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最終章 帰つ寝
16.甘く幸せなバッドエンド
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そのようにして僕は夕声の心を取り戻した。
僕と彼女はこれまで通りに、いや、これまで以上に強い信頼に結ばれ、そうして末永く幸せに暮らしたでしょう。
めでたしめでたし、とっぴんぱらりのぷぅ。
……というわけにはいかないのが現実である。
深まり続けた夕暮れの朱色が、夜の藍色へと推移する時間帯となっていた。
境内は夕暮れ時とはまた違った神秘さを醸し出している。結局のところ、この女化神社はあらゆる瞬間に美しいのだ。
その静かに神さびた境内に、静けさとは正反対に騒々しい我々がいた。
「ハ、ハチ! さぁ、こっちは覚悟を決めたぞ! あらためて、あ、あ、あたしを物にしてみせろ!!」
「待って待って待って、待って!」
なにかを促すように目を閉じて背筋を伸ばした夕声を、慌てて制する。
そっちの覚悟が決まってもこっちの覚悟は全然決まってない。
「……なんだよ、さっきの恥ずかしい告白の数々は、嘘だったのか?」
「いやもちろん、もちろん全然嘘じゃないけど……」
「だったら、ほ、ほら」
責任の履行を求めるように、夕声は再び瞳を閉じて顎をあげる。
しかし残念ながら、フィーバータイムはすでに終わってしまっていた。
平気で『好き』とか『恋』とか『愛しい』とか連呼出来ていた魔法の(あるいは狂気の)時間は過ぎ去って、我々は二人とも色恋に免疫のない恋愛初心者に戻ってしまった。
というか、さっきまでの反動でいつもよりその手の言動に対して敏感になっている気すらする。
だから。
「今日これ以上そういうことを言ったり聞いたりしたりされたりしたら……最悪、僕たちは色恋の過剰摂取で死んじゃうんじゃない?」
冗談ではなく真剣にそう言った僕に、夕声もまたゴクリと生唾を飲み込む。
しかしそのあとで、彼女はまなじりを決して言った。
「だ、だったら、い、一緒に、死ぬか?」
あた、あたしはそれでもいいよ! と。
そう言って上目遣いに覗き込んでくる潤んだ瞳に、殺されはしないまでも完全に悩殺される。
本当に、この娘は存在そのものが反則だ。
社務所から宮司さんが出てきて、僕たちの近くを通り過ぎた。
僕と夕声が一緒にいるのを見て、君たちはいつも一緒だなぁ、と笑いながら茶化した。
親しい第三者からのそんな好意的な冷やかしにすら僕と夕声は赤面する。
それから少しだけ遅れて、やっぱりもうお祓いの必要はないのだと、そう悟った。
女化神社は巫女を取り戻したのだ。
「……まぁ、なんにせよ大団円かな、これは」
結局、僕は彼女の魅力に抗しきることが出来なかった。
大人として未成年を正しく諭し導くこともできなかったし、ポリシーもモラルもすべてを投げ出す羽目にもなった。
そしてその結果として手に入れたのは、スペシャルにチャーミングな彼女の尻におそらくはこのさき一生敷かれ続ける権利だけ。
やれやれ、なんて甘やかで幸せな大団円だろう。僕が夕声を物にしたのではなく、夕声が僕を物にしたと言ったほうが正しいんじゃないだろうか。
これからのことを思うと少しだけ先が思いやられるけど、まぁそれはまたいずれ考えればいい。
終わり良ければすべてよし、今日のところはそういうことにしよう。
と、そんな風にエンディングを意識しはじめた、そのとき。
「あ……」
まだもう一つだけ、とんでもないやり残しがあることに気付いた。
「ゆ、夕声!」
「ひゃ、ひゃい!」
いきなり名前を呼ばれた夕声が、飛び上がらんばかりに驚いた。
その彼女に、僕はゆっくりと手を伸ばす。
僕の手が触れた途端、夕声の肩がびくんと跳ねた。
怯えるように瞳を閉じる夕声に、閉じないで、とお願いする。
そうして開かせた瞳を、至近の距離からまっすぐに見つめながら。
「夕声、あの、僕は……」
僕は、万感の思いを込めて彼女にそれを伝える。
ずっと言いたくて、なのにずっと言いそびれていた言葉を。
「僕は、君の夕声という名前が、とても、とても好きです」
最終章・了
僕と彼女はこれまで通りに、いや、これまで以上に強い信頼に結ばれ、そうして末永く幸せに暮らしたでしょう。
めでたしめでたし、とっぴんぱらりのぷぅ。
……というわけにはいかないのが現実である。
深まり続けた夕暮れの朱色が、夜の藍色へと推移する時間帯となっていた。
境内は夕暮れ時とはまた違った神秘さを醸し出している。結局のところ、この女化神社はあらゆる瞬間に美しいのだ。
その静かに神さびた境内に、静けさとは正反対に騒々しい我々がいた。
「ハ、ハチ! さぁ、こっちは覚悟を決めたぞ! あらためて、あ、あ、あたしを物にしてみせろ!!」
「待って待って待って、待って!」
なにかを促すように目を閉じて背筋を伸ばした夕声を、慌てて制する。
そっちの覚悟が決まってもこっちの覚悟は全然決まってない。
「……なんだよ、さっきの恥ずかしい告白の数々は、嘘だったのか?」
「いやもちろん、もちろん全然嘘じゃないけど……」
「だったら、ほ、ほら」
責任の履行を求めるように、夕声は再び瞳を閉じて顎をあげる。
しかし残念ながら、フィーバータイムはすでに終わってしまっていた。
平気で『好き』とか『恋』とか『愛しい』とか連呼出来ていた魔法の(あるいは狂気の)時間は過ぎ去って、我々は二人とも色恋に免疫のない恋愛初心者に戻ってしまった。
というか、さっきまでの反動でいつもよりその手の言動に対して敏感になっている気すらする。
だから。
「今日これ以上そういうことを言ったり聞いたりしたりされたりしたら……最悪、僕たちは色恋の過剰摂取で死んじゃうんじゃない?」
冗談ではなく真剣にそう言った僕に、夕声もまたゴクリと生唾を飲み込む。
しかしそのあとで、彼女はまなじりを決して言った。
「だ、だったら、い、一緒に、死ぬか?」
あた、あたしはそれでもいいよ! と。
そう言って上目遣いに覗き込んでくる潤んだ瞳に、殺されはしないまでも完全に悩殺される。
本当に、この娘は存在そのものが反則だ。
社務所から宮司さんが出てきて、僕たちの近くを通り過ぎた。
僕と夕声が一緒にいるのを見て、君たちはいつも一緒だなぁ、と笑いながら茶化した。
親しい第三者からのそんな好意的な冷やかしにすら僕と夕声は赤面する。
それから少しだけ遅れて、やっぱりもうお祓いの必要はないのだと、そう悟った。
女化神社は巫女を取り戻したのだ。
「……まぁ、なんにせよ大団円かな、これは」
結局、僕は彼女の魅力に抗しきることが出来なかった。
大人として未成年を正しく諭し導くこともできなかったし、ポリシーもモラルもすべてを投げ出す羽目にもなった。
そしてその結果として手に入れたのは、スペシャルにチャーミングな彼女の尻におそらくはこのさき一生敷かれ続ける権利だけ。
やれやれ、なんて甘やかで幸せな大団円だろう。僕が夕声を物にしたのではなく、夕声が僕を物にしたと言ったほうが正しいんじゃないだろうか。
これからのことを思うと少しだけ先が思いやられるけど、まぁそれはまたいずれ考えればいい。
終わり良ければすべてよし、今日のところはそういうことにしよう。
と、そんな風にエンディングを意識しはじめた、そのとき。
「あ……」
まだもう一つだけ、とんでもないやり残しがあることに気付いた。
「ゆ、夕声!」
「ひゃ、ひゃい!」
いきなり名前を呼ばれた夕声が、飛び上がらんばかりに驚いた。
その彼女に、僕はゆっくりと手を伸ばす。
僕の手が触れた途端、夕声の肩がびくんと跳ねた。
怯えるように瞳を閉じる夕声に、閉じないで、とお願いする。
そうして開かせた瞳を、至近の距離からまっすぐに見つめながら。
「夕声、あの、僕は……」
僕は、万感の思いを込めて彼女にそれを伝える。
ずっと言いたくて、なのにずっと言いそびれていた言葉を。
「僕は、君の夕声という名前が、とても、とても好きです」
最終章・了
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