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「そうとも。あれがリュシエル嬢だ。……そうだろう? フラヴィニー侯爵」

 突如名指しされたフラヴィニー侯爵、つまりモルガナの父親は、顔を真っ青にして震えていた。

(なぜフラヴィニー侯爵に……?)

 状況が飲み込めなかったのはリュシエルだけではなかったようで、モルガナも驚きの顔で父を見ている。

「お父様……どういうことですの……?」
「娘に聞かせてやるといいフラヴィニー侯爵。お前がベクレル侯爵家の長女、リュシエルに何をしたのかを」
「ご、誤解です。私は何も……」

 震える声で否定しようとするフラヴィニー侯爵に、クロードが声を荒げた。

「言い逃れができるとは思わない方がいい。こちらは既に証人を抑えてある。呪いをかけた魔法使い本人と、長年フラヴィニー侯爵の家令をしていた男が証言している。『フラヴィニー侯爵は、娘のライバルとなりうるベクレル侯爵家の長女、リュシエルの姿が醜くなるよう呪いをかけた』とな。それだけではない。魔法使いを密かに雇って、今までもずっと悪事を働いてきたそうだな?」

 それを聞いて、フラヴィニー侯爵が哀れなほどガタガタと震え出した。もはや言葉も出ないようで、顔色は既に死人のようになっている。王が玉座を指でトントンと叩きながら、低い声で言った。
 
「知っての通り、ヴァランタンでは王家以外の者が魔法使いを雇うことは大罪に値する。加えて呪いとなる暗黒魔法自体、ヴァランタンに限らず世界条約で禁止されている。さらに、リュシエルは王太子の婚約者、つまりは将来の王妃となる女性だった。その彼女に害をなすということは、王家へ対する反逆罪にもあたる。それとも何か申し開きすることがあるか? フラヴィニー侯爵よ」

 フラヴィニー侯爵は、もはや言葉もないようだった。その場にガックリと膝をつき、魂が抜けたように呆然と虚空を見つめている。

「ないならば、フラヴィニー侯爵家は爵位剥奪の上、フラヴィニー元侯爵は斬首刑に処す。連れて行け」

 王が顎をしゃくると、そばに控えていた騎士たちがフラヴィニー侯爵を取り立てようとした。それに気づいた娘のモルガナが、慌てて王の前に身を投げ出す。弱々しいながら、ハージェスもそれに加勢した。

「陛下! どうか、私に免じて情けを……! あんまりですわ!」
「そ、そうです父上。何かの誤解もあるかもしれません。私の妻になる人の親がまさかそんな……」 
「それからそなたたち二人にも言いたいことがある」

 王はそんな二人の言葉を無視し、ぎろりと冷たく見下ろした。
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