冤罪夫人は二度目で真実を知る

おりのめぐむ

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「お義姉さま、お待たせ!!」

 息を切らしながらアラベルが離れへとやってきた。
 デビュタント当日。王宮御用達の新調したドレスを身に着けていた。

「急いで着替えなきゃ」

 貸すと約束したその日、すぐに補整することになった。
 アラベルは私と違い少々発育がよく、着衣するためにお直しが必要だったから。
 今はぴったりに仕上がっているので問題なかった。

「ほら見て、お義姉さま。こっちの方が趣きがあるでしょ?」

 着替え終わったドレスと新調したドレスを比べながら誇らしげに振る舞っている。
 王宮御用達とされたドレスは純白でレースの層がとても綺麗。
 色の対比からして真新しさと古めかしさが際立っているようにも見えた。

「……本当に大丈夫かしら」

 強行で着ていくと主張したドレスはもう着替える時間など残されていない。
 準備を済ませたのちアラベルはお義母さまが退出した隙を狙ってこちらへと来ていた。
 もうあとわずかで出発する時間なのだから。

「心配しないで。もう着替える時間は残ってないもの。今すぐ出かけるのだから何も起こらないわ」

 もしお義母さまが手を挙げたくなったとしても登城するのだからアラベルを傷つけはしないだろうと思いついたのだから。
 お叱りを受けたとしてもきっと帰宅後。けれどもアラベルはお茶会や慰問活動など人と会う予定がある限り大丈夫と主張していた。

「アラベル様、すぐに馬車の方へ」

 ヒュードが時間を見計らって呼びに来る。

「それじゃあ、お義姉さま。いってきます♡」

 不安がる私をよそにアラベルは意気揚々と出て行った。


「……お嬢様、ご報告があります」

 アラベルを見送ってしばらくした後、つかつかとカーラが憤った顔をして近づいてくる。

「大変悔しい思いをしております! お、おく、いえ、あのマチルダ元未亡人は最初から旦那様とのご縁があったようで」

 カーラは持っていた紙束をぐっと握り締め、悔しそうに言葉を紡いでいく。

「おかしいと思っていたのです。面識のない子持ちの未亡人と旦那様が再婚だなんて。それにお嬢様に対する扱いや態度も何もかも合点がいきました。こちらを……」

 少ししわになった紙束を私に差し出してくる。
 そこにはお義母さまのことが書かれていた。
 概要は酒場で有名な給仕だったお義母さまはそこでお父さまと知り合い、恋仲となったがグランシア伯爵家からの縁談で別離。
 その後、老齢のシーカー男爵に見初められ後妻となり、義妹であるアラベルを出産。
 しばらくして社交で再会を果たし、互いが独り身となった後、再婚に至る。
 つまり、お母さまとの縁談が原因でお父さまとお義母さまが別れさせられた。
 その忘れ形見である私はお義母さまにとって最も恨めしい存在。
 最初から風当たりが強いのも当たり前だったということ。

「おそらく病弱な奥様の生前から社交の場でお付き合いがあったのでしょう。あの頃からずっと奥様を蔑ろにしておかれたのですから」

 思い出したようにカーラは顔をゆがめる。ずっとお母さまを見守っていたのだから。

「これは、どうしたの?」 

「ヒュードが教えてくれたのです。以前から私がずっと気にしていたことを調べたようで。男爵家あちらから来た者ですからまさかここまで動いてくれるとは思いませんでしたが……」

 元々はシーカー男爵家で雇われていてアラベルのために付いてきてくれたのだろう。
 
「それにこれまでの働き。私が見込んだ以上の優秀な人材です。最近では私の方が先を越されてしまい、気遣ってくれているのも判ります」

 今では私の世話も兼ねるなどカーラの補助も熟している以上にやっているということ。
 それに対立していたカーラをさりげなく守っているのかもしれない。

「ヒュードでしたらお嬢様にとって役立つ存在かと思われます」

 カーラはまっすぐ私を見た。
 私もカーラから言われたからだけではなく、日々の様子を見て気づいている。
 アラベルが当初あんなに褒め称えていたのは事実だったと判ったのだから。
 けれども影を纏っているかのような外見で損をしているため、評価されてこなかったのだろう。
 ヒュード自身も一歩引いた形でフォローするため、目立たなかった様子で過ごしてきたのだろうと思う。

「そうね。もっと評価されていいと思うわ」

「私はこれまでグランシア伯爵家のことだけを思って支えてきました。先々代から大事にされてきた奥様をお守りしたことが誇りであり、生きがいでした。そして今は唯一の血筋の後継者であるお嬢様を軽んじられる旦那様方からお守りするのが私の役目だと。けれども随分と年月が経ち、私の立場も通用しなくなっております。身体も段々ということを利かなくなりつつあり、先々が不安でありました」

 カーラは一息つくと、決意したかのように口を開く。

「ずっといつか私の後を継げるものを、と考えておりました。お嬢様ももうすぐ成人を迎えます。これを機にヒュードにその立場を譲ろうかと思います」

「か、カーラ?」

「ヒュードでしたらもう私の役割などスマートに熟すことでしょう。さらにはお嬢様を支え、味方となってくれるでしょう。実はヒュードから聞きました。お嬢様が秘かに探るよう屋敷内での私のことを気にかけていたと」

「!」

「これ以上心配をおかけすることはありません。私は引退し、ヒュードに任せます。お嬢様、ありがとうございました」

 目を潤ませるカーラは頭を下げた。私はその決意を無下にできなかった。
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