10 / 36
第二章 むじな
1.白鳥の街、龍ケ崎
しおりを挟む
その名に反して、牛久沼は牛久市ではなく龍ケ崎市の名所である。
牛久沼はかなりの大きさを誇る湖沼だが、しかしその全域は龍ケ崎市の区域内にきっちり、すっぽり収まっている。
お隣の取手市や牛久市には、全然はみ出していない。
さて、市の北西部(地図を見てもらえばわかるけど、本当にほとんど端っこにあるのだ)に位置するこの沼には、三十羽、ないしは四十羽もの白鳥が棲んでいる。
コブハクチョウという種のこの白鳥たちは、いわゆる渡りを行わない。龍ケ崎で生まれ、龍ケ崎で繁殖して、そして龍ケ崎でその生涯を閉じる。
言うなれば、彼らもまた生粋の龍ケ崎市民なのである。
そんな白鳥たちを、龍ケ崎市は昭和四十九年に市の鳥として指定するに至る。
このようにして、白鳥は名実ともに龍ケ崎のシンボルとなった。
現在市内で見られるご当地マンホールには、龍ケ崎市のマスコットキャラクターである『まいりゅうくん』と共に、水辺を泳ぐ二羽の白鳥が描かれている。
あとこれを書くのはもう三回目くらいだけど、龍ケ崎市駅の発車メロディは彼らにちなんだ白鳥の湖だ。
ところで、コブハクチョウは渡りを行わないと僕は言った。
ならば世間で広く知られる渡り鳥としての白鳥のイメージは、我らが龍ケ崎市においては無効なのか?
答え、そんなことはない。
確かに、牛久沼の白鳥といえば前述したコブハクチョウが(龍ケ崎市民の彼らが)一般的である。が、しかし。彼らとは別に、冬期にはオオハクチョウという名の外来の白鳥が越冬の為に飛来し、コブハクチョウと牛久沼の水面を共有する。
龍ケ崎市は、このシベリアからの来客を差別しない。白鳥に国籍はないとばかりに市の鳥の一つとして受け入れ、というか、むしろおおいに歓迎する。
市が発行する広報誌『りゅうほー』には『龍ケ崎に今年も冬鳥の季節到来』との惹句が躍り、シティセールス課は『今年は何羽のオオハクチョウが飛来しています』との発表まで打つ。
冬季限定ではあるが、オオハクチョウもまた、我らが龍ケ崎市の確かな一員なのだ。
さて、ここまでは白鳥とそれにまつわる龍ケ崎市のお話を書いたけれども、ここから先は、物語の視点はもっとミクロで個人的なスケールになる。
昔話だ。
さらに言うならば、異類婚姻譚だ。
むかしむかし、具体的には五年くらい前。
ある昼下がり、市内在住のとある芸術家が牛久沼を訪れた(彼の芸術のジャンルについては、特に明言しないでおく。そこに言及することが物語にとってなにか有益であるとは思えないし、そもそもこの男はジャンルによるカテゴライズが不能なアウトサイダー・アートみたいなことをやってもいたからだ)。
時あたかも春であった。
水面には市民たるコブハクチョウが群れをなしている。水面だけでなく、岸辺にもいる。
というか、コンクリートブロックの上でひなたぼっこをしつつ通りがかる人間に餌をせがんでくる図々しいものも、いる。
儚く人を寄せ付けないお高くとまった白鳥のイメージは、当市では否定される。
ともかく、名物の古代ハスはまだ花をつけていなかったけれど、水辺の新緑と白鳥の白のコントラストは芸術家にはっきりとインスピレーションを与えた。
情景から得られた刺激が失われぬうちにさっさと帰ろう、と彼はきびすを返す。
と、いましも帰宅の途につこうとした芸術家は、すぐ近くの桟橋の柱の陰に、一羽の白鳥がうずくまっているのを発見する。
他の白鳥たちと比べて、その一羽は明白に顔つきが違っていた。
まずコブハクチョウの最たる特徴でありその名の由来でもあるくちばし付け根のコブが、ない。そもそもくちばしの色が違う。コブハクチョウのオレンジとは異なる、黄色と黒のコントラストカラー。頭部のフォルムも丸っこくて、目つきもなんだか柔らかい。
オオハクチョウだった、それは。
冬期に牛久沼に飛来したオオハクチョウは、基本的には春になる前に北へと帰る。
だが、必ずしもすべての個体が飛去するわけではない。怪我をした個体や病気で体力を失った個体は、北帰を断念してそのまま牛久沼に残留する。
案の定、そのオオハクチョウは翼に傷を負っていた。
芸術家はすぐに近所のコンビニまで車を飛ばし、少しお高めな食パンを購入。そのまま牛久沼にとってかえして、傷ついたオオハクチョウに与えた。
するとその夜、芸術家の家を一人の色の白い美女が訪ねてきた。
「昼間助けていただいたオオハクチョウでございます」
「いやまぁそういうこともあるかと思っちゃいたが、それにしたって展開が早(はえ)ぇなぁ」
あまりにも単刀直入な自己紹介にも芸術家は少しも驚かず、白鳥の美女が手土産にと持参したウナギを受け取り(龍ケ崎はうな丼発祥の地でありウナギは牛久沼の名物でもある)ながら、「まぁとにかくあがってくれや」と彼女を家にあげた。
さて、この芸術家の話を少し。
芸術や文学を志す人間にはありがちな話だが、彼には社会性というものがまったく備わっていなかった。幼少期より変わり者として、いじめられこそしなかったもののやんわりと敬遠され、また彼自身、人付き合いというものに興味を持てずに生きてきた。
そんな彼だが、人間以外の存在とは面白いように馬が合った。
やたらと安く売り出されていた家があったという理由だけで移住したこの龍ケ崎ではじめて化生の類と(彼が出会った最初のそれは化け狐の娘だった)知己を得ると、瞬く間に人間とそれ以外の友人の比率は逆転した。
そういう彼だったので、この白鳥のこともあっさり友人のひとりとして受け入れた。
「怪我が治るまで家にいていいよ」といともフランクに提案し、すると白鳥は白鳥で「ではご恩に報いるためにせめて身の回りのお世話を」と、こういうことになった。
芸術家は(芸術や文学を志す人間にありがちなことに)実際的な生活能力というものに乏しかったので、これはまさしくウィンウィンの関係であった。
そしてその秋、牛久沼の畔にこれまた名物であるコスモスが咲き誇る頃、ふたりは当然の成り行きとして友情以上の絆で結ばれていた。
多くの人ならざる友人がふたりの門出を祝福した。名月爽やかな中秋の夜を選んで、祝言はタヌキ式で執り行われた。
※
以上が叔父夫婦のなれそめである。
僕が電話で確認したとき(「おじさん、白鳥と結婚したってほんと?」)、叔父はいとも呆気なくそれを認めた(「うん、そうだよ」)。
「ああ、そうか。さては夕声ちゃんから聞いたんだな」
「うん。……って、夕声のことも知ってるの?」
「よく知ってるよ。世話にもなったし世話もしたからな」
「じゃあ、彼女がキツネだっていうのは」
「知ってるよ」
「いや知ってるとかそういうことじゃ……って、つまり、マジ?」
「マジだよ。なんだお前、信じてないのか?」
いかんなあ、あんないい子のこと疑っちゃ、と叔父は言った。実にのほほんと。
「夕声ちゃんといえば、お前のことをよろしく頼んどいたんだ。慣れない町で一人暮らしでもあの子がいてくれれば安心だからな」
やれやれ。僕は村上春樹的なため息をついた。やれやれ。
牛久沼はかなりの大きさを誇る湖沼だが、しかしその全域は龍ケ崎市の区域内にきっちり、すっぽり収まっている。
お隣の取手市や牛久市には、全然はみ出していない。
さて、市の北西部(地図を見てもらえばわかるけど、本当にほとんど端っこにあるのだ)に位置するこの沼には、三十羽、ないしは四十羽もの白鳥が棲んでいる。
コブハクチョウという種のこの白鳥たちは、いわゆる渡りを行わない。龍ケ崎で生まれ、龍ケ崎で繁殖して、そして龍ケ崎でその生涯を閉じる。
言うなれば、彼らもまた生粋の龍ケ崎市民なのである。
そんな白鳥たちを、龍ケ崎市は昭和四十九年に市の鳥として指定するに至る。
このようにして、白鳥は名実ともに龍ケ崎のシンボルとなった。
現在市内で見られるご当地マンホールには、龍ケ崎市のマスコットキャラクターである『まいりゅうくん』と共に、水辺を泳ぐ二羽の白鳥が描かれている。
あとこれを書くのはもう三回目くらいだけど、龍ケ崎市駅の発車メロディは彼らにちなんだ白鳥の湖だ。
ところで、コブハクチョウは渡りを行わないと僕は言った。
ならば世間で広く知られる渡り鳥としての白鳥のイメージは、我らが龍ケ崎市においては無効なのか?
答え、そんなことはない。
確かに、牛久沼の白鳥といえば前述したコブハクチョウが(龍ケ崎市民の彼らが)一般的である。が、しかし。彼らとは別に、冬期にはオオハクチョウという名の外来の白鳥が越冬の為に飛来し、コブハクチョウと牛久沼の水面を共有する。
龍ケ崎市は、このシベリアからの来客を差別しない。白鳥に国籍はないとばかりに市の鳥の一つとして受け入れ、というか、むしろおおいに歓迎する。
市が発行する広報誌『りゅうほー』には『龍ケ崎に今年も冬鳥の季節到来』との惹句が躍り、シティセールス課は『今年は何羽のオオハクチョウが飛来しています』との発表まで打つ。
冬季限定ではあるが、オオハクチョウもまた、我らが龍ケ崎市の確かな一員なのだ。
さて、ここまでは白鳥とそれにまつわる龍ケ崎市のお話を書いたけれども、ここから先は、物語の視点はもっとミクロで個人的なスケールになる。
昔話だ。
さらに言うならば、異類婚姻譚だ。
むかしむかし、具体的には五年くらい前。
ある昼下がり、市内在住のとある芸術家が牛久沼を訪れた(彼の芸術のジャンルについては、特に明言しないでおく。そこに言及することが物語にとってなにか有益であるとは思えないし、そもそもこの男はジャンルによるカテゴライズが不能なアウトサイダー・アートみたいなことをやってもいたからだ)。
時あたかも春であった。
水面には市民たるコブハクチョウが群れをなしている。水面だけでなく、岸辺にもいる。
というか、コンクリートブロックの上でひなたぼっこをしつつ通りがかる人間に餌をせがんでくる図々しいものも、いる。
儚く人を寄せ付けないお高くとまった白鳥のイメージは、当市では否定される。
ともかく、名物の古代ハスはまだ花をつけていなかったけれど、水辺の新緑と白鳥の白のコントラストは芸術家にはっきりとインスピレーションを与えた。
情景から得られた刺激が失われぬうちにさっさと帰ろう、と彼はきびすを返す。
と、いましも帰宅の途につこうとした芸術家は、すぐ近くの桟橋の柱の陰に、一羽の白鳥がうずくまっているのを発見する。
他の白鳥たちと比べて、その一羽は明白に顔つきが違っていた。
まずコブハクチョウの最たる特徴でありその名の由来でもあるくちばし付け根のコブが、ない。そもそもくちばしの色が違う。コブハクチョウのオレンジとは異なる、黄色と黒のコントラストカラー。頭部のフォルムも丸っこくて、目つきもなんだか柔らかい。
オオハクチョウだった、それは。
冬期に牛久沼に飛来したオオハクチョウは、基本的には春になる前に北へと帰る。
だが、必ずしもすべての個体が飛去するわけではない。怪我をした個体や病気で体力を失った個体は、北帰を断念してそのまま牛久沼に残留する。
案の定、そのオオハクチョウは翼に傷を負っていた。
芸術家はすぐに近所のコンビニまで車を飛ばし、少しお高めな食パンを購入。そのまま牛久沼にとってかえして、傷ついたオオハクチョウに与えた。
するとその夜、芸術家の家を一人の色の白い美女が訪ねてきた。
「昼間助けていただいたオオハクチョウでございます」
「いやまぁそういうこともあるかと思っちゃいたが、それにしたって展開が早(はえ)ぇなぁ」
あまりにも単刀直入な自己紹介にも芸術家は少しも驚かず、白鳥の美女が手土産にと持参したウナギを受け取り(龍ケ崎はうな丼発祥の地でありウナギは牛久沼の名物でもある)ながら、「まぁとにかくあがってくれや」と彼女を家にあげた。
さて、この芸術家の話を少し。
芸術や文学を志す人間にはありがちな話だが、彼には社会性というものがまったく備わっていなかった。幼少期より変わり者として、いじめられこそしなかったもののやんわりと敬遠され、また彼自身、人付き合いというものに興味を持てずに生きてきた。
そんな彼だが、人間以外の存在とは面白いように馬が合った。
やたらと安く売り出されていた家があったという理由だけで移住したこの龍ケ崎ではじめて化生の類と(彼が出会った最初のそれは化け狐の娘だった)知己を得ると、瞬く間に人間とそれ以外の友人の比率は逆転した。
そういう彼だったので、この白鳥のこともあっさり友人のひとりとして受け入れた。
「怪我が治るまで家にいていいよ」といともフランクに提案し、すると白鳥は白鳥で「ではご恩に報いるためにせめて身の回りのお世話を」と、こういうことになった。
芸術家は(芸術や文学を志す人間にありがちなことに)実際的な生活能力というものに乏しかったので、これはまさしくウィンウィンの関係であった。
そしてその秋、牛久沼の畔にこれまた名物であるコスモスが咲き誇る頃、ふたりは当然の成り行きとして友情以上の絆で結ばれていた。
多くの人ならざる友人がふたりの門出を祝福した。名月爽やかな中秋の夜を選んで、祝言はタヌキ式で執り行われた。
※
以上が叔父夫婦のなれそめである。
僕が電話で確認したとき(「おじさん、白鳥と結婚したってほんと?」)、叔父はいとも呆気なくそれを認めた(「うん、そうだよ」)。
「ああ、そうか。さては夕声ちゃんから聞いたんだな」
「うん。……って、夕声のことも知ってるの?」
「よく知ってるよ。世話にもなったし世話もしたからな」
「じゃあ、彼女がキツネだっていうのは」
「知ってるよ」
「いや知ってるとかそういうことじゃ……って、つまり、マジ?」
「マジだよ。なんだお前、信じてないのか?」
いかんなあ、あんないい子のこと疑っちゃ、と叔父は言った。実にのほほんと。
「夕声ちゃんといえば、お前のことをよろしく頼んどいたんだ。慣れない町で一人暮らしでもあの子がいてくれれば安心だからな」
やれやれ。僕は村上春樹的なため息をついた。やれやれ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
離縁の雨が降りやめば
碧月あめり
キャラ文芸
龍の眷属である竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の契約花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六になるときに龍神との離縁が約束されている。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止む。
雨がやめば、離縁された花嫁は次の龍神の花嫁を産むために美雲神社を去らなければいけない。
だが、葵には龍神との離縁後も美雲神社に留まりたい理由があった。
幼い頃から兄のように慕ってきた御蔭という人の存在があるからだ。
白銀の髪に隻眼の御蔭は美しく、どこか不思議な雰囲気を纏っているが美雲神社の人間からは《見えない存在》として扱われている。
御蔭とともにいることを願っている葵だが、彼のほうは葵に無頓着のようだった。
葵が十六の誕生日を迎えた日。不思議な雨が降り始める。習わし通りであれば三日降り続いたあとやむ雨が、なぜか十日以上も降りやまず……。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる