だから、私は愛した。

惰眠

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第三章

喜び

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 時が経つのはまたたきほどの速さである。

 このいじめのループから一年が経とうとしていた。
 クラスも変わり、メンツも変わり同じクラスにいたはずの彼らから逃げれる、はずだった。

 しかし、そんな上手い話はフィクションだ。

 人生とは、とても加害者有利に働くことが多い。
 ここでもそれは同じだ。

 クラスが変わったところで彼らは簡単に集まり、簡単にいじめた。
 当たり前だ。
 彼らは学校内に居続けるのだから。

 私は、今日も特等席で彼らの動向を見守る。

 一年前と比べると少し背が伸びた彼だが、成長した点はその程度だろう。
 とても喜ばしいことだ。

 私は、彼の表情に注視する。
 彼から見つからないように、適当な本の隙間から。

 彼と目が合いそうになれば、つい顔を隠してしまう。
 照れてしまうのだ。

 あまりにも綺麗に、苦しむので。
 あまりにも可哀そうに、のたうち回るので。

 クラスのメンバーは変わったが私の前の光景は一向に、変わらなかった。
 私にとってのその空間は、ペット愛好家の微笑ましい光景とするものと何ら変わりない。

 私が直接手を下していない今なら、罪悪感など忘れてしまえる。
 彼にこの手が届くまで意識の中で手を伸ばし続けるのだ。

 あまりにも壁を感じるその空間にクラスの誰もが毎日の風物詩として接している。

 会話の端で見物する者。
 完全に存在しないとする者。
 様々だ。

 私は、闇の奥底から彼らを見守る。
 私にとっての彼らは、彼を引き立たせるために存在する影だ。

 私は、影より先の闇から彼らを見守り続ける。
 いつか獣のように#貪__むさぼ__#りたいと願ってしまうまでは、この関係が続くことだろうう。

 この空間を私は、嬉々として伝えていきたい。
 アイドルを推す彼女らの会話のように、私は彼を推す。
 絶賛する。

 私は、平静を装ってこの空間に溶け込む。
 私が本性を現したのなら、このクラスから人は消えるだろう。

 動きそうになる表情筋を何とか抑えて今日も生きる。
 まるで彼らから隠れるかのようなこの行動の真意は、彼から隠れているのだ。
 このクラスの誰もが関わりたくない事象に、私は関わりたくて仕方がない。

 あまりにも彼は可哀そうだ。
 誰か止めてあげればいい。

 もちろんその瞬間は、私がその人物の背中を刃物等で刺し貫くかもしれない。

 私はこの狂気性を隠しきる瞬間も愉悦に浸れるため好きである。
 一日が終わった瞬間変わらすこのクラスから最後に私は出る。

 誰もが本当の私には気づけず終われた瞬間だ。

 その時が私は、大好きなのだ。

 私は弛まぬ努力の中で生きている。

 他人からしたら、あまりもの変人らしい努力は、常に褒美を与えてくれる。
 彼の苦しみだ。

 彼が痛がれば、その痛みに比例してその苦しみを伝えてくれる。

 とても視聴者を喜ばせてくる。
 彼が芸能人になれば、私がいくらでもギャラを払うだろう。

 私は、相変わらず彼のことを無視できない。


 これが、私の純愛である。
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