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第12話 神薙塔矢②-1
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あの後、結局これと言って何かをしたわけでもなく、行ったことといえば、連絡先を交換したぐらいだった。ぐらい、とは言うものの、俺からしてみれば、出し物の準備をするよりも精神的疲労が大きくはあったのだが。
橘とのLINEを交換して、となれば次は流れで日渡とも交換せざるを得ない。アプリの画面とにらめっこをしながら、どうにかこの展開を回避できないものかと思案した結果、妙案を思いつく。そう、LINEグループだ。わざわざ互いに交換をせずとも、誰かが作ったグループの中に属していれば、そこで連絡を取り合うことが出来るではないか。
俺はさっそくその案を橘に提案し、彼女からの承諾を得た。橘がグループを作り、俺と日渡がそこに招待される。もう一人手伝ってくれるという話の男子も、後ほど招待しておくということで、今日の活動は終了した。
就寝の準備を済ませた俺は、ベッドの上に転がりながらスマホを手に取った。既にグループ内でのやり取りが幾つかあったようで、アプリを開いて内容を確認する。
内容は特に重要性のないもので、ふざけている橘を日渡が適当に相手をする、という構図が出来上がっていた。俺は一体、何を見せられているのやら……。
グループ内の画面を見るに、どうやらもう一人の男子は忘れられているのかまだ招待されていないようだった。橘の自由気ままな性格が存分に発揮されている。
画面内の【日渡瑠璃】の文字がちらちらと目に入ってきて、その度胸が締め付けられた。名前を見れば、顔が思い出される。脳裏に浮かんだ顔が徐々に幼くなっていって、最後にはあの日の顔へと変貌する。
ああ、どうして断らなかったんだ。日渡も一緒に参加すると分かった時点で、橘からの協力を拒んでいればこんな思いをしなくて済んだだろうに。みずから地獄の中へ足を踏み入れて行くなんて……。
後悔してももう遅い。とにかく、この一週間をなんとか乗り切って出し物を完成させるしかない。本来のミッションとは別の高難度ミッションが追加されてしまったが、仕方ない。
そう無理矢理自分を納得させて、一応俺も何か送っておくかと思い『とりあえずよろしく』とだけグループに送っておいた。
すぐさま既読2の文字がついて、橘から『こちらこそ! 一緒にガンバロ!!』という返事が送られてきた。日渡からの反応があるとも思わないし、そのままアプリを閉じて寝ようとした時、もう一つ文章が流れてくるのが目に入った。
『よろしく』
たった一言。きっと、面と向かっていたなら仏頂面でそう言っているような、装飾のない業務的な言葉。
それが何年振りかの、俺と日渡の会話だった。
俺はそのままアプリを閉じ、電気を消して眠りについた。さっきまで締め付けられていた胸の痛みが、いつの間にか和らいでいた。
その日俺は。あの日のことを夢にみることはなかった。
橘とのLINEを交換して、となれば次は流れで日渡とも交換せざるを得ない。アプリの画面とにらめっこをしながら、どうにかこの展開を回避できないものかと思案した結果、妙案を思いつく。そう、LINEグループだ。わざわざ互いに交換をせずとも、誰かが作ったグループの中に属していれば、そこで連絡を取り合うことが出来るではないか。
俺はさっそくその案を橘に提案し、彼女からの承諾を得た。橘がグループを作り、俺と日渡がそこに招待される。もう一人手伝ってくれるという話の男子も、後ほど招待しておくということで、今日の活動は終了した。
就寝の準備を済ませた俺は、ベッドの上に転がりながらスマホを手に取った。既にグループ内でのやり取りが幾つかあったようで、アプリを開いて内容を確認する。
内容は特に重要性のないもので、ふざけている橘を日渡が適当に相手をする、という構図が出来上がっていた。俺は一体、何を見せられているのやら……。
グループ内の画面を見るに、どうやらもう一人の男子は忘れられているのかまだ招待されていないようだった。橘の自由気ままな性格が存分に発揮されている。
画面内の【日渡瑠璃】の文字がちらちらと目に入ってきて、その度胸が締め付けられた。名前を見れば、顔が思い出される。脳裏に浮かんだ顔が徐々に幼くなっていって、最後にはあの日の顔へと変貌する。
ああ、どうして断らなかったんだ。日渡も一緒に参加すると分かった時点で、橘からの協力を拒んでいればこんな思いをしなくて済んだだろうに。みずから地獄の中へ足を踏み入れて行くなんて……。
後悔してももう遅い。とにかく、この一週間をなんとか乗り切って出し物を完成させるしかない。本来のミッションとは別の高難度ミッションが追加されてしまったが、仕方ない。
そう無理矢理自分を納得させて、一応俺も何か送っておくかと思い『とりあえずよろしく』とだけグループに送っておいた。
すぐさま既読2の文字がついて、橘から『こちらこそ! 一緒にガンバロ!!』という返事が送られてきた。日渡からの反応があるとも思わないし、そのままアプリを閉じて寝ようとした時、もう一つ文章が流れてくるのが目に入った。
『よろしく』
たった一言。きっと、面と向かっていたなら仏頂面でそう言っているような、装飾のない業務的な言葉。
それが何年振りかの、俺と日渡の会話だった。
俺はそのままアプリを閉じ、電気を消して眠りについた。さっきまで締め付けられていた胸の痛みが、いつの間にか和らいでいた。
その日俺は。あの日のことを夢にみることはなかった。
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