ハコニワールド

ぽこ 乃助

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Final Chapter 傲慢の人

第70話 最後の悪魔ルシファー

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 人であること、それは即ち傲慢の類である。傲慢であればあるほど力は増し、その反面、その身を失うことになるだろう。

                    *

「な、なにが起きたんだ!?」

「いやぁ、いやぁ、瑠野ぉ!」

「怜奈……」

 下半身だけとなった怜奈と瑠野は力なく倒れ、残された三人は当惑していた。突然の出来事に、理解が追いつかないでいる。

 先程の風が何だったのか、二人は何故死んだのか、なに一つ分からない状況、そんな中に、また一つ不可解な現象が起こり始めた。辺り一帯が闇に覆われ始めたのである。

「今度はなんだよ!? 真っ暗でなにも見えねぇ!」

「もう、ワケわかんないよ……」

「彩香! しっかりしろ、気を抜いたらお前も死ぬかもしれない」

 そうは言うものの、黒時にもなにが起きているのか分かってはいない。けれど、不思議と確信していた。

 怜奈と瑠野は、殺されたのだ、と。

 この世界に存在している強大な力によって、殺されたのだ、と。
 
 この世界の強大な力、器を壊す破壊者、そして、闇を産み出す真っ黒な存在。それらに該当するのは、最早一つしかなかった――一体しかいなかった。

「ルシファーが……、来る」

 黒時たちの周囲を覆っていた闇が晴れ、気付けば黒時たちの身体は遥か上空にあった。

 見えない床の上に立ち、三人は驚愕する。

 雲よりも高く、下方にある巨大なビルがおもちゃのように見えている。それに加えて、前方から流れ込んでくる不穏な空気。

 身体に纏わりつき、肌を撫で回してくるその風が何から発生しているのか、三人は既に分かっていた。分かってしまっていた。だから、下方に向けたままの顔を上げることができないでいた。
 
 目で視認してしまえば、それが現実であると、受け入れてしまわなければならなくなる。

 いずれは訪れる現実であったとしても、だからと言って受け入れる覚悟があるかどうかは、別なのだ。
 
 しかし、三人のそんな現実逃避のための行為も無に帰すことになった。目が駄目なら耳で。

 そんなことは思ってはいなかったのだろうけれど、結果的に三人は、不自由のないその両耳で、現実を認識することとなった。

『ふむ、三人生き残ったか。よくぞここまで辿り着いたものだ。頭を上げろ、褒めてやろう』

 巨大な何かに押し潰されているような感覚を覚えるほどに、威圧的な声。三人はその声に従うようにして恐る恐る頭を上げていく。
 
 視界に映った黒。それは、とても不気味で、奇妙で、異様で、けれど――美しかった。

「やっと会えたな、ルシファー。これで全部終わりだ」

『フハハハ。確かに汝の言うとおり、全てが終わり、そして始まる。我が死ぬか、汝等が死ぬか、このどちらかによってな』

 ルシファーの笑声によって場の大気が震える。振動、と言うよりも、まるで大気が怯えているがゆえに震えているようだった。

「うおぁ!? おい、見ろよ黒時!」

 栄作は下方に指を差しながら言った。黒時は指し示す場所に目を向ける。

「……なんだ、これは」

 栄作が指し示した場所は下方、つまり地上であった。その地上が、黒一色に染まっていたのである。

 蠢く無数の黒。黒い人影によって、地上が埋め尽くされていたのである。

「き、気持ち悪い、マジでなんだよ、あいつら……」

『気付いていなかったのか? 奴等は汝等よ』

「は?」

 ルシファーの言葉に、栄作は呆けたような顔を見せた。理解が追いついてないようである。

 しかし、黒時は栄作とは違い、得心がいったような顔を見せていた。

「俺が出会った神を名乗る存在は、この世界を【真の世界】と言っていた。俺たちが見ていた世界は、俺たち人間から見た視点の世界であって、本当の世界ではなかったんだ。神の視点である【真の世界】、つまりこここそが、本当の世界だった」

「ど、どういうことだよ、黒時。俺にはよく分からねえよ……」

「栄作。世界の真偽なんてどうでもいいんだ。一番肝心なのは、神から見た俺たち人間は、真っ黒で汚らしい汚物のような存在だってことだ」

「お、汚物……」

 風の音が漂う。その中に、少女のすすり泣く声が混じる。
 
 栄作と黒時は、しばらくの間、口を開くことができなかった。少刻後、頭を切り替え立ち直った黒時が、ルシファーに向けて口を開いた。

「神は俺たちを、いや、世界を壊すために悪魔を遣わせたのか?」

『違う。我等も汝等と同様に神の掌の上の存在に過ぎぬ』

「……そうか、集合体。そういう意味だったのか」

「なんだよ、黒時。また何か分かったのか?」

「ルシファー。悪魔が俺たちと同様だと言ったな」

『……そうだ』

「それはつまり、お前たちも人間だということじゃないのか?」
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