70 / 78
Chapter6 憤怒の髪
第69話 憤怒の覚醒
しおりを挟む
回転が止まり、あまりの勢いによろめく怒髪の身体。
不安定な態勢のまま、サタンは視線を強欲の腕へと向ける。空中で静止し、掌を広げている強欲の腕に。
そう、彩香が発現した強欲の腕は、サタンを攻撃するためのものではなく――
「四段構えだ、くそ野郎!」
見栄坊栄作という存在を、サタンの元へ送り届けるためのものだった。
『ぐほあぁぁぁ――!』
彩香の掌から宙へと身を投げ出した栄作のドロップキックが、サタンの腹部に炸裂した。
以前、黒時が感激したほどに見事なドロップキック。
そんな華麗な技を受けた怒髪の身体は、そのまま落下し、ホテルの屋上に叩きつけられた。
ゆっくりと落下していく栄作は、隣のホテルの屋上で待機していた黒時に救出され、問題なく着地した。黒時の役目は、初めから囮と栄作の救助だったのである。
『ぐうぅ、しかし、この程度の攻撃で私は終わりませんよ』
立ち上がろうとするサタンを見下ろしながら、黒時が言う。
「いいや、終わりだ」
『――!?』
突如、怒髪の身体が激しく震えだした。その震えはサタンの意思とは関係なく、制御ができない。
『な、なにが、起きているのです!?』
「覚醒するんだよ、そいつが」
栄作が指差したその先は、怒髪の身体だった。まるで、怒りが頂点に達したかのような形相で震え続ける、怒髪の身体だった。
『どういうことですか!? この方はもう死んでいるというのに』
「賭けだった。本当に反応してくれるかどうか、やってみないと分からなかっ
たからな。だけど、うまくいったみたいだぜ」
『わ、分からない、何故―!?』
怒髪の震えが一層激しさを増し、彼を覆う大気さえも震えだす。
そしてやがて、怒髪の真っ赤な燃えるような髪が光を纏いはじめた。
みるみるうちに怒髪の頭から髪が抜けていく。抜けた光輝く無数の髪は宙に舞い、一つ一つがまるで小さな針のように硬質化していった。
硬質化した髪は宙に貼り付けられたかのように止まり、その針の先は全て、怒髪の身体に向けられていた。
『こ、これは、憤怒の髪、ですか……、脱出をしなければ――!?』
怒髪の身体から抜け出そうと試みるサタン。しかし、出来ない。いくら足掻いても、体外へと出ることができない。
『どうなっているのだ!?』
「身体だよ」
栄作が、サタンを見据えながら言う。
「知らないか? 人間の心ってのはいろんな場所に宿るんだ。心臓だったり、身体だったり。ほら、よく言うだろ? 身体が覚えている、みたいなこと。だからさ、もしかしたら、そいつも身体が覚えてるんじゃないか、って思ったんだ。俺に蹴られたあの時の怒りを、今でも身体が覚えてるんじゃないか、ってな」
『あのドロップキック、ですか。憤怒が本質である彼を怒らせて、覚醒を狙った、と。しかし、解せない。身体が覚えていたとしても、死んでいるのだから身体を動かせるわけが……』
「気付かないのか?」
栄作は、右手で頭を、左手で左胸を押さえた。
『…………! わ、私か。脳と心臓……、この方の身体が、私を利用しているのか!?』
「気付くのが遅かったな。俺達の、勝ちだ」
『……ホッホッ。まさか、私が敗れるとは……。でもまあ、楽しめたから良しとしますか』
宙で待ち構えていた無数の髪が、一斉に怒髪の身体目掛けて射出された。
腕が、足が、腹が、脳が、心臓が――身体の全てが射抜かれ、針の山となっていく。
人型の剣山から流れ出てくる血の色は、どす黒い濁った色だった。
「まさかお前の予想通り、本当に自殺するとはな」
「身体の中に悪魔がいるなんて、あいつ怒るだろうな、って思ってさ。自分ごと殺しちゃうような気がしたんだよ」
「……そうか」
流れ出てくる黒い血の中に、光る玉が転がり出てきた。
満たされるべき器を失くしたサタンのコアは、近くにいた黒時の中へと自然に吸収されていく。
これで、六体の悪魔が死んだ。六つのコアが集まった。
「ふぃー、疲れたあ。黒時先輩、後で彩香のこと癒して下さいね?」
「ん? ああ、考えとくよ」
「ちょっ、彩香、こんな奴よりアタシと――」
「黒時様、私を抱いてくれるのでは?」
「おい! 今回活躍したの俺だぞ!? なんで皆、黒時の側に集まるわけ!?」
皆からどっ、と笑声が漏れた。
それは次第に大きくなっていき、やがて木霊するほどに響き渡っていった。
残る悪魔は一体。
始まりであり終わりである悪魔、ルシファーである。
ルシファーを殺し、そのコアを吸収すれば、新たな世界が描かれる。
黒時は皆の顔を見渡し、思っていた。
新たな世界。初めは全ての人間の本質がさらけだされた世界を思い描いた。しかし、今となってはそれはもうどうでもいいような気になっている。
そんなことよりも、こうやって皆と笑っていたい、そう感じている。
黒時は、栄作の顔を見つめた。
残る悪魔ルシファーを殺せるのは、いまだ力を発現していない栄作である。
ルシファーがどれほどの強大な力を有しているのかは、最初の出会いで分かっている。
明らかに、これまでの悪魔とは格が違う。
けれど、それでも皆で力を合わせればきっと殺せるはずだ。
黒時はぎゅっ、と拳を握り締めた。
そして、最後の闘いに向けて己の中で、自分を奮い立たせた。
――その時。
一陣の風が吹いた。
高所に吹く通常の風とは違い、目眩がするほどに気味の悪い風。
色で言えば、きっとそれは黒色だっただろう。
黒色。それと――赤色。それが、黒時の目に映った景色だった。
「きゃあぁぁぁ――――!?」
一人の少女の悲鳴が轟く。
二人の少年がその声を聞きながら、顔を歪ませる。
そして、二人の女性、怠気瑠野と村々怜奈は――上半身を失い、下半身だけとなっていた。
不安定な態勢のまま、サタンは視線を強欲の腕へと向ける。空中で静止し、掌を広げている強欲の腕に。
そう、彩香が発現した強欲の腕は、サタンを攻撃するためのものではなく――
「四段構えだ、くそ野郎!」
見栄坊栄作という存在を、サタンの元へ送り届けるためのものだった。
『ぐほあぁぁぁ――!』
彩香の掌から宙へと身を投げ出した栄作のドロップキックが、サタンの腹部に炸裂した。
以前、黒時が感激したほどに見事なドロップキック。
そんな華麗な技を受けた怒髪の身体は、そのまま落下し、ホテルの屋上に叩きつけられた。
ゆっくりと落下していく栄作は、隣のホテルの屋上で待機していた黒時に救出され、問題なく着地した。黒時の役目は、初めから囮と栄作の救助だったのである。
『ぐうぅ、しかし、この程度の攻撃で私は終わりませんよ』
立ち上がろうとするサタンを見下ろしながら、黒時が言う。
「いいや、終わりだ」
『――!?』
突如、怒髪の身体が激しく震えだした。その震えはサタンの意思とは関係なく、制御ができない。
『な、なにが、起きているのです!?』
「覚醒するんだよ、そいつが」
栄作が指差したその先は、怒髪の身体だった。まるで、怒りが頂点に達したかのような形相で震え続ける、怒髪の身体だった。
『どういうことですか!? この方はもう死んでいるというのに』
「賭けだった。本当に反応してくれるかどうか、やってみないと分からなかっ
たからな。だけど、うまくいったみたいだぜ」
『わ、分からない、何故―!?』
怒髪の震えが一層激しさを増し、彼を覆う大気さえも震えだす。
そしてやがて、怒髪の真っ赤な燃えるような髪が光を纏いはじめた。
みるみるうちに怒髪の頭から髪が抜けていく。抜けた光輝く無数の髪は宙に舞い、一つ一つがまるで小さな針のように硬質化していった。
硬質化した髪は宙に貼り付けられたかのように止まり、その針の先は全て、怒髪の身体に向けられていた。
『こ、これは、憤怒の髪、ですか……、脱出をしなければ――!?』
怒髪の身体から抜け出そうと試みるサタン。しかし、出来ない。いくら足掻いても、体外へと出ることができない。
『どうなっているのだ!?』
「身体だよ」
栄作が、サタンを見据えながら言う。
「知らないか? 人間の心ってのはいろんな場所に宿るんだ。心臓だったり、身体だったり。ほら、よく言うだろ? 身体が覚えている、みたいなこと。だからさ、もしかしたら、そいつも身体が覚えてるんじゃないか、って思ったんだ。俺に蹴られたあの時の怒りを、今でも身体が覚えてるんじゃないか、ってな」
『あのドロップキック、ですか。憤怒が本質である彼を怒らせて、覚醒を狙った、と。しかし、解せない。身体が覚えていたとしても、死んでいるのだから身体を動かせるわけが……』
「気付かないのか?」
栄作は、右手で頭を、左手で左胸を押さえた。
『…………! わ、私か。脳と心臓……、この方の身体が、私を利用しているのか!?』
「気付くのが遅かったな。俺達の、勝ちだ」
『……ホッホッ。まさか、私が敗れるとは……。でもまあ、楽しめたから良しとしますか』
宙で待ち構えていた無数の髪が、一斉に怒髪の身体目掛けて射出された。
腕が、足が、腹が、脳が、心臓が――身体の全てが射抜かれ、針の山となっていく。
人型の剣山から流れ出てくる血の色は、どす黒い濁った色だった。
「まさかお前の予想通り、本当に自殺するとはな」
「身体の中に悪魔がいるなんて、あいつ怒るだろうな、って思ってさ。自分ごと殺しちゃうような気がしたんだよ」
「……そうか」
流れ出てくる黒い血の中に、光る玉が転がり出てきた。
満たされるべき器を失くしたサタンのコアは、近くにいた黒時の中へと自然に吸収されていく。
これで、六体の悪魔が死んだ。六つのコアが集まった。
「ふぃー、疲れたあ。黒時先輩、後で彩香のこと癒して下さいね?」
「ん? ああ、考えとくよ」
「ちょっ、彩香、こんな奴よりアタシと――」
「黒時様、私を抱いてくれるのでは?」
「おい! 今回活躍したの俺だぞ!? なんで皆、黒時の側に集まるわけ!?」
皆からどっ、と笑声が漏れた。
それは次第に大きくなっていき、やがて木霊するほどに響き渡っていった。
残る悪魔は一体。
始まりであり終わりである悪魔、ルシファーである。
ルシファーを殺し、そのコアを吸収すれば、新たな世界が描かれる。
黒時は皆の顔を見渡し、思っていた。
新たな世界。初めは全ての人間の本質がさらけだされた世界を思い描いた。しかし、今となってはそれはもうどうでもいいような気になっている。
そんなことよりも、こうやって皆と笑っていたい、そう感じている。
黒時は、栄作の顔を見つめた。
残る悪魔ルシファーを殺せるのは、いまだ力を発現していない栄作である。
ルシファーがどれほどの強大な力を有しているのかは、最初の出会いで分かっている。
明らかに、これまでの悪魔とは格が違う。
けれど、それでも皆で力を合わせればきっと殺せるはずだ。
黒時はぎゅっ、と拳を握り締めた。
そして、最後の闘いに向けて己の中で、自分を奮い立たせた。
――その時。
一陣の風が吹いた。
高所に吹く通常の風とは違い、目眩がするほどに気味の悪い風。
色で言えば、きっとそれは黒色だっただろう。
黒色。それと――赤色。それが、黒時の目に映った景色だった。
「きゃあぁぁぁ――――!?」
一人の少女の悲鳴が轟く。
二人の少年がその声を聞きながら、顔を歪ませる。
そして、二人の女性、怠気瑠野と村々怜奈は――上半身を失い、下半身だけとなっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる