ごすのが利点というのが周知の事実だったというわけ。
それからただただあまり先輩に頼らないようにしながら指導係から解放される日々を待った。
まあ、最悪な先輩と当たったせいで仕事の方は先回りできるようになったし、あまり周囲とは深く関わらないように最低限の付き合いとなっていったけど。
それからマイペースに仕事をこなし、だいぶ慣れてきたかなぁと思っていた3年目。
「五条、今度の新人の指導係を頼んだぞ」
とまあ、予告なしに突然、上司からの指令が下ったわけで。
とにかく自分が最悪の指導係に当たったものだから同じような思いをさせまいと気を使うことにした。
明るめの髪色でショートボブのとにかく大きな瞳が印象的な顔の女の子。
新卒で初々しいはずの後輩はとにかく世間知らずに見えた。
何かにつけアイドルのような上目遣いで首を傾げ、そうなんですかぁ?と口にした。
毎日毎日、一般常識と思えることを口にしてもわかりません、教えてくださいの繰り返し。
なかなか指導が進まず、私が新人時代していた対処法を伝えても返事だけはして実践をすることがない。
最低限の仕事量を与えてようやくこなすのに半年は経っていた。
他の新人たちはもうかなりの仕事を与えられているというのにもかかわらず!
どうにも未だに初歩で躓いていて進歩なく足踏みしている状態。
指導係は1年間と決まっていてもう既に8か月近くは経っているのに。
このままでは私の負担が変わらない状態で終えてしまうことになる。
それどころか次の年には新しい仕事も増えていくのに負担増となるのは目に見えているのだ。
その結果が今の、残業という、現状を生み出している。
そもそも新人が任されなければならない仕事を私が被っているのだから。
当の本人は少量の与えられた仕事を終わったとばかりに定時に退社していたりする。
だからどうにか引き継いでもらわないと私が大変なのだ。
とはいえ、通常の業務と新人の指導、プラス引き継げなかった業務で余裕ができることなく残業を繰り返している。
カメの歩み程度での進捗で仕事を増やしてはみるものの、私の残業は減ることはない。
平日はバタン、キューの状態で日々の疲労の蓄積は体力を消耗している。
かろうじて週末は疲労解消に寝過ごしながら貯め込んだ家事をどうにかこなす生活。
そんな毎日の繰り返しで何ということもなくとうとう誕生日を迎えてしまうのだ。
このままではやってられない!
といっても何も変わることがないもやもやした気持ちを常に抱えていた。
テーブルに顔を伏せながらスマホを握る。
時刻は23:25を指していた。
何が悲しくておつとめ品の弁当を開封して食べているんだか。
レンジで温めただけのあまりおいしくない食事を終えたらどっと疲れがきた。
着替えてお風呂に入らなきゃいけないのに、と空腹が満たされただけで眠気が増してくる。
はあ、せめて身綺麗にして25歳を迎えたい。
でもって毅然とした態度で指導係としてやり直してみせる!
誕生日を機に切り替えるんだ、私。
あと少しで日付も変わる……し……。
そう思いながら意識が飛んでいた。
「うそっ!」
気が付いてタップすれば0:25を指していた。
日をまたぐのはほんの少しの時間だったのにうっかり寝てしまった。
傍らにあったスマホを置くと後悔の念に捕らわれる。
お弁当の空箱はそのままでお風呂さえ入らず、化粧も崩れたままの姿。
しかも誕生日を目前にして寝過ごしてしまうなんて。
祝ってくれる相手すらいない寂しい環境なのはわかっている。
こんなぼろぼろの姿でも気持ちを切り替えたかった。
だからせめて日付が変わった瞬間を自分で祝いたかったのに!
ほんの少し過ぎただけの時間とはいえ、自分で自分を呪いたくなる。
午前0時ジャストにこだわりを持ちたかった。
だから悔しい気持ちが沸き上がって思わず祈った。
「もぉおお~~、時間、戻ってよ!!!」
その時、バチバチと静電気が走ったように全身がしびれた。
「……え、何?」
雷でも落ちたのかと思わず周囲を見渡す。
さっきと変わりなく机の上には食べ終えたお弁当の空箱とスマホがあった。
落雷情報があるのかとタップすれば表示された時刻が0:00を指している。
「……はあ?」
画面を見つめているとすぐに0:01に切り替わっていた。
おかしいなぁ、さっきは25分だったと思ったのに気のせい?
もしかして疲れているから見間違えたのかもしれない。
とりあえずは誕生日おめでとう、私。
今日から気持ちを切り替えて毅然とした態度で指導してみせる!
よし、出勤に備えてお風呂入ってさっさと寝るぞ!
そう意気込んで立ち上がると突然ぐうぅううと大きな音でお腹が鳴った。
うそっ、さっき食べたばかりなのに何故だかものすご~くお腹が空いている。
空の弁当箱は食べ残しのかけらもない。ちゃんと食べているはずなのに。
しかも遅い時間での食事だし、詰め込んだという形での満腹感があったはず。
それが一切無くなってただただお腹が空いたと大合唱している。
だけどそれを振り切ってお風呂に入って誤魔化すことにした。
さっぱりすればどうにかなるんじゃないかと。
けどあがった後でも変わることなく余計に空腹感が増してくる。
こうなったら寝るに限る!
寝て誤魔化し作戦を決行しようとベッドに入るものの、疲労よりも空腹感の方を感じる。
我慢できなくなってとうとう朝食用にと購入していたおつとめ品のサンドイッチを食べても満たされず、結局カップ麺3個に手を出してようやく収まった。
翌朝、暴食したのにも拘らず何事もなかったかのようにお腹が空いていた。
あれだけ食べたのに胃もたれせず、普通に食べられるような感覚。
ただ冷蔵庫には大したものが入っておらず、朝食にすべきものは既にないので新たに調達するしかない。
一人暮らしという気楽な身でありつつ、自分のことは自分でしないといけないという弊害もある。
正社員として会社に勤めているとはいえ、毎月の給料はそれなりだけど家賃と外食ばかりになってしまう出費のこの事態。
華の一人暮らしも夢のまた夢、あの指導係の元ではそんな余裕すらなかった。
精神を削られた一年目。
自分のためにご飯なんて作る気力すら湧かなかった。呆然としながらコンビニ弁当でしのいでいた。
仕事をこなそうとする二年目。
新人時代のトラウマもあって関係ない仕事もしょい込んでしまったのもいけなかった。
断っていればさっさと帰ることもできたのに不要な手伝いをしていたと気づくのが遅かった。
自分の生活が後回しで仕事ばかりが優先となり、つい楽な方へと逃げてしまっての外食三昧。
貯金どころかエンゲル係数が高すぎて本当にやばかった。
その反省を踏まえて今度こそは丁寧な生活を目指そうと思っていた矢先の三年目で指導係任命。
手ごわい相手に四苦八苦しつつ、結局は残業となってしまう日々。
どうにかスーパーのおつとめ品でしのいでいるものの、買食は続いている。
只でさえ安全を考えて防犯面のいい賃貸に住んでいるから家賃が他より高いのに節約できてない!
自炊して食費を抑えれば貯金ができると判っているのに!!!
自分の食欲にぞっとする。しかも数食分も食べているのにもかかわらず!!!
普段の私から考えるとありえない。けど朝は食べないと頭が回らないのは体験済み。
ぼんやり過ごしてしまい効率的ではないから仕事が熟せなくなってしまう。
だから仕方なく出勤前にコンビニでサンドイッチを買った。
うう、痛い出費。値引き価格に慣れているこの身には定価で買うことが痛くなってしまっている。
とにかくさっさとお腹を満たしたら今日こそ侮られないよう威厳を果たしてみせる!
「おはようございます」
いつものように自分の席に座ると隣の机の上を見る。
パソコン以外、何もない片付いた机上。
なのに私の机には書類の束。パラパラとめくればデータ入力するものばかり。
だから、何で私の机に置くわけ?
これ、どう見ても新人がやる仕事でしょうが!
当の本人はまだ出社すらしていない。
いつも時間ギリギリにやってきて平然としている。
勤務開始になってからようやく手荷物を片付け始め、お手洗いにいく。
席を離れることが多くて気が付いたら誰かと雑談をしていたりする。
パソコンを立ち上げていない時すらあって唖然とした。
指導したくても準備すらできていない。
そのくせわからない教えてくださいと上目遣いで訴えてくる後輩なんだから。
周りもこの状況を気づかないふりをしているのか、新人をフォローするのが指導係の役目と関わろうとしない。
うん、私が新人時代味わった空気感とよく似ている。
そのくせ新人の雑談に付き合って愛想よくし、頼み事があるときは私に間接的に回してくる。
直接頼むことで嫌な印象を持たれたくないのが丸わかりってこと。
確かに新人である河合さんはテレビに出ていそうなアイドルのような可愛い風貌。
甘えたような高い声で愛嬌を振り巻き、明るい雰囲気を作っている。
他の新人たちと違って一番キラキラしているのは間違いない。
その雰囲気を壊したくないと思えるのは無理もないけど、だからといって仕事を覚えないのは別問題。
いつまでもこの空気感を肯定し続けるから甘えているのかもしれないと判っていた。
私も新人時代のことが過ぎり、つい濁した感じで指導してきた。
その結果がこれなのだ。
フォローどころか周りからの負担すら背負うようになっている!
25歳を迎えた今日、私はいいかげんこの状況を打破したい。
うん、打破するんだ!!!
「おはよう、ござぃまぁす。五条先ぱぁい」
時間ギリギリに出勤した後輩はニコニコしながら席に座る。
ハンドバックを持ったまま腰掛け、スマホを見ている。
「河合さん、席に着いたらパソコンを立ち上げるって忘れちゃった? もう仕事始まってるの分かってる?」
「ええぇ~、先輩今日はどうしたんですかぁ? ヒナ、まだ荷物片づけてないんですぅ。まだ準備できてないんですよぉ」
「これ、午前中までに終わらせなきゃいけないデータ入力なの。昼いちに各部署に反映させないといけないから急いでね」
私の机に置かれた書類を河合さんの机に移動させる。この量をいつものようにちんたらやってたら間に合うはずもない。
そもそも私が関わってない仕事内容だから置いた本人が説明するべきなのに!
「えええ~っ、そんなこと急に言われても困りますぅ。お手洗いにもいってないしぃ」
「いいからすぐに取り掛かって! 荷物は足元に置いてさっさと始めないと間に合わないよ」
不満げな態度の後輩を他所に私は自分の仕事に取り掛かった。
ふくれっ面をしながらだらだらとしようとする河合さんもいつもと違う雰囲気を感じたのか仕方なしにパソコンを立ち上げ、書類を見ている。
「五条先ぱぁい、これ、どこに入力するんですかぁ? わかりません、教えてください」
甘えたような声が聞こえたけど、あえて無視してパソコンに集中する。
きっと上目遣いで見つめながらこっちを見ているのかも。
最初の頃はいちいちアイコンを指してこれこれと説明を繰り返していた。
その作業も毎回同じようにだらだらと続くからもう直接マウスを取って画面を選んであげるようになっていた。
ご丁寧に一応説明しながらも入力画面まで導いてから仕事をさせていた方が効率がいいと思っていたから。
それでもなかなか進まない作業で最終的には手伝わなければならない始末。
結局、私の仕事は後回しとなって残業する羽目になっていたのだから。
それも今日から脱却すべき。
「ねぇ、五条先ぱぁいってば」
片手を揺すられ、画面の文字が変な羅列になる。
「それ、岡本さんの案件だからそっちに尋ねてもらってもいいかな?」
本当は解かっているけど手伝わない姿勢を打ち出す。初見でわからない時は私が聞いて理解した上で説明していた。けどもう8か月経っても進歩がない。
説明した時は解かりましたと返事をするのに似た内容でもどうでしたっけ? と繰り返される。
特に手間のかかるものに関しては埒が明かない。吸収しようとしていないのは自ら動かないせいかもしれないし。
「ええぇ~、先輩、ホント、どうしたんですかぁ? 今日、変ですよぉ~」
非難する甘えた声を無視して私は画面に集中して文字を打ち直した。
その内、諦めたのか書類を持って動き出した。
いつもなら簡単に雑談へと話しかけに行ってるのに今日は席を外すのが遅い。
わざわざするりと抜け出すのも私が河合さんの代わりにパソコンを触っている時に限ってだから。
その時間すら確保できてない今日はちょっと戸惑ったのかもしれない。
自ら動いて解決する。これが本来の業務であるべき。
……と思ってたけど、いつまで経ってもデスクに戻らない後輩。
ちらりと伺えばいつものように雑談に明け暮れているのか先輩である岡本さんに笑顔を振りまいている。
まさかいつものように私が手伝ってくれると思ってるの?
そんな不安を抱きながら私は自分の仕事に注視した。
「おい、ヒナちゃんが苦戦してるのに飯を食うつもりか?」
オフィス内の掛け時計がお昼の12時を指している。
ひと段落を終えた私は休憩するため、食堂へ向かおうとした。
ここの社食はどこぞの大学が監修しているという栄養のバランスが整ったメニューを提供してくれ、しかもワンコインで食べられるという優れもの。
日頃、偏った食事ばかりの私の唯一の救世主ともいえる大変大事な食事でもある。
そんな私に非難そうな言葉を投げかけたのは河合さんと雑談をした岡本さんだった。
「お昼休憩なのでそのつもりですが」
「わかってるのか? あれは昼いちに反映しなきゃいけないデータだぞ」
焦った様子で岡本さんは私に詰め寄る。
そもそもあの後、小一時間ほど駄弁ってたのは誰だろう?
河合さんが席に戻った後もうだうだしていて全く手伝おうともしない私を諦めてようやく作業を始めたのは25分前。
終わらないのは当然の結果。
「河合さんの取り掛かりが遅いからだと思います。私は午前中に終わらせるよう指導させていただきました。それに河合さんから声を掛けられた際、岡本さんも助言したんですよね? そういうことですので私は休憩させていただきます」
丁寧にお辞儀をするとそそくさとその場を去った。去年の経験がある以上、何か余計なことを言われる前に退散する。貴重な昼休みがつぶれてしまっては元もこうもないし。
25歳を迎えた私は今までとは違うんだからね!
今日から無駄な残業もせず帰ってみせる。そのためにさっさと自分の仕事を終わらせて早い時間に退社しないと。で、お店のケーキでも買ってセルフ祝いをしよう、そうしよう!
社食の安心感にテンションを上げながら午後の仕事の段取りを巡らせた。
休憩を終え、デスクに戻れば未だにちんたらとやってる河合さんの姿がある。そばには岡本さんの姿も。
あと5分もすれば業務開始。あの様子から間に合ってないのが目に見える。
「おい、五条! お前、本当にヒナちゃんに指導してきたのか!?」
椅子に腰かける私に気づいた岡本さんが声を荒げた。
「もちろんです。そもそもその案件は今回で4回目ですよ? 2か月ごとにまとめるデータ入力なんですからこれまで3回は指導してます」
「だったら……何故こんなに時間がかかるんだよ。もう間に合わないじゃないか!」
「ですから取り掛かりが……」
すると河合さんが突然わぁっと泣き出して間に割り込んできた。
「ごめんなさい。あたしが悪いんですぅ。今日、五条先輩が怖くて分からないところを聞きにくかったんですぅ。それでパニクってしまって進まなかったんですぅ。それに頼りになる岡本さんが手伝ってくれたからずっと緊張しちゃったしぃ」
「ひ、ヒナちゃん、そうだったのか……」
そうこうする内に午後からの業務時刻になっていく。呆れて何も言えなかった。
「よし、こうなったら明日に変更してもらおう。今から各部署に頭を下げてお願いしにいこう。こういう経験も新人には必要だ。ヒナちゃん、できるよね?」
「はいっ。岡本さんがいてくれるなら心強いです。がんばれます!」
二人のやり取りを目の当たりにしながら双方の言い分に違和感を覚える。
反映が間に合わないと判断した岡本さんは謝罪行脚へと繰り出すと決断したらしい。
まあ、今まで私がそうならないようフォローしてきたのもある。
確かにこういう経験しておけば自分の仕事がどのようなものか理解できるだろうし。
一人ではなく岡本さんと一緒に行くみたいだし、関係ない。私は自分の仕事をしよう。
……そう思っていたのに!!!
「申し訳ありません。私の指示がうまく伝わらず、新人の指導が不十分でこのようなことになってしまい、こちらの部署には大変ご迷惑をお掛けしました」
岡本さんに指導係にも責任があると強引に引き連れられ、3人で謝罪行脚となっている。
しかも何故か私が一番悪いような形として。
入社して今頃初歩的なと各部署にはすごく睨まれ、嫌な印象がついてしまった。
おかげで仕事の取り掛かりがずれ込み、結局今日も残業する羽目になった。
悪夢か!
今期から新人の指導係となってしまった私はただただ疲れていた。
社会人3年目となる私、五条ニ子は連日、残業に苦しんでいる。
何が悲しくて毎日毎日居残る羽目になるのか。
それは春に入ってきた新社会人、新人の後輩である河合陽菜が原因としか考えられない。
確かに私も新人時代は右も左も分からず、知らないところで先輩にたくさん迷惑をかけたかもしれない。
こんなこと聞いていいのかな、当たり前だったらどうしようとビクビクしながらなかなか先輩に聞くこともできなかった。
特に私の場合、威圧感のすごい男の先輩だったので余計に。
けれど教えてもらったことは忘れないようにと工夫し、一生懸命頑張っていたつもりだった。
もちろんやらかしてしまった時は理不尽なまでに怒られたりもした。
失敗や間違いを繰り返し、涙を呑んだ日々は忘れない。
ただ同期たちの指導係はそこまでなかったとのちに知ったのは半年経った飲み会の場。
その評判は最悪なもので陰では横柄な態度や行動が嫌悪され、避けられているらしかった。
あの先輩はヤバイ人、ということを知らず積極的に近づいていて、本当は極力関わりを持たないよう過ごすのが利点というのが周知の事実だったというわけ。
それからただただあまり先輩に頼らないようにしながら指導係から解放される日々を待った。
まあ、最悪な先輩と当たったせいで仕事の方は先回りできるようになったし、あまり周囲とは深く関わらないように最低限の付き合いとなっていったけど。
それからマイペースに仕事をこなし、だいぶ慣れてきたかなぁと思っていた3年目。
「五条、今度の新人の指導係を頼んだぞ」
とまあ、予告なしに突然、上司からの指令が下ったわけで。
とにかく自分が最悪の指導係に当たったものだから同じような思いをさせまいと気を使うことにした。
明るめの髪色でショートボブのとにかく大きな瞳が印象的な顔の女の子。
新卒で初々しいはずの後輩はとにかく世間知らずに見えた。
何かにつけアイドルのような上目遣いで首を傾げ、そうなんですかぁ?と口にした。
毎日毎日、一般常識と思えることを口にしてもわかりません、教えてくださいの繰り返し。
なかなか指導が進まず、私が新人時代していた対処法を伝えても返事だけはして実践をすることがない。
最低限の仕事量を与えてようやくこなすのに半年は経っていた。
他の新人たちはもうかなりの仕事を与えられているというのにもかかわらず!
どうにも未だに初歩で躓いていて進歩なく足踏みしている状態。
指導係は1年間と決まっていてもう既に8か月近くは経っているのに。
このままでは私の負担が変わらない状態で終えてしまうことになる。
それどころか次の年には新しい仕事も増えていくのに負担増となるのは目に見えているのだ。
その結果が今の、残業という、現状を生み出している。
そもそも新人が任されなければならない仕事を私が被っているのだから。
当の本人は少量の与えられた仕事を終わったとばかりに定時に退社していたりする。
だからどうにか引き継いでもらわないと私が大変なのだ。
とはいえ、通常の業務と新人の指導、プラス引き継げなかった業務で余裕ができることなく残業を繰り返している。
カメの歩み程度での進捗で仕事を増やしてはみるものの、私の残業は減ることはない。
平日はバタン、キューの状態で日々の疲労の蓄積は体力を消耗している。
かろうじて週末は疲労解消に寝過ごしながら貯め込んだ家事をどうにかこなす生活。
そんな毎日の繰り返しで何ということもなくとうとう誕生日を迎えてしまうのだ。
このままではやってられない!
といっても何も変わることがないもやもやした気持ちを常に抱えていた。
テーブルに顔を伏せながらスマホを握る。
時刻は23:25を指していた。
何が悲しくておつとめ品の弁当を開封して食べているんだか。
レンジで温めただけのあまりおいしくない食事を終えたらどっと疲れがきた。
着替えてお風呂に入らなきゃいけないのに、と空腹が満たされただけで眠気が増してくる。
はあ、せめて身綺麗にして25歳を迎えたい。
でもって毅然とした態度で指導係としてやり直してみせる!
誕生日を機に切り替えるんだ、私。
あと少しで日付も変わる……し……。
そう思いながら意識が飛んでいた。
「うそっ!」
気が付いてタップすれば0:25を指していた。
日をまたぐのはほんの少しの時間だったのにうっかり寝てしまった。
傍らにあったスマホを置くと後悔の念に捕らわれる。
お弁当の空箱はそのままでお風呂さえ入らず、化粧も崩れたままの姿。
しかも誕生日を目前にして寝過ごしてしまうなんて。
祝ってくれる相手すらいない寂しい環境なのはわかっている。
こんなぼろぼろの姿でも気持ちを切り替えたかった。
だからせめて日付が変わった瞬間を自分で祝いたかったのに!
ほんの少し過ぎただけの時間とはいえ、自分で自分を呪いたくなる。
午前0時ジャストにこだわりを持ちたかった。
だから悔しい気持ちが沸き上がって思わず祈った。
「もぉおお~~、時間、戻ってよ!!!」
その時、バチバチと静電気が走ったように全身がしびれた。
「……え、何?」
雷でも落ちたのかと思わず周囲を見渡す。
さっきと変わりなく机の上には食べ終えたお弁当の空箱とスマホがあった。
落雷情報があるのかとタップすれば表示された時刻が0:00を指している。
「……はあ?」
画面を見つめているとすぐに0:01に切り替わっていた。
おかしいなぁ、さっきは25分だったと思ったのに気のせい?
もしかして疲れているから見間違えたのかもしれない。
とりあえずは誕生日おめでとう、私。
今日から気持ちを切り替えて毅然とした態度で指導してみせる!
よし、出勤に備えてお風呂入ってさっさと寝るぞ!
そう意気込んで立ち上がると突然ぐうぅううと大きな音でお腹が鳴った。
うそっ、さっき食べたばかりなのに何故だかものすご~くお腹が空いている。
空の弁当箱は食べ残しのかけらもない。ちゃんと食べているはずなのに。
しかも遅い時間での食事だし、詰め込んだという形での満腹感があったはず。
それが一切無くなってただただお腹が空いたと大合唱している。
だけどそれを振り切ってお風呂に入って誤魔化すことにした。
さっぱりすればどうにかなるんじゃないかと。
けどあがった後でも変わることなく余計に空腹感が増してくる。
こうなったら寝るに限る!
寝て誤魔化し作戦を決行しようとベッドに入るものの、疲労よりも空腹感の方を感じる。
我慢できなくなってとうとう朝食用にと購入していたおつとめ品のサンドイッチを食べても満たされず、結局カップ麺3個に手を出してようやく収まった。
翌朝、暴食したのにも拘らず何事もなかったかのようにお腹が空いていた。
あれだけ食べたのに胃もたれせず、普通に食べられるような感覚。
ただ冷蔵庫には大したものが入っておらず、朝食にすべきものは既にないので新たに調達するしかない。
一人暮らしという気楽な身でありつつ、自分のことは自分でしないといけないという弊害もある。
正社員として会社に勤めているとはいえ、毎月の給料はそれなりだけど家賃と外食ばかりになってしまう出費のこの事態。
華の一人暮らしも夢のまた夢、あの指導係の元ではそんな余裕すらなかった。
精神を削られた一年目。
自分のためにご飯なんて作る気力すら湧かなかった。呆然としながらコンビニ弁当でしのいでいた。
仕事をこなそうとする二年目。
新人時代のトラウマもあって関係ない仕事もしょい込んでしまったのもいけなかった。
断っていればさっさと帰ることもできたのに不要な手伝いをしていたと気づくのが遅かった。
自分の生活が後回しで仕事ばかりが優先となり、つい楽な方へと逃げてしまっての外食三昧。
貯金どころかエンゲル係数が高すぎて本当にやばかった。
その反省を踏まえて今度こそは丁寧な生活を目指そうと思っていた矢先の三年目で指導係任命。
手ごわい相手に四苦八苦しつつ、結局は残業となってしまう日々。
どうにかスーパーのおつとめ品でしのいでいるものの、買食は続いている。
只でさえ安全を考えて防犯面のいい賃貸に住んでいるから家賃が他より高いのに節約できてない!
自炊して食費を抑えれば貯金ができると判っているのに!!!
自分の食欲にぞっとする。しかも数食分も食べているのにもかかわらず!!!
普段の私から考えるとありえない。けど朝は食べないと頭が回らないのは体験済み。
ぼんやり過ごしてしまい効率的ではないから仕事が熟せなくなってしまう。
だから仕方なく出勤前にコンビニでサンドイッチを買った。
うう、痛い出費。値引き価格に慣れているこの身には定価で買うことが痛くなってしまっている。
とにかくさっさとお腹を満たしたら今日こそ侮られないよう威厳を果たしてみせる!
「おはようございます」
いつものように自分の席に座ると隣の机の上を見る。
パソコン以外、何もない片付いた机上。
なのに私の机には書類の束。パラパラとめくればデータ入力するものばかり。
だから、何で私の机に置くわけ?
これ、どう見ても新人がやる仕事でしょうが!
当の本人はまだ出社すらしていない。
いつも時間ギリギリにやってきて平然としている。
勤務開始になってからようやく手荷物を片付け始め、お手洗いにいく。
席を離れることが多くて気が付いたら誰かと雑談をしていたりする。
パソコンを立ち上げていない時すらあって唖然とした。
指導したくても準備すらできていない。
そのくせわからない教えてくださいと上目遣いで訴えてくる後輩なんだから。
周りもこの状況を気づかないふりをしているのか、新人をフォローするのが指導係の役目と関わろうとしない。
うん、私が新人時代味わった空気感とよく似ている。
そのくせ新人の雑談に付き合って愛想よくし、頼み事があるときは私に間接的に回してくる。
直接頼むことで嫌な印象を持たれたくないのが丸わかりってこと。
確かに新人である河合さんはテレビに出ていそうなアイドルのような可愛い風貌。
甘えたような高い声で愛嬌を振り巻き、明るい雰囲気を作っている。
他の新人たちと違って一番キラキラしているのは間違いない。
その雰囲気を壊したくないと思えるのは無理もないけど、だからといって仕事を覚えないのは別問題。
いつまでもこの空気感を肯定し続けるから甘えているのかもしれないと判っていた。
私も新人時代のことが過ぎり、つい濁した感じで指導してきた。
その結果がこれなのだ。
フォローどころか周りからの負担すら背負うようになっている!
25歳を迎えた今日、私はいいかげんこの状況を打破したい。
うん、打破するんだ!!!
「おはよう、ござぃまぁす。五条先ぱぁい」
時間ギリギリに出勤した後輩はニコニコしながら席に座る。
ハンドバックを持ったまま腰掛け、スマホを見ている。
「河合さん、席に着いたらパソコンを立ち上げるって忘れちゃった? もう仕事始まってるの分かってる?」
「ええぇ~、先輩今日はどうしたんですかぁ? ヒナ、まだ荷物片づけてないんですぅ。まだ準備できてないんですよぉ」
「これ、午前中までに終わらせなきゃいけないデータ入力なの。昼いちに各部署に反映させないといけないから急いでね」
私の机に置かれた書類を河合さんの机に移動させる。この量をいつものようにちんたらやってたら間に合うはずもない。
そもそも私が関わってない仕事内容だから置いた本人が説明するべきなのに!
「えええ~っ、そんなこと急に言われても困りますぅ。お手洗いにもいってないしぃ」
「いいからすぐに取り掛かって! 荷物は足元に置いてさっさと始めないと間に合わないよ」
不満げな態度の後輩を他所に私は自分の仕事に取り掛かった。
ふくれっ面をしながらだらだらとしようとする河合さんもいつもと違う雰囲気を感じたのか仕方なしにパソコンを立ち上げ、書類を見ている。
「五条先ぱぁい、これ、どこに入力するんですかぁ? わかりません、教えてください」
甘えたような声が聞こえたけど、あえて無視してパソコンに集中する。
きっと上目遣いで見つめながらこっちを見ているのかも。
最初の頃はいちいちアイコンを指してこれこれと説明を繰り返していた。
その作業も毎回同じようにだらだらと続くからもう直接マウスを取って画面を選んであげるようになっていた。
ご丁寧に一応説明しながらも入力画面まで導いてから仕事をさせていた方が効率がいいと思っていたから。
それでもなかなか進まない作業で最終的には手伝わなければならない始末。
結局、私の仕事は後回しとなって残業する羽目になっていたのだから。
それも今日から脱却すべき。
「ねぇ、五条先ぱぁいってば」
片手を揺すられ、画面の文字が変な羅列になる。
「それ、岡本さんの案件だからそっちに尋ねてもらってもいいかな?」
本当は解かっているけど手伝わない姿勢を打ち出す。初見でわからない時は私が聞いて理解した上で説明していた。けどもう8か月経っても進歩がない。
説明した時は解かりましたと返事をするのに似た内容でもどうでしたっけ? と繰り返される。
特に手間のかかるものに関しては埒が明かない。吸収しようとしていないのは自ら動かないせいかもしれないし。
「ええぇ~、先輩、ホント、どうしたんですかぁ? 今日、変ですよぉ~」
非難する甘えた声を無視して私は画面に集中して文字を打ち直した。
その内、諦めたのか書類を持って動き出した。
いつもなら簡単に雑談へと話しかけに行ってるのに今日は席を外すのが遅い。
わざわざするりと抜け出すのも私が河合さんの代わりにパソコンを触っている時に限ってだから。
その時間すら確保できてない今日はちょっと戸惑ったのかもしれない。
自ら動いて解決する。これが本来の業務であるべき。
……と思ってたけど、いつまで経ってもデスクに戻らない後輩。
ちらりと伺えばいつものように雑談に明け暮れているのか先輩である岡本さんに笑顔を振りまいている。
まさかいつものように私が手伝ってくれると思ってるの?
そんな不安を抱きながら私は自分の仕事に注視した。
「おい、ヒナちゃんが苦戦してるのに飯を食うつもりか?」
オフィス内の掛け時計がお昼の12時を指している。
ひと段落を終えた私は休憩するため、食堂へ向かおうとした。
ここの社食はどこぞの大学が監修しているという栄養のバランスが整ったメニューを提供してくれ、しかもワンコインで食べられるという優れもの。
日頃、偏った食事ばかりの私の唯一の救世主ともいえる大変大事な食事でもある。
そんな私に非難そうな言葉を投げかけたのは河合さんと雑談をした岡本さんだった。
「お昼休憩なのでそのつもりですが」
「わかってるのか? あれは昼いちに反映しなきゃいけないデータだぞ」
焦った様子で岡本さんは私に詰め寄る。
そもそもあの後、小一時間ほど駄弁ってたのは誰だろう?
河合さんが席に戻った後もうだうだしていて全く手伝おうともしない私を諦めてようやく作業を始めたのは25分前。
終わらないのは当然の結果。
「河合さんの取り掛かりが遅いからだと思います。私は午前中に終わらせるよう指導させていただきました。それに河合さんから声を掛けられた際、岡本さんも助言したんですよね? そういうことですので私は休憩させていただきます」
丁寧にお辞儀をするとそそくさとその場を去った。去年の経験がある以上、何か余計なことを言われる前に退散する。貴重な昼休みがつぶれてしまっては元もこうもないし。
25歳を迎えた私は今までとは違うんだからね!
今日から無駄な残業もせず帰ってみせる。そのためにさっさと自分の仕事を終わらせて早い時間に退社しないと。で、お店のケーキでも買ってセルフ祝いをしよう、そうしよう!
社食の安心感にテンションを上げながら午後の仕事の段取りを巡らせた。
休憩を終え、デスクに戻れば未だにちんたらとやってる河合さんの姿がある。そばには岡本さんの姿も。
あと5分もすれば業務開始。あの様子から間に合ってないのが目に見える。
「おい、五条! お前、本当にヒナちゃんに指導してきたのか!?」
椅子に腰かける私に気づいた岡本さんが声を荒げた。
「もちろんです。そもそもその案件は今回で4回目ですよ? 2か月ごとにまとめるデータ入力なんですからこれまで3回は指導してます」
「だったら……何故こんなに時間がかかるんだよ。もう間に合わないじゃないか!」
「ですから取り掛かりが……」
すると河合さんが突然わぁっと泣き出して間に割り込んできた。
「ごめんなさい。あたしが悪いんですぅ。今日、五条先輩が怖くて分からないところを聞きにくかったんですぅ。それでパニクってしまって進まなかったんですぅ。それに頼りになる岡本さんが手伝ってくれたからずっと緊張しちゃったしぃ」
「ひ、ヒナちゃん、そうだったのか……」
そうこうする内に午後からの業務時刻になっていく。呆れて何も言えなかった。
「よし、こうなったら明日に変更してもらおう。今から各部署に頭を下げてお願いしにいこう。こういう経験も新人には必要だ。ヒナちゃん、できるよね?」
「はいっ。岡本さんがいてくれるなら心強いです。がんばれます!」
二人のやり取りを目の当たりにしながら双方の言い分に違和感を覚える。
反映が間に合わないと判断した岡本さんは謝罪行脚へと繰り出すと決断したらしい。
まあ、今まで私がそうならないようフォローしてきたのもある。
確かにこういう経験しておけば自分の仕事がどのようなものか理解できるだろうし。
一人ではなく岡本さんと一緒に行くみたいだし、関係ない。私は自分の仕事をしよう。
……そう思っていたのに!!!
「申し訳ありません。私の指示がうまく伝わらず、新人の指導が不十分でこのようなことになってしまい、こちらの部署には大変ご迷惑をお掛けしました」
岡本さんに指導係にも責任があると強引に引き連れられ、3人で謝罪行脚となっている。
しかも何故か私が一番悪いような形として。
入社して今頃初歩的なと各部署にはすごく睨まれ、嫌な印象がついてしまった。
おかげで仕事の取り掛かりがずれ込み、結局今日も残業する羽目になった。
悪夢か!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる