7 / 19
⑦
しおりを挟む
ユーリカは、視線を落とし眉間に皺を寄せた。何かを考えている様子だった。しばらく沈黙が続いて、我に返ったかのように、ユーリカが言葉を発した。
「お金は、いくらぐらい払えばいい?」
ユーリカは言いながら、腰に付けた小さな袋に手を入れる。お金を取り出すのかと思ったけれど、出て来たのは紐で縛られた紙の束だった。紙には何か組織のような名前と、お金を示す印が描かれてある。
「望む金額を、言ってくれ。いくらでも、君に渡そう」
冗談なのか本気なのか判然とはしないけれど、わざわざ冗談を言う意味も分からないし、突飛な行動をするタイプにも見えないので、きっと本気なのだろう。ユーリカが持っている紙の束が、どういう原理なのかお金に変わるに違いない。
けれど、僕にはお金は必要なかった。
「しかし、君の今の生活は、自覚もあるだろう、良いとは言えない。むしろ、最低限よりも下に位置しているよ。この村で唯一、私を助けてくれたんだ。私は、アラムに報いたい」
「だったら――」
僕はぐいっと、座る彼女に身体を寄せた。そして、ゆっくりと彼女の腰間にある剣の柄に触れる。
ユーリカは、何をされると思ったのか、慌てて足の間を閉じた。僕から少し距離を置いて、身構える。緩んでいた身体は硬直しているようで、肌の奥で、ごつごつと筋肉が盛り上がっている。はっはっ、と息を何度も小刻みに吐いて、呼吸を整える。数秒が経過して落ち着きを取り戻し、ユーリカは再び脱力してくれた。
「す、すまない。君も年頃だものな、そういうことを望むこともあるか。しかし、私など、このような見た目だ。身体も硬い。それに、経験のない私では上手くしてやることが出来ない。十分に楽しめないと思うが……」
頬を赤らめながら、ユーリカは言った。今度は僕が当惑し、理解した後、赤面する。両の掌を突き出し、彼女の前で懸命に振る。
「ち、違うよ! そうじゃない。そういうことじゃないんだ。ご、ごめん、勘違いさせてしまって」
訂正のために必死に身体を動かす。徐々に、床板代わりに敷いていた布がめくれて、膝が直接地面に擦れ始める。僕は膝の痛みで布がめくれていることに気が付いて、そそくさと、それを直した。ユーリカは床の布を指先で弄って、その感触を確かめているようだった。
「ユーリカ、貴方のその剣は防衛用? それとも、使えるのかい?」
布を触っていた指先が、剣の鞘に移動する。人差し指が這うようにして鞘を撫でる。その仕草は、大切な何かに愛おしさを伝えているようだった。
「使える。私の身体の一部と言っても、過言ではないくらいにね」
「だろうね。そんな気がしていたよ。ねえ、ユーリカ。お金はいらないし、当然、君の身体をどうこうさせてほしい、なんてことも言わない。とても魅力的ではあると思うけれどね。僕はね、貴方にその剣で、僕の身体を命と魂ごと斬ってもらいたいんだ」
「お金は、いくらぐらい払えばいい?」
ユーリカは言いながら、腰に付けた小さな袋に手を入れる。お金を取り出すのかと思ったけれど、出て来たのは紐で縛られた紙の束だった。紙には何か組織のような名前と、お金を示す印が描かれてある。
「望む金額を、言ってくれ。いくらでも、君に渡そう」
冗談なのか本気なのか判然とはしないけれど、わざわざ冗談を言う意味も分からないし、突飛な行動をするタイプにも見えないので、きっと本気なのだろう。ユーリカが持っている紙の束が、どういう原理なのかお金に変わるに違いない。
けれど、僕にはお金は必要なかった。
「しかし、君の今の生活は、自覚もあるだろう、良いとは言えない。むしろ、最低限よりも下に位置しているよ。この村で唯一、私を助けてくれたんだ。私は、アラムに報いたい」
「だったら――」
僕はぐいっと、座る彼女に身体を寄せた。そして、ゆっくりと彼女の腰間にある剣の柄に触れる。
ユーリカは、何をされると思ったのか、慌てて足の間を閉じた。僕から少し距離を置いて、身構える。緩んでいた身体は硬直しているようで、肌の奥で、ごつごつと筋肉が盛り上がっている。はっはっ、と息を何度も小刻みに吐いて、呼吸を整える。数秒が経過して落ち着きを取り戻し、ユーリカは再び脱力してくれた。
「す、すまない。君も年頃だものな、そういうことを望むこともあるか。しかし、私など、このような見た目だ。身体も硬い。それに、経験のない私では上手くしてやることが出来ない。十分に楽しめないと思うが……」
頬を赤らめながら、ユーリカは言った。今度は僕が当惑し、理解した後、赤面する。両の掌を突き出し、彼女の前で懸命に振る。
「ち、違うよ! そうじゃない。そういうことじゃないんだ。ご、ごめん、勘違いさせてしまって」
訂正のために必死に身体を動かす。徐々に、床板代わりに敷いていた布がめくれて、膝が直接地面に擦れ始める。僕は膝の痛みで布がめくれていることに気が付いて、そそくさと、それを直した。ユーリカは床の布を指先で弄って、その感触を確かめているようだった。
「ユーリカ、貴方のその剣は防衛用? それとも、使えるのかい?」
布を触っていた指先が、剣の鞘に移動する。人差し指が這うようにして鞘を撫でる。その仕草は、大切な何かに愛おしさを伝えているようだった。
「使える。私の身体の一部と言っても、過言ではないくらいにね」
「だろうね。そんな気がしていたよ。ねえ、ユーリカ。お金はいらないし、当然、君の身体をどうこうさせてほしい、なんてことも言わない。とても魅力的ではあると思うけれどね。僕はね、貴方にその剣で、僕の身体を命と魂ごと斬ってもらいたいんだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる