71 / 78
Final Chapter 傲慢の人
第70話 最後の悪魔ルシファー
しおりを挟む
人であること、それは即ち傲慢の類である。傲慢であればあるほど力は増し、その反面、その身を失うことになるだろう。
*
「な、なにが起きたんだ!?」
「いやぁ、いやぁ、瑠野ぉ!」
「怜奈……」
下半身だけとなった怜奈と瑠野は力なく倒れ、残された三人は当惑していた。突然の出来事に、理解が追いつかないでいる。
先程の風が何だったのか、二人は何故死んだのか、なに一つ分からない状況、そんな中に、また一つ不可解な現象が起こり始めた。辺り一帯が闇に覆われ始めたのである。
「今度はなんだよ!? 真っ暗でなにも見えねぇ!」
「もう、ワケわかんないよ……」
「彩香! しっかりしろ、気を抜いたらお前も死ぬかもしれない」
そうは言うものの、黒時にもなにが起きているのか分かってはいない。けれど、不思議と確信していた。
怜奈と瑠野は、殺されたのだ、と。
この世界に存在している強大な力によって、殺されたのだ、と。
この世界の強大な力、器を壊す破壊者、そして、闇を産み出す真っ黒な存在。それらに該当するのは、最早一つしかなかった――一体しかいなかった。
「ルシファーが……、来る」
黒時たちの周囲を覆っていた闇が晴れ、気付けば黒時たちの身体は遥か上空にあった。
見えない床の上に立ち、三人は驚愕する。
雲よりも高く、下方にある巨大なビルがおもちゃのように見えている。それに加えて、前方から流れ込んでくる不穏な空気。
身体に纏わりつき、肌を撫で回してくるその風が何から発生しているのか、三人は既に分かっていた。分かってしまっていた。だから、下方に向けたままの顔を上げることができないでいた。
目で視認してしまえば、それが現実であると、受け入れてしまわなければならなくなる。
いずれは訪れる現実であったとしても、だからと言って受け入れる覚悟があるかどうかは、別なのだ。
しかし、三人のそんな現実逃避のための行為も無に帰すことになった。目が駄目なら耳で。
そんなことは思ってはいなかったのだろうけれど、結果的に三人は、不自由のないその両耳で、現実を認識することとなった。
『ふむ、三人生き残ったか。よくぞここまで辿り着いたものだ。頭を上げろ、褒めてやろう』
巨大な何かに押し潰されているような感覚を覚えるほどに、威圧的な声。三人はその声に従うようにして恐る恐る頭を上げていく。
視界に映った黒。それは、とても不気味で、奇妙で、異様で、けれど――美しかった。
「やっと会えたな、ルシファー。これで全部終わりだ」
『フハハハ。確かに汝の言うとおり、全てが終わり、そして始まる。我が死ぬか、汝等が死ぬか、このどちらかによってな』
ルシファーの笑声によって場の大気が震える。振動、と言うよりも、まるで大気が怯えているがゆえに震えているようだった。
「うおぁ!? おい、見ろよ黒時!」
栄作は下方に指を差しながら言った。黒時は指し示す場所に目を向ける。
「……なんだ、これは」
栄作が指し示した場所は下方、つまり地上であった。その地上が、黒一色に染まっていたのである。
蠢く無数の黒。黒い人影によって、地上が埋め尽くされていたのである。
「き、気持ち悪い、マジでなんだよ、あいつら……」
『気付いていなかったのか? 奴等は汝等よ』
「は?」
ルシファーの言葉に、栄作は呆けたような顔を見せた。理解が追いついてないようである。
しかし、黒時は栄作とは違い、得心がいったような顔を見せていた。
「俺が出会った神を名乗る存在は、この世界を【真の世界】と言っていた。俺たちが見ていた世界は、俺たち人間から見た視点の世界であって、本当の世界ではなかったんだ。神の視点である【真の世界】、つまりこここそが、本当の世界だった」
「ど、どういうことだよ、黒時。俺にはよく分からねえよ……」
「栄作。世界の真偽なんてどうでもいいんだ。一番肝心なのは、神から見た俺たち人間は、真っ黒で汚らしい汚物のような存在だってことだ」
「お、汚物……」
風の音が漂う。その中に、少女のすすり泣く声が混じる。
栄作と黒時は、しばらくの間、口を開くことができなかった。少刻後、頭を切り替え立ち直った黒時が、ルシファーに向けて口を開いた。
「神は俺たちを、いや、世界を壊すために悪魔を遣わせたのか?」
『違う。我等も汝等と同様に神の掌の上の存在に過ぎぬ』
「……そうか、集合体。そういう意味だったのか」
「なんだよ、黒時。また何か分かったのか?」
「ルシファー。悪魔が俺たちと同様だと言ったな」
『……そうだ』
「それはつまり、お前たちも人間だということじゃないのか?」
*
「な、なにが起きたんだ!?」
「いやぁ、いやぁ、瑠野ぉ!」
「怜奈……」
下半身だけとなった怜奈と瑠野は力なく倒れ、残された三人は当惑していた。突然の出来事に、理解が追いつかないでいる。
先程の風が何だったのか、二人は何故死んだのか、なに一つ分からない状況、そんな中に、また一つ不可解な現象が起こり始めた。辺り一帯が闇に覆われ始めたのである。
「今度はなんだよ!? 真っ暗でなにも見えねぇ!」
「もう、ワケわかんないよ……」
「彩香! しっかりしろ、気を抜いたらお前も死ぬかもしれない」
そうは言うものの、黒時にもなにが起きているのか分かってはいない。けれど、不思議と確信していた。
怜奈と瑠野は、殺されたのだ、と。
この世界に存在している強大な力によって、殺されたのだ、と。
この世界の強大な力、器を壊す破壊者、そして、闇を産み出す真っ黒な存在。それらに該当するのは、最早一つしかなかった――一体しかいなかった。
「ルシファーが……、来る」
黒時たちの周囲を覆っていた闇が晴れ、気付けば黒時たちの身体は遥か上空にあった。
見えない床の上に立ち、三人は驚愕する。
雲よりも高く、下方にある巨大なビルがおもちゃのように見えている。それに加えて、前方から流れ込んでくる不穏な空気。
身体に纏わりつき、肌を撫で回してくるその風が何から発生しているのか、三人は既に分かっていた。分かってしまっていた。だから、下方に向けたままの顔を上げることができないでいた。
目で視認してしまえば、それが現実であると、受け入れてしまわなければならなくなる。
いずれは訪れる現実であったとしても、だからと言って受け入れる覚悟があるかどうかは、別なのだ。
しかし、三人のそんな現実逃避のための行為も無に帰すことになった。目が駄目なら耳で。
そんなことは思ってはいなかったのだろうけれど、結果的に三人は、不自由のないその両耳で、現実を認識することとなった。
『ふむ、三人生き残ったか。よくぞここまで辿り着いたものだ。頭を上げろ、褒めてやろう』
巨大な何かに押し潰されているような感覚を覚えるほどに、威圧的な声。三人はその声に従うようにして恐る恐る頭を上げていく。
視界に映った黒。それは、とても不気味で、奇妙で、異様で、けれど――美しかった。
「やっと会えたな、ルシファー。これで全部終わりだ」
『フハハハ。確かに汝の言うとおり、全てが終わり、そして始まる。我が死ぬか、汝等が死ぬか、このどちらかによってな』
ルシファーの笑声によって場の大気が震える。振動、と言うよりも、まるで大気が怯えているがゆえに震えているようだった。
「うおぁ!? おい、見ろよ黒時!」
栄作は下方に指を差しながら言った。黒時は指し示す場所に目を向ける。
「……なんだ、これは」
栄作が指し示した場所は下方、つまり地上であった。その地上が、黒一色に染まっていたのである。
蠢く無数の黒。黒い人影によって、地上が埋め尽くされていたのである。
「き、気持ち悪い、マジでなんだよ、あいつら……」
『気付いていなかったのか? 奴等は汝等よ』
「は?」
ルシファーの言葉に、栄作は呆けたような顔を見せた。理解が追いついてないようである。
しかし、黒時は栄作とは違い、得心がいったような顔を見せていた。
「俺が出会った神を名乗る存在は、この世界を【真の世界】と言っていた。俺たちが見ていた世界は、俺たち人間から見た視点の世界であって、本当の世界ではなかったんだ。神の視点である【真の世界】、つまりこここそが、本当の世界だった」
「ど、どういうことだよ、黒時。俺にはよく分からねえよ……」
「栄作。世界の真偽なんてどうでもいいんだ。一番肝心なのは、神から見た俺たち人間は、真っ黒で汚らしい汚物のような存在だってことだ」
「お、汚物……」
風の音が漂う。その中に、少女のすすり泣く声が混じる。
栄作と黒時は、しばらくの間、口を開くことができなかった。少刻後、頭を切り替え立ち直った黒時が、ルシファーに向けて口を開いた。
「神は俺たちを、いや、世界を壊すために悪魔を遣わせたのか?」
『違う。我等も汝等と同様に神の掌の上の存在に過ぎぬ』
「……そうか、集合体。そういう意味だったのか」
「なんだよ、黒時。また何か分かったのか?」
「ルシファー。悪魔が俺たちと同様だと言ったな」
『……そうだ』
「それはつまり、お前たちも人間だということじゃないのか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる