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夕刻、興奮冷めやらぬ様子でアラベルとヒュードが訪れた。
「お義姉さま、このドレス、王妃さまが褒めてくださったわ!」
デビュタント帰りのドレス返却という名目でこちらへと正式に訪れたらしい。
「そしてね、とても希少なものだったらしいの!」
アラベルはその経緯を詳しく語り出した。
馬車へと乗り込んだ後、お義母さまから白い目で見られてしまったというアラベル。
出発したこともあり、叱られながら着替える間もなく登城。
その後も延々と説教をされ、泣きそうになったらしい。
それでも謁見を迎え、きちんと式典の形式で無事挨拶を終えた。
退出する際に王妃さまが一言を掛けてきたよう。
そこでアラベルはドレスに対して受け答えを行なった。
『褒めていただき、ありがとうございます♡ 詳しく知りませんが伯爵家に代々伝わったドレスなのです!』
それから王妃さまが希少な織物について語ったそう。
もともと真っ白なものではなく乳白色した生地らしく、何年経っても艶やかで上品な光沢を保っている織物。
辺境の村里で育った特殊な蚕のみが生み出す繭で作られた希少なものだった。
お義母さまも驚きを見せつつ、王妃さまからの覚えが良かったということでそれから何も言わなくなったらしい。
さらには食事会でも話題に上がり、注目の的に。
お父さまも伯爵家の管理が行き届いていると羨望されたとのこと。
醜聞ばかりだったグランシア伯爵家の株も上がったようだった。
ともかくデビュタントはアラベルのおかげで大成功を収めたらしい。
だからお義母さまがこちらへ来ることを許したのだろう。
まさかお母さまのデビュタントドレスがそのようなものとは知らなかった。
きっと身体の弱かったお母さまのために特別なものを用意していたに違いなかった。
私のデビューは周囲に耳を傾けるような余裕もなく、後ろめたさがいっぱいで失敗に終わってしまった。
同じようにあの時の気持ちを味合わず、アラベルが恥をかかずに済んで良かった。
「そう、心配していたの。新調したものの方がよかったのではないのかってずっと引っかかっていたの。けれど、無事にデビュタントを果たせて良かったわ」
「ええ、本当。これもお義姉さまのおかげよ。こんな素敵なドレス、貸してくれてありがとう♡」
アラベルは私の手を握り、嬉しそうに笑う。
「それでね、デビューが終わったから次は夜会に参加しなければならないでしょう? 今度はお義姉さまが初めて夜会で着たドレスを貸してほしいの♡ いいわよね?」
「あの、ドレスを……?」
初めての夜会ドレスもお母さまのドレスものだった。華美さはなく、繊細なドレス。
ただいい思い出とはならなかった代物。
「きっと素敵なドレスだと思うの。確かたくさんの子息の方々に声をかけられるほどのものだったのでしょう?」
あの夜会でも私は失敗してしまった。苦い思い出ばかり。
私の醜聞のきっかけを作ってしまった夜会に着たドレス。
「あまり縁起のいいものではないわ」
「ううん、きっと大丈夫。それにお義姉さまも参加すればいいのよ」
「……私が?」
「そうよ。お義姉さまも一緒にね」
アラベルがそうしましょうと力強く手を握りしめる。
けれども意気地なしの私は頷くことができなかった。
「ごめんなさい。すぐには無理だわ」
「もう、一緒に行きたかったのに。……だけど、ドレスは貸してね」
「わかったわ。好きに着てちょうだい」
「ありがとう。お義姉さま、大好き♡」
アラベルは首に腕を回して抱き着いてくる。私は抱き留めることに慣れてきていた。
「あの、お嬢様」
カーラがひと段落付いたところで声をかけてきた。
「ええ、そうね」
決意した顔のカーラは引退のことを話すようだった。
「ええっ! カーラ、辞めちゃうってこと?」
「はい。お嬢様の成人の際に。その引継ぎをヒュードに任せようと思います」
「まあ、それじゃあ、ヒュードはやっと伯爵家に認めてもらえるのね! 嬉しいわ」
アラベルの言う通り、ヒュードの扱いはひどいようだった。
衣食住を保証する代わりに給金などは一切支払われず、最低限の状態。
あくまでアラベルの世話役として連れてきているのみという存在だった。
「ヒュードには私とアラベルのことを兼任してもらう形になるけれどお願いできるかしら」
「お役に立てるのでしたら誠心誠意努めさせていただきます。ただ……」
「そうね。お義父さまがよくは思わないかもしれないわ」
アラベルは言葉の詰まったヒュードを代弁するように呟いた。
「その辺は対処できるから安心して」
「本当に? お義姉さまが困ることはないの?」
「ええ、一応、成人を迎えれば大丈夫なの」
そう、18になれば正式に伯爵家の後継として認められる。
ただほとんどの権限はお父さまが握っているのは確か。
病弱なお母さまの代わりとして領主代理という形で担っていたから。
領内の視察もできず、社交の場も出れなかった正統な後継のお母さま。
そしてその状況が私にも当て嵌まっていて全てを引き継げる状態ではない。
最近は体調はいいけれどもまたどうなるかわからない。
だから婿養子が必要でこのまま婚姻することがなければこの状態が続いていく。
お義母さまが譲れというのも無理はない。実際に私は何もできてないのだから。
カーラが引退すると宣言してからまだ戸惑っている。
ただ、これをきっかけに少しづつ踏み出していきたいと思ったのは確か。
成人までの数か月、これからのことを見つめ直さなければいけない。
「お義姉さま、このドレス、王妃さまが褒めてくださったわ!」
デビュタント帰りのドレス返却という名目でこちらへと正式に訪れたらしい。
「そしてね、とても希少なものだったらしいの!」
アラベルはその経緯を詳しく語り出した。
馬車へと乗り込んだ後、お義母さまから白い目で見られてしまったというアラベル。
出発したこともあり、叱られながら着替える間もなく登城。
その後も延々と説教をされ、泣きそうになったらしい。
それでも謁見を迎え、きちんと式典の形式で無事挨拶を終えた。
退出する際に王妃さまが一言を掛けてきたよう。
そこでアラベルはドレスに対して受け答えを行なった。
『褒めていただき、ありがとうございます♡ 詳しく知りませんが伯爵家に代々伝わったドレスなのです!』
それから王妃さまが希少な織物について語ったそう。
もともと真っ白なものではなく乳白色した生地らしく、何年経っても艶やかで上品な光沢を保っている織物。
辺境の村里で育った特殊な蚕のみが生み出す繭で作られた希少なものだった。
お義母さまも驚きを見せつつ、王妃さまからの覚えが良かったということでそれから何も言わなくなったらしい。
さらには食事会でも話題に上がり、注目の的に。
お父さまも伯爵家の管理が行き届いていると羨望されたとのこと。
醜聞ばかりだったグランシア伯爵家の株も上がったようだった。
ともかくデビュタントはアラベルのおかげで大成功を収めたらしい。
だからお義母さまがこちらへ来ることを許したのだろう。
まさかお母さまのデビュタントドレスがそのようなものとは知らなかった。
きっと身体の弱かったお母さまのために特別なものを用意していたに違いなかった。
私のデビューは周囲に耳を傾けるような余裕もなく、後ろめたさがいっぱいで失敗に終わってしまった。
同じようにあの時の気持ちを味合わず、アラベルが恥をかかずに済んで良かった。
「そう、心配していたの。新調したものの方がよかったのではないのかってずっと引っかかっていたの。けれど、無事にデビュタントを果たせて良かったわ」
「ええ、本当。これもお義姉さまのおかげよ。こんな素敵なドレス、貸してくれてありがとう♡」
アラベルは私の手を握り、嬉しそうに笑う。
「それでね、デビューが終わったから次は夜会に参加しなければならないでしょう? 今度はお義姉さまが初めて夜会で着たドレスを貸してほしいの♡ いいわよね?」
「あの、ドレスを……?」
初めての夜会ドレスもお母さまのドレスものだった。華美さはなく、繊細なドレス。
ただいい思い出とはならなかった代物。
「きっと素敵なドレスだと思うの。確かたくさんの子息の方々に声をかけられるほどのものだったのでしょう?」
あの夜会でも私は失敗してしまった。苦い思い出ばかり。
私の醜聞のきっかけを作ってしまった夜会に着たドレス。
「あまり縁起のいいものではないわ」
「ううん、きっと大丈夫。それにお義姉さまも参加すればいいのよ」
「……私が?」
「そうよ。お義姉さまも一緒にね」
アラベルがそうしましょうと力強く手を握りしめる。
けれども意気地なしの私は頷くことができなかった。
「ごめんなさい。すぐには無理だわ」
「もう、一緒に行きたかったのに。……だけど、ドレスは貸してね」
「わかったわ。好きに着てちょうだい」
「ありがとう。お義姉さま、大好き♡」
アラベルは首に腕を回して抱き着いてくる。私は抱き留めることに慣れてきていた。
「あの、お嬢様」
カーラがひと段落付いたところで声をかけてきた。
「ええ、そうね」
決意した顔のカーラは引退のことを話すようだった。
「ええっ! カーラ、辞めちゃうってこと?」
「はい。お嬢様の成人の際に。その引継ぎをヒュードに任せようと思います」
「まあ、それじゃあ、ヒュードはやっと伯爵家に認めてもらえるのね! 嬉しいわ」
アラベルの言う通り、ヒュードの扱いはひどいようだった。
衣食住を保証する代わりに給金などは一切支払われず、最低限の状態。
あくまでアラベルの世話役として連れてきているのみという存在だった。
「ヒュードには私とアラベルのことを兼任してもらう形になるけれどお願いできるかしら」
「お役に立てるのでしたら誠心誠意努めさせていただきます。ただ……」
「そうね。お義父さまがよくは思わないかもしれないわ」
アラベルは言葉の詰まったヒュードを代弁するように呟いた。
「その辺は対処できるから安心して」
「本当に? お義姉さまが困ることはないの?」
「ええ、一応、成人を迎えれば大丈夫なの」
そう、18になれば正式に伯爵家の後継として認められる。
ただほとんどの権限はお父さまが握っているのは確か。
病弱なお母さまの代わりとして領主代理という形で担っていたから。
領内の視察もできず、社交の場も出れなかった正統な後継のお母さま。
そしてその状況が私にも当て嵌まっていて全てを引き継げる状態ではない。
最近は体調はいいけれどもまたどうなるかわからない。
だから婿養子が必要でこのまま婚姻することがなければこの状態が続いていく。
お義母さまが譲れというのも無理はない。実際に私は何もできてないのだから。
カーラが引退すると宣言してからまだ戸惑っている。
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成人までの数か月、これからのことを見つめ直さなければいけない。
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