僕と勇者

ぽこ 乃助

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 女性の年齢は僕よりも少し上ぐらいのようで、二十歳前後を思わせた。伏し目がちなその様子は、切れ長な目のせいか、印象としては似合わないように見える。人睨みで相手を怯ませることも出来そうな気がした。

 彼女の服装は独特で、上下面積の少ない赤い肌着を身に着け、その上に急所や関節を守る金属の鎧を身に着けている。太腿や臍、二の腕から先は露出されていて、その肌には、数え切れないほどの傷跡があった。かすり傷、なんてぬるいものではなく、切り刻まれ、抉られ、噛み千切られた、そんな凄惨な光景が無意識に想像させられるほどの傷だった。

 僕は、見惚れた。

 おびただしいほどの傷跡に。深く描き込まれた、彼女の生き様のような、その証に。

 彼女の鎧が陽の光を反射させる。僕は久しぶりに、眩しいという感覚を味わった。それと初めて、美しい、と思える感情を抱いた。村にも美人と呼ばれる女性は数人いるし、僕はその人たちを見たことがある。けれど、それはただのまやかしのように思えた。仕方なくそれとする、というような妥協が、拭い切れなかった。

 ぽっかりと空いた胸の容器に、熱湯が注がれる。沸騰して溢れてしまわないように、僕は必死に息を吐いた。何度も何度も、肺が苦しくなるほどに、頭が割れてしまいそうになるほどに、息を吐いて吐いて――吐いた。

 左の胸の辺りをぎゅっと、両手で抑える。肉を掴んでやりたかったけれど、僕には掴めるほどの肉はなかった。心臓の鼓動で砕けてしまいそうな骨を押さえて、僕はその場にうずくまる。疼きがおさまるまで。

「この村から出ていけ!」

 誰かが言った。僕は顔を上げて彼女に目を向ける。彼女の腰間には剣が一本差してある。次々と彼女に向けて怒号が飛ぶ。恐怖が言葉となり、それは無数の針になる。彼女は針の筵になりながらも、剣を抜く動作は一切見せない。

 村人たちは、突然訪れた剣を差す傷だらけの女性に怯えていた。

「すみません。お金は払います、だから、今日だけでいいので食事と宿を提供して頂けませんか」

 彼女は、今にも涙を流しそうな顔で言った。村人たちは手に持った農具を高々と上げ、彼女を責めた。

「油断させておいて、この村を襲う気だろ!」

 彼女は「そんなことはしません。決して」そう言って、頭を下げる。僕は吼える村人たちを見て、泣きそうになった。この人たちは、他人に向ける敵意に飲み込まれ、自分たちを見失ってしまっている。社会の情勢や世界の理などを知らない僕でも分かる。寂れた村を襲うメリットなど、どこにもありはしない。
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