冤罪夫人は二度目で真実を知る

おりのめぐむ

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 やがて王城へ到着し、従者が迎え出てきていた。
 降車して無言で歩く二人の後を追い、控室へと移動する。

「どうぞ、お寛ぎ下さい」

 王宮侍女がニコリと微笑みながらティーカップを並べていく。
 謁見までの待機中、用意されたお茶すら手を付けられない。
 震えそうになる身体を押さえてじっとしていることしかできなかった。
 身を寄せてヒソヒソと話す二人の、もう私を見ていない姿が視界に入るのみだった。

 ノック音が聞こえ、身体が強張る。ついに順番が来てしまった。
 身体に覚え込ませるまで習得した礼儀作法。
 事前に何度も確認し、頭に叩き込んでいた式典の形式は決まっていた。
 爵位の順で行われる謁見から始まり、両親と共に国王陛下への拝謁を行なう。
 慣習化された儀礼は変わらず、常套句を述べて拝礼し退席するのみ。
 けれど所作や作法が重要視されると考え、何度も練習を繰り返し、頭の先からつま先まで抜かりないように気をつかった。
 対外的にもグランシア伯爵家の長子としての矜持を守るために。
 なのに初歩の段階から失敗したとわかり、呼吸が乱れそうになる。
 だけど落ち着かなくてはいけない。大事な式典なのだから。
 そして謁見後には席が設けられ、会食が催される。
 デビュタントのためこの日に集まった貴族令嬢たちとの顔合わせ。
 招待された全員が合同で集い、食事を行なう。
 夜会参加へのハードルを下げるために少しでも顔見知りを、という王室側からの配慮で。
 初対面の貴族同士を繋げるべき、貴重な交流の機会の場。
 そこまではしっかりやり遂げないといけないのだから。
 ぐっと手を握り締めて呼吸を整えた。

 赤地に金をあしらった絨毯が敷き詰められ、天井から王家の紋章を刺繍した布がぶら下がっている。
 数段高い位置に繊細な彫刻が施された玉座があり、国王陛下と王妃殿下が鎮座している姿が見えた。
 腰を低くして横並びに私を挟んで並ぶとお父さまが声をあげる。

「グランシア伯爵家が長子、ローザでございます」

 私は一歩踏み出すと染みついた所作で挨拶を行なう。
 練習した甲斐もあったのかスムーズに身体が動き、安堵を覚える。

「これからも貢献することを望む」

 陛下の言葉に謁見は終わりを見せ、その場から移動し始めた矢先、

「……あら、とても素敵なドレスね」

 去り際に王妃殿下がぼそりと呟いたのが聞こえた。
 ドクリと心臓がはねる。
 けれど背を向けた相手に振り返ることができず、そのまま退室することになった。

「……恥さらしと気づかれてしまったわ」

 背後から近づいてきたお義母さまが耳元で呟き、動悸が激しくなっていく。

「きっと他の者にもそう映るのでしょうね」

 そう言い残しながらお父さまのそばへと近づいていく。
 息苦しくなって追う二人の姿が遠くなる。
 次は交流となる会食の場。
 きちんと果たさなければならないのに足取りが重くなっていく。
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