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Final Chapter 傲慢の人
第74話 皆の想い
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ここまでか。
そう思って黒時が目を閉じようとした時、暖かいなにかが身体の中に入ってくるのを感じた。
暖かい想い。
怜奈の黒時を想う想いが、黒時の中に流れ込んでくる。すると、今まで指一本動かせなかった身体に力が漲ってくるのを感じた。
黒時は立ち上がった。そしてまた一つ、彼の身体の中に飛び込んでくる。それはまるで小さな光る石。悪魔のコアだった。
妬美の嫉妬が、黒時に伝わる。自分を憎む想いだが、それもまた心地よく感じられた。
黒時は微笑を漏らした。
彩香をじっと見つめる。やがて黒時の両目は輝きだし、一筋に光線を放った。放たれた光線は、彩香を襲う青黒い炎を掻き消し、彼女の身体を解放させた。
『それは、嫉妬の目。何故、汝が扱える?』
ルシファーの言葉を無視して黒時は彩香のもとへ駆けてゆく。かろうじて息をする焼け焦げた彼女。
最早、一目では人間とは分からない形をしている。
「い……、や……」
彩香が搾り出して発した言葉。それは、少女の淡い想いがゆえの言葉だった。焼け焦げて、女どころか人の形を成していない自分を、愛する相手に見られたくない。
彩香の目であろう部分から一滴の涙が零れたような気がした。
まもなく死ぬであろう彩香。そんな彼女を腕の中に抱き、黒時は――
「大丈夫だ。安心しろ」
そう言って、彼女の唇であろう場所に己の唇を重ねた。黒時の唇が輝きだし、光が彩香の中へと流れ込んでいく。
次第に彩香の焼け焦げた身体は、もとの可愛らしい彼女へと戻っていき、生気を帯びていった。
「く、黒時……、先輩」
「怜奈の力だ。もう苦しくないだろ?」
胸が苦しい、なんてことを彩香は一瞬思ったが、自粛した。今はそんなことを言っている場合ではない。
この闘いが終わって元の世界に戻ってから、この想いをあますことなくぶつけてしまえばいい、彩香はそう思って黒時の腕の中から離れ、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったと同時に、彩香の身体の中にも悪魔のコアが一つ飛び込む。
「あったかい……、瑠野の想いが、流れ込んでくるよ」
「ああ、そうだな」
二人は己の胸に手を当て、目の前に立つ強大な悪魔を見上げ、そして睨みつけた。
『愚かな羽虫ども。時は終焉、全てを終わらせてくれる』
ルシファーの視線。それだけで二人の身体は痛みを感じた。けれど、それだけである。
ただ痛みを感じただけ。それだけで逃げ出してしまうほど、二人は既に弱者ではなかった。
強大な存在と対峙できるほどの、強者だった。
「黒時先輩、栄ちゃん先輩は?」
「二キロメートル先ぐらいか。そこで転がってる」
「どうします? 彩香が時間を稼ぎましょうか?」
「できるのか?」
「さあ? でも、自信はありますよ。瑠野もついてますから」
「――そうか」
黒時は飛ばされた栄作のもとへと走り出し、彩香はルシファーのもとへと走り出した。
ルシファーを殺すためには対応した器である栄作の力が不可欠になってくる。全てが終われば死んだ人間も蘇らせることができると言っても、栄作がいなければ全てを終わらすことができないのだ。
『止まれぃ!』
黒時を看過するわけもなく、ルシファーが怒号を上げて残された左の翼を羽ばたかせた。
片側だけであるため発生した風は弱まってはいるが、それでもまだ建造物を破壊するほどの威力はあるだろう。
しかし、頑強な建造物を吹き飛ばすことが出来たとしても、矮小な一人の少年の存在を吹き飛ばすことはできなかった。
「うおぉぉぉ――!」
黒時の腹が輝きだし、横に亀裂が入ると大きく開いていく。全てを飲み込み、喰らう為に果てしなく広がっていく。
『暴食の腹、か』
黒時の開いた腹はルシファーの起こした風を飲み込み、黒時はルシファーの攻撃の届く距離から離脱した。
『行かさぬ!』
黒時を追いかけようと動き始めるルシファー。だが、巨大な光る腕によって抑止される。
顔面を殴打され、あのルシファーの身体が大きくよろめいた。
「どこに行くの、ルシファーさん? 彩香、寂しがり屋だから相手してくれないと、泣いちゃうよ?」
あざとい感じに首を傾け、舌を出す彩香。いかにも彼女らしい仕種だった。
『よかろう、汝から殺してくれる!』
そう思って黒時が目を閉じようとした時、暖かいなにかが身体の中に入ってくるのを感じた。
暖かい想い。
怜奈の黒時を想う想いが、黒時の中に流れ込んでくる。すると、今まで指一本動かせなかった身体に力が漲ってくるのを感じた。
黒時は立ち上がった。そしてまた一つ、彼の身体の中に飛び込んでくる。それはまるで小さな光る石。悪魔のコアだった。
妬美の嫉妬が、黒時に伝わる。自分を憎む想いだが、それもまた心地よく感じられた。
黒時は微笑を漏らした。
彩香をじっと見つめる。やがて黒時の両目は輝きだし、一筋に光線を放った。放たれた光線は、彩香を襲う青黒い炎を掻き消し、彼女の身体を解放させた。
『それは、嫉妬の目。何故、汝が扱える?』
ルシファーの言葉を無視して黒時は彩香のもとへ駆けてゆく。かろうじて息をする焼け焦げた彼女。
最早、一目では人間とは分からない形をしている。
「い……、や……」
彩香が搾り出して発した言葉。それは、少女の淡い想いがゆえの言葉だった。焼け焦げて、女どころか人の形を成していない自分を、愛する相手に見られたくない。
彩香の目であろう部分から一滴の涙が零れたような気がした。
まもなく死ぬであろう彩香。そんな彼女を腕の中に抱き、黒時は――
「大丈夫だ。安心しろ」
そう言って、彼女の唇であろう場所に己の唇を重ねた。黒時の唇が輝きだし、光が彩香の中へと流れ込んでいく。
次第に彩香の焼け焦げた身体は、もとの可愛らしい彼女へと戻っていき、生気を帯びていった。
「く、黒時……、先輩」
「怜奈の力だ。もう苦しくないだろ?」
胸が苦しい、なんてことを彩香は一瞬思ったが、自粛した。今はそんなことを言っている場合ではない。
この闘いが終わって元の世界に戻ってから、この想いをあますことなくぶつけてしまえばいい、彩香はそう思って黒時の腕の中から離れ、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったと同時に、彩香の身体の中にも悪魔のコアが一つ飛び込む。
「あったかい……、瑠野の想いが、流れ込んでくるよ」
「ああ、そうだな」
二人は己の胸に手を当て、目の前に立つ強大な悪魔を見上げ、そして睨みつけた。
『愚かな羽虫ども。時は終焉、全てを終わらせてくれる』
ルシファーの視線。それだけで二人の身体は痛みを感じた。けれど、それだけである。
ただ痛みを感じただけ。それだけで逃げ出してしまうほど、二人は既に弱者ではなかった。
強大な存在と対峙できるほどの、強者だった。
「黒時先輩、栄ちゃん先輩は?」
「二キロメートル先ぐらいか。そこで転がってる」
「どうします? 彩香が時間を稼ぎましょうか?」
「できるのか?」
「さあ? でも、自信はありますよ。瑠野もついてますから」
「――そうか」
黒時は飛ばされた栄作のもとへと走り出し、彩香はルシファーのもとへと走り出した。
ルシファーを殺すためには対応した器である栄作の力が不可欠になってくる。全てが終われば死んだ人間も蘇らせることができると言っても、栄作がいなければ全てを終わらすことができないのだ。
『止まれぃ!』
黒時を看過するわけもなく、ルシファーが怒号を上げて残された左の翼を羽ばたかせた。
片側だけであるため発生した風は弱まってはいるが、それでもまだ建造物を破壊するほどの威力はあるだろう。
しかし、頑強な建造物を吹き飛ばすことが出来たとしても、矮小な一人の少年の存在を吹き飛ばすことはできなかった。
「うおぉぉぉ――!」
黒時の腹が輝きだし、横に亀裂が入ると大きく開いていく。全てを飲み込み、喰らう為に果てしなく広がっていく。
『暴食の腹、か』
黒時の開いた腹はルシファーの起こした風を飲み込み、黒時はルシファーの攻撃の届く距離から離脱した。
『行かさぬ!』
黒時を追いかけようと動き始めるルシファー。だが、巨大な光る腕によって抑止される。
顔面を殴打され、あのルシファーの身体が大きくよろめいた。
「どこに行くの、ルシファーさん? 彩香、寂しがり屋だから相手してくれないと、泣いちゃうよ?」
あざとい感じに首を傾け、舌を出す彩香。いかにも彼女らしい仕種だった。
『よかろう、汝から殺してくれる!』
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