おいしい毒の食べ方。

惰眠

文字の大きさ
2 / 14
シチュー

しおりを挟む
 今日、僕は定時で家に帰ることができた。

 上機嫌な気持ちを胸の内に秘めながら、僕は自宅の玄関の戸を開く。

 鍵をガチャリと音を立てて回す。
 奥から、どたどたと忙しい音が近づいてくる。

 その扉を開くと、ニコニコの笑顔の彼女がいた。
 急いで来たようで、少し髪が乱れている。
 肩からエプロンをかけて、ついさっきまで料理をしていたようだった。

 きっと、僕が遅れるかもしれないという連絡をしたためだろうか。
 予期していない帰宅に彼女は、しっかりと対応している。

「おかえりなさい。」

 彼女は、優しい笑顔で僕にそうあいさつする。

「ただいま。」

 彼女を見るだけで僕は、心安らぐ気がする。

 僕は、靴を脱ぐ。

 玄関にきれいに靴を揃えて、重たい鞄を持って二階の自室に行く。

 自室のクローゼットに、今着ていた上着をしまう。

 手首の時計を外し、机の上に置く。

 鞄を自室において、階段を下りる。

 リビングからは、クリーミーな香りがしている。
 僕は、匂いに連れられるように向かった。

 僕は、リビングの向かい合わせに置かれた椅子に座る。

 右を向くと、彼女が楽しげに料理をしている。

 今日はきっとシチューだ。

 香りが物語っている。

 彼女が作る料理は、いつも彼女の個性が現れた素敵なものだ。
 僕がシチューだと思っていても、ちがうかもしれない。

 僕は、楽しみにしているからこそ静かに座って待っている。

 僕は、机に置かれた読みかけの本を手に取る。

 昨日の夜に読んでそのまま置きっぱなしになっていたものだ。

 僕も彼女も、この本を同時に読んでいる。
 彼女の読んだところであろうところには、四葉のクローバーの押し花で出来た栞が挟まっている。
 僕が、読んでいるところには、赤いバラの花びらの押し花で出来た栞が挟まっている。

 僕は、そこを開き読み進める。

 僕も彼女も本を読むのは得意な方ではない。

 それでも読んでいるのは、きっとこのゆったりとした時間がお互い好きだからだろう。

 僕は、数ページをめくったところで彼女が料理を持ってきた。

 とても良い香りが近づいてきたところで、僕は本に栞を挟んで机の隅に置く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

処理中です...