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第一章 きつね火
5.物語と地続きの土地
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社務所の北側には二張りのイベントテントが並んで設営されていた。
シンプルな白地の天幕にはそれぞれ黒で文字入れがされている。片方は女化神社(ジョカ神社あらため、オナバケ神社だ)、そしてもう片方は龍ケ崎コロッケ。
今、夕声は後者のテントからこちらに戻って来るところだった。両手にコロッケの入ったプラスチック容器を持って。
「ほれ、遠慮なく食えよ。昨日のピザのお返しだ」
そう言ってコロッケを差し出す夕声。ピザ丸々一枚とコロッケ二つじゃ釣り合わないぞと、そう思っても口には出さない大人な僕である。
黙って受け取って、黙ってかじる。
「……あ、美味しい。なんだろこれ。ほんのり甘くて、アップルパイみたいな」
「竜ケ崎商店街が誇る名物のりんごコロッケだよ。それ、あたしのイチオシ。テレビでも何度か紹介されたことあるんだ」
もう一個の米粉のコロッケもいってみろよ、と夕声。
勧められるままに一口かじると、とろとろのライスクリームが衣の中から溢れ出す。こちらもすこぶる美味い。
「龍ケ崎がコロッケの街だったとは知らなかったな」
「これから嫌でも知るさ。この街のコロッケ推しはすごいからな。うんざりするぞ」
そう言いながら、言葉とは裏腹の得意げな顔をする夕声。きっとこの街のこともコロッケのことも大好きなのだろう。
二人でコロッケを食べていると、ご近所の人だろうか、自転車を押した二人のおばさんが彼女に声をかけて通り過ぎた。
この人たちだけじゃなく、さっきからたくさんの人たちが夕声に話しかけてくる。参拝に来たご老人から近所のガキンチョまで、それこそ老若男女を問わずに。
「夕声さんって、人気者なんだね」
僕がそう言うと、夕声は少しだけ照れたような顔をして笑った。
「この神社は、これで結構みんなに大事にされてるんだ。それで、あたしはこうして巫女さんやったりしてるからさ」
もじもじしながらも夕声はどこか嬉しそうだった。巫女装束の赤い袴を弄りながら、えへへと笑う。
僕はといえば、自分の中で彼女の印象が大きく変わるのを感じていた。
というか、勝手な偏見でこの娘を見ていたことに気づいて、そんな自分を少し恥じた。
多くの自称霊感少女がそうであるように、僕は彼女を友達のいない孤独な女の子なのではないかと考えていた。高校時代の僕の同級生にもそういう子がいた。見えないものが見えると言ってみんなの気を引こうとするその子は、常にひとりだった。
しかし、今僕の前にいる巫女服姿の女の子は、どうやらそうではなさそうだった。
夕声は愛されることに慣れているし、自分を寂しい存在だとは少しも思っていない。さっき同級生たちとの会話を側で聞いていたけれど、どうやら学校でも人間関係の中心にいるらしい。
うん、お兄さんは安心したぞ。たとえ重篤な中二病を患っていても、君は――
「おいハチ。あんた、なんかすごく失礼なこと考えてないか?」
僕の心を読んだように、夕声がむっとした顔になる。まったく、妙に勘のいいガキだ。
「あ、いや、その……ああそういえば、ここがオナバケだったんだね」
苦し紛れに話題を変えるヘタレな僕である。
いやでも実際、ここが件のオナバケだと知った時は驚いたもんである。
「昨日からちょくちょくその名前を聞いてて、なんなんだろうと思ってたんだ。まさかこの神社の名前だったとはね」
「正確にはこの神社とここら一帯だな。女化町って言うんだ、この辺りは」
オナバケマチ、と僕は復唱してみる。やっぱり変な名前だ。
「バケ、バケ……化けて出るぞー、なんちゃって」
脊髄反射的につまらないボケを飛ばす僕。
そんな僕を、しかし夕声は少しもバカにしなかった。彼女は言った。
「そのバケで間違ってないよ」
「は?」
「だからさ、女化のバケは、『化けて出る』とか『化ける』の、そのバケだよ」
夕声はそう言い、さらに言った。
「この土地にはさ、伝説というか、昔話があるんだよ」
そして彼女は語り始める。
━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥………
昔々、まだこの辺りが根元の里と呼ばれていた頃。
ある日、農夫の忠七が里の近くの根元ヶ原という原野を通りかかると、いましも猟師が眠っている狐を射殺そうとしているのが見えた。哀れに思った忠七はわざと咳払いをして危機を知らせ、狐の命を救ってやった。
するとその夜、 八重という名の娘が忠七の家の戸を叩いた。
忠七は美しく働き者の八重を家に住まわせてやり、やがて妻として娶った。二人は夫婦となって幸せに暮らし、一女二男の子を儲けもした。
しかし七年後。あるとき八重が次男と一緒に昼寝をしている際に、彼女の尻から大きな尻尾が生えているのを家族は見てしまう。
八重の正体は七年前に根元ヶ原で忠七に命を救われた狐だったのだ。
正体がバレてしまってはもう一緒には暮らせない。八重は狐の姿に戻り、泣く泣く忠七と出会ったあの根元ヶ原に姿を消してしまった。忠七と子供達はいつまでも八重を探したが、母は結局帰っては来なかった。
それ以降、根元ヶ原は女化ヶ原と呼ばれるようになったという。
━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥………
「めでたしめでたし」
「いや、全然めでたくないだろ」
僕がツッコミを入れると、夕声は本気で驚いたように「あれ?」っと言った。どうやらめでたしめでたしを昔話が終わる時の定型文かなにかと思っていたらしい。とっぴんぱらりのぷう、みたいな。
「まぁとにかく、それがこの土地の名前の由来。女に化けて人に嫁いだ狐の物語にちなんで、女化」
神社仏閣的にいうなら由緒ってやつ? と夕声。
なるほど、と頷く僕である。
「動物報恩譚であり、そして異類婚姻譚か。興味深いな」
「イルイコンインタンはわかるけど、ドウブツホウオンタンってなんだ?」
「平たく言えば動物が恩返ししてくれる系のお話のことだよ。鶴の恩返しとか浦島太郎とか、それに舌切り雀とか」
「ふーん。あんた、詳しいんだな。そういうの好きなのか?」
まぁ、職業柄ね、と僕は答える。ふーん、と興味なさげに流す夕声。
そのあとで、「あっ、そうだ」と一声あげて、彼女は僕に向かい直る。
「なぁ、ちょっとこっち来てみろよ」
そう言うと、夕声は僕の手を引いて歩き出した。女子高生の体温を手のひらに感じて、不覚にもどぎまぎしてしまう僕である。
夕声が僕を連れて行ったのは、社殿の前に置かれている一対の狛犬の所だった。
いや、狛犬ではなくて、狛狐だ。お稲荷さんの神社なので、神使の像は犬ではなく狐を象っている。
「ほら、これ、見てみろよ」
夕声が、狛狐の石像を指し示す。
狛狐の足元には、親狐にじゃれつく子狐が居た。
「これってもしかして、さっきの話の?」
「そ、忠七と八重の子」
きっと、子供と離れ離れになった八重を昔の人が可哀想に思って、こうして像だけでも一緒に居させてくれようとしたんだよ。夕声はそう解説した。
僕は素直に感じ入って、ちょっと感動のため息などもらしてしまう。
「この神社は……この町は、物語と地続きになった場所なんだね」
自分で口にした言葉に、自分でときめく。意図せず発した言葉だったのに、僕にとってそれはあまりにも魅力的な惹句だった。
物語と地続きになった町。物語の町。
まいったな。こいつはちょっと、特別に素敵だ。
「ふふーん」
自分の話に感動している僕に、夕声が得意げに胸を張る。可愛らしくも癪にさわる態度。でも、悔しいけれど認めざるを得ない。
この町のことも、この子のことも。
夕声はいい子だと、とりもなおさず僕はそう思っている。
ファーストコンタクトはいささかファンキーに過ぎたが、しかし昨夜初めて会って話した時からその印象は変わらない。
そして、今日またこうして話したことで印象は確信に変わった。
多少風変わりなところはあるにせよ、栗林夕声はとてもいい子だ。
――そういえば、この子は自称キツネなんだっけか。
昨夜彼女が語った設定を思い出して、ついついにやけてしまう僕である。
だって、やっぱりどうしたってキツネには見えないのだ。コロッケとピザが好きで平日は高校に通ってておまけに今日は巫女さんで、そんなキツネは聞いたことがない。それにさっきはスマホだって使ってた。
少しは自分で語ったキャラ設定を大事にしろよ。
「ところで君、好きな動物はなんなんだい?」
試しにそう聞いてみると、即答で「ネコ!」と応じられる。思わず吹き出しそうになる。キツネじゃないんかい。
でもまぁ、中高生のキャラ作りなんて、こんなものなのかもしれないな。
「夕声ちゃん、ちょっといいかい?」
その時、談笑する僕らに話しかけてくる人がいた。六十歳くらいの、見るからに温厚そうなお爺さん。白衣に紫色の袴という出で立ちが神社関係者であることを示している。
宮司の青木さんだよ、と夕声が教えてくれた。
「青木さん、どうしたの?」
そう夕声が応じると、宮司さんはまず彼女と一緒にいた僕に会釈をして、それから夕声に「少し社務所の番をしていて欲しいのだがね」と言った。
もちろん夕声は承諾する。そのようにして僕らの談笑の時は御開きとなった。
少しだけ残念に思っている自分を発見して、僕は自問する。おかしいな、僕は彼女を厄介に思っていたはずではないのか? なぜ残念に思うのだ?
僕にとって、この子はいったいどういう存在なのだろう。
あるいは、これからどういう存在になっていくのだろう。
「なぁハチ」
去り際、夕声が僕に言った。
「今日の夜って、あんた、暇か?」
予定はないよ、と僕は答える。
すると夕声は嬉しそうに――実に嬉しそうに、にんまりと口角をあげた。
あの表情。あの裏表のない笑顔。
「それじゃ、夜になったら迎えに行くな」
一方的にそう宣言すると、彼女はそれっきり振り返りもせずに行ってしまった。僕の返事なんか待たずに。
僕はため息をつく。まったく自分勝手というか、マイペースというか。
しかしともかく、これで今夜のスケジュールは決まった。決められてしまった。
だって、仕方がないだろう。
ほとんど魔性なのだ、僕にとって。彼女の笑顔は。
シンプルな白地の天幕にはそれぞれ黒で文字入れがされている。片方は女化神社(ジョカ神社あらため、オナバケ神社だ)、そしてもう片方は龍ケ崎コロッケ。
今、夕声は後者のテントからこちらに戻って来るところだった。両手にコロッケの入ったプラスチック容器を持って。
「ほれ、遠慮なく食えよ。昨日のピザのお返しだ」
そう言ってコロッケを差し出す夕声。ピザ丸々一枚とコロッケ二つじゃ釣り合わないぞと、そう思っても口には出さない大人な僕である。
黙って受け取って、黙ってかじる。
「……あ、美味しい。なんだろこれ。ほんのり甘くて、アップルパイみたいな」
「竜ケ崎商店街が誇る名物のりんごコロッケだよ。それ、あたしのイチオシ。テレビでも何度か紹介されたことあるんだ」
もう一個の米粉のコロッケもいってみろよ、と夕声。
勧められるままに一口かじると、とろとろのライスクリームが衣の中から溢れ出す。こちらもすこぶる美味い。
「龍ケ崎がコロッケの街だったとは知らなかったな」
「これから嫌でも知るさ。この街のコロッケ推しはすごいからな。うんざりするぞ」
そう言いながら、言葉とは裏腹の得意げな顔をする夕声。きっとこの街のこともコロッケのことも大好きなのだろう。
二人でコロッケを食べていると、ご近所の人だろうか、自転車を押した二人のおばさんが彼女に声をかけて通り過ぎた。
この人たちだけじゃなく、さっきからたくさんの人たちが夕声に話しかけてくる。参拝に来たご老人から近所のガキンチョまで、それこそ老若男女を問わずに。
「夕声さんって、人気者なんだね」
僕がそう言うと、夕声は少しだけ照れたような顔をして笑った。
「この神社は、これで結構みんなに大事にされてるんだ。それで、あたしはこうして巫女さんやったりしてるからさ」
もじもじしながらも夕声はどこか嬉しそうだった。巫女装束の赤い袴を弄りながら、えへへと笑う。
僕はといえば、自分の中で彼女の印象が大きく変わるのを感じていた。
というか、勝手な偏見でこの娘を見ていたことに気づいて、そんな自分を少し恥じた。
多くの自称霊感少女がそうであるように、僕は彼女を友達のいない孤独な女の子なのではないかと考えていた。高校時代の僕の同級生にもそういう子がいた。見えないものが見えると言ってみんなの気を引こうとするその子は、常にひとりだった。
しかし、今僕の前にいる巫女服姿の女の子は、どうやらそうではなさそうだった。
夕声は愛されることに慣れているし、自分を寂しい存在だとは少しも思っていない。さっき同級生たちとの会話を側で聞いていたけれど、どうやら学校でも人間関係の中心にいるらしい。
うん、お兄さんは安心したぞ。たとえ重篤な中二病を患っていても、君は――
「おいハチ。あんた、なんかすごく失礼なこと考えてないか?」
僕の心を読んだように、夕声がむっとした顔になる。まったく、妙に勘のいいガキだ。
「あ、いや、その……ああそういえば、ここがオナバケだったんだね」
苦し紛れに話題を変えるヘタレな僕である。
いやでも実際、ここが件のオナバケだと知った時は驚いたもんである。
「昨日からちょくちょくその名前を聞いてて、なんなんだろうと思ってたんだ。まさかこの神社の名前だったとはね」
「正確にはこの神社とここら一帯だな。女化町って言うんだ、この辺りは」
オナバケマチ、と僕は復唱してみる。やっぱり変な名前だ。
「バケ、バケ……化けて出るぞー、なんちゃって」
脊髄反射的につまらないボケを飛ばす僕。
そんな僕を、しかし夕声は少しもバカにしなかった。彼女は言った。
「そのバケで間違ってないよ」
「は?」
「だからさ、女化のバケは、『化けて出る』とか『化ける』の、そのバケだよ」
夕声はそう言い、さらに言った。
「この土地にはさ、伝説というか、昔話があるんだよ」
そして彼女は語り始める。
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昔々、まだこの辺りが根元の里と呼ばれていた頃。
ある日、農夫の忠七が里の近くの根元ヶ原という原野を通りかかると、いましも猟師が眠っている狐を射殺そうとしているのが見えた。哀れに思った忠七はわざと咳払いをして危機を知らせ、狐の命を救ってやった。
するとその夜、 八重という名の娘が忠七の家の戸を叩いた。
忠七は美しく働き者の八重を家に住まわせてやり、やがて妻として娶った。二人は夫婦となって幸せに暮らし、一女二男の子を儲けもした。
しかし七年後。あるとき八重が次男と一緒に昼寝をしている際に、彼女の尻から大きな尻尾が生えているのを家族は見てしまう。
八重の正体は七年前に根元ヶ原で忠七に命を救われた狐だったのだ。
正体がバレてしまってはもう一緒には暮らせない。八重は狐の姿に戻り、泣く泣く忠七と出会ったあの根元ヶ原に姿を消してしまった。忠七と子供達はいつまでも八重を探したが、母は結局帰っては来なかった。
それ以降、根元ヶ原は女化ヶ原と呼ばれるようになったという。
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「めでたしめでたし」
「いや、全然めでたくないだろ」
僕がツッコミを入れると、夕声は本気で驚いたように「あれ?」っと言った。どうやらめでたしめでたしを昔話が終わる時の定型文かなにかと思っていたらしい。とっぴんぱらりのぷう、みたいな。
「まぁとにかく、それがこの土地の名前の由来。女に化けて人に嫁いだ狐の物語にちなんで、女化」
神社仏閣的にいうなら由緒ってやつ? と夕声。
なるほど、と頷く僕である。
「動物報恩譚であり、そして異類婚姻譚か。興味深いな」
「イルイコンインタンはわかるけど、ドウブツホウオンタンってなんだ?」
「平たく言えば動物が恩返ししてくれる系のお話のことだよ。鶴の恩返しとか浦島太郎とか、それに舌切り雀とか」
「ふーん。あんた、詳しいんだな。そういうの好きなのか?」
まぁ、職業柄ね、と僕は答える。ふーん、と興味なさげに流す夕声。
そのあとで、「あっ、そうだ」と一声あげて、彼女は僕に向かい直る。
「なぁ、ちょっとこっち来てみろよ」
そう言うと、夕声は僕の手を引いて歩き出した。女子高生の体温を手のひらに感じて、不覚にもどぎまぎしてしまう僕である。
夕声が僕を連れて行ったのは、社殿の前に置かれている一対の狛犬の所だった。
いや、狛犬ではなくて、狛狐だ。お稲荷さんの神社なので、神使の像は犬ではなく狐を象っている。
「ほら、これ、見てみろよ」
夕声が、狛狐の石像を指し示す。
狛狐の足元には、親狐にじゃれつく子狐が居た。
「これってもしかして、さっきの話の?」
「そ、忠七と八重の子」
きっと、子供と離れ離れになった八重を昔の人が可哀想に思って、こうして像だけでも一緒に居させてくれようとしたんだよ。夕声はそう解説した。
僕は素直に感じ入って、ちょっと感動のため息などもらしてしまう。
「この神社は……この町は、物語と地続きになった場所なんだね」
自分で口にした言葉に、自分でときめく。意図せず発した言葉だったのに、僕にとってそれはあまりにも魅力的な惹句だった。
物語と地続きになった町。物語の町。
まいったな。こいつはちょっと、特別に素敵だ。
「ふふーん」
自分の話に感動している僕に、夕声が得意げに胸を張る。可愛らしくも癪にさわる態度。でも、悔しいけれど認めざるを得ない。
この町のことも、この子のことも。
夕声はいい子だと、とりもなおさず僕はそう思っている。
ファーストコンタクトはいささかファンキーに過ぎたが、しかし昨夜初めて会って話した時からその印象は変わらない。
そして、今日またこうして話したことで印象は確信に変わった。
多少風変わりなところはあるにせよ、栗林夕声はとてもいい子だ。
――そういえば、この子は自称キツネなんだっけか。
昨夜彼女が語った設定を思い出して、ついついにやけてしまう僕である。
だって、やっぱりどうしたってキツネには見えないのだ。コロッケとピザが好きで平日は高校に通ってておまけに今日は巫女さんで、そんなキツネは聞いたことがない。それにさっきはスマホだって使ってた。
少しは自分で語ったキャラ設定を大事にしろよ。
「ところで君、好きな動物はなんなんだい?」
試しにそう聞いてみると、即答で「ネコ!」と応じられる。思わず吹き出しそうになる。キツネじゃないんかい。
でもまぁ、中高生のキャラ作りなんて、こんなものなのかもしれないな。
「夕声ちゃん、ちょっといいかい?」
その時、談笑する僕らに話しかけてくる人がいた。六十歳くらいの、見るからに温厚そうなお爺さん。白衣に紫色の袴という出で立ちが神社関係者であることを示している。
宮司の青木さんだよ、と夕声が教えてくれた。
「青木さん、どうしたの?」
そう夕声が応じると、宮司さんはまず彼女と一緒にいた僕に会釈をして、それから夕声に「少し社務所の番をしていて欲しいのだがね」と言った。
もちろん夕声は承諾する。そのようにして僕らの談笑の時は御開きとなった。
少しだけ残念に思っている自分を発見して、僕は自問する。おかしいな、僕は彼女を厄介に思っていたはずではないのか? なぜ残念に思うのだ?
僕にとって、この子はいったいどういう存在なのだろう。
あるいは、これからどういう存在になっていくのだろう。
「なぁハチ」
去り際、夕声が僕に言った。
「今日の夜って、あんた、暇か?」
予定はないよ、と僕は答える。
すると夕声は嬉しそうに――実に嬉しそうに、にんまりと口角をあげた。
あの表情。あの裏表のない笑顔。
「それじゃ、夜になったら迎えに行くな」
一方的にそう宣言すると、彼女はそれっきり振り返りもせずに行ってしまった。僕の返事なんか待たずに。
僕はため息をつく。まったく自分勝手というか、マイペースというか。
しかしともかく、これで今夜のスケジュールは決まった。決められてしまった。
だって、仕方がないだろう。
ほとんど魔性なのだ、僕にとって。彼女の笑顔は。
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