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第四章
被害
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彼は今日もいじめられる。
まるで、金曜の出来事は白昼夢であったように感じたことだろう。
だが、現実だ。
これが彼の生きる世界だ。
そう彼の耳元で、囁いてやりたい気持ちだ。
だが、私は、この世界を壊したくない。
一関係者であり部外者でもある私は、より特等席で見ている気分になれるのだ。
彼が、本当に私の視線に気づいたなら、おかしくなってしまうことだろう。
味方であるはずの私が、敵なのだから。
私は、今日も彼を見つめる。
情熱的に見守るのだ。
あまりにも酷く醜い彼の姿に、私の中では爆笑の嵐だ。
苦しみ悶える彼は、いつにもなく愉快だった。
おそらく、私が彼の弱さの一つを見たからだろう。
いつも以上に彼が弱弱しくなっていくのを感じる。
特大の映画スクリーンで彼のことを見れたなら、室内に響き渡るほどの歓声を飛ばしていただろう。
それだけ私は、愛してやまないのだ。
彼は憎たらしくも、もっと私に近付きたくて仕方がないはずだ。
その優しさが、いつか憎しみに変わり、殺意になる日があるのなら、私は明日も明後日もいつも以上に愉快に学校へと通うことだろう。
彼と静かに出会うあの時間となった。
彼は、変わりなく作る傷をもって、私の前へと現れる。
「今日も痛そうだね。」
「そ、そんなことないよ。」
彼は少女漫画のイケメンが照れ隠しに使うセリフのようにそう告げる。
腹がよじれそうだ。
否定する割に、体は苦痛を露わにしている。
「絆創膏を箱で準備しないといけないみたいね。」
「だね。」
渾身のギャグに笑い一つでも見せてくれればいいのに、彼の気分屋なところに飽き飽きする。
残念だ。
作戦変更だ。
「金曜日楽しかったね。夏樹君。」
「うん。楽しかった。」
「名前で呼んでくれないの?」
「み、美幸さん。」
「よろしい。」
少し変わった空気も和やかになったはずだ。
「ねぇ、保健室いかないの?」
「大丈夫だよ。いつものことだし…あ。」
彼は、いつもいじめられてきたことを隠したい様子だった。
「いつものこと?」
「う、うん。」
隠してしまいたいなら、無理にでも合わせてあげればもっと面白くなりそうだ。
「おっちょこちょいなんだね。」
そう言って笑ってみせる。
「おっちょこ…うん、そうなんだよ。怪我ばかりで心配させてごめんね。」
「気にしないでね?気を付けて歩くのよ?」
「うん…。」
無理に合わせすぎたかもしれないが、この思い悩む姿を間近で見ているという現状が愉快で仕方ない。
きっと、彼はまだ私に現実というものを隠したくて仕方がないのだろう。
こういう繰り返しをしているうちは、彼が苦しむはずだ。
それを考えるだけで私は、幸せに近づける気がする。
きっと、これからも彼は隠そうとするだろう。
いつか、教室にいる私の存在に気づくまでは。
彼はなんて愛らしいのか。
犬同然の彼は、従順にも私に下手な嘘をつき続けようとするはずだ。
その首輪を掴み続ける気持ちが、とてつもなく私を幸福へと導くのだ。
「そろそろ時間みたいだね。気を付けて帰るんだよ?」
「うん。今日も一緒に帰らない?」
「ごめん今日は用事があって無理そう。また誘うね。」
彼からの誘いを断る。
彼からの誘いを断る権限が発生したその瞬間、嬉しくなった。
主導権を完全に握れる瞬間に近づいている実感が湧いた私は、いつも以上に高く飛び上がれそうだった。
断られた彼は、あからさまに気を落としているが、そこがまたいい。
丁度良く、私が悪役にならず、加害者でいられる。
そして、彼はまた自分の教室という地獄に向かうのだ。
これ以上に最高の演目はないだろう。
リアル以上に素晴らしい芸は存在しないと私は断言できる。
私は今が楽しかった。
対照的に彼は、辛かったはずだ。
それを想像するのが、たまらなく好きな私はやはりおかしいのだろう。
まるで、金曜の出来事は白昼夢であったように感じたことだろう。
だが、現実だ。
これが彼の生きる世界だ。
そう彼の耳元で、囁いてやりたい気持ちだ。
だが、私は、この世界を壊したくない。
一関係者であり部外者でもある私は、より特等席で見ている気分になれるのだ。
彼が、本当に私の視線に気づいたなら、おかしくなってしまうことだろう。
味方であるはずの私が、敵なのだから。
私は、今日も彼を見つめる。
情熱的に見守るのだ。
あまりにも酷く醜い彼の姿に、私の中では爆笑の嵐だ。
苦しみ悶える彼は、いつにもなく愉快だった。
おそらく、私が彼の弱さの一つを見たからだろう。
いつも以上に彼が弱弱しくなっていくのを感じる。
特大の映画スクリーンで彼のことを見れたなら、室内に響き渡るほどの歓声を飛ばしていただろう。
それだけ私は、愛してやまないのだ。
彼は憎たらしくも、もっと私に近付きたくて仕方がないはずだ。
その優しさが、いつか憎しみに変わり、殺意になる日があるのなら、私は明日も明後日もいつも以上に愉快に学校へと通うことだろう。
彼と静かに出会うあの時間となった。
彼は、変わりなく作る傷をもって、私の前へと現れる。
「今日も痛そうだね。」
「そ、そんなことないよ。」
彼は少女漫画のイケメンが照れ隠しに使うセリフのようにそう告げる。
腹がよじれそうだ。
否定する割に、体は苦痛を露わにしている。
「絆創膏を箱で準備しないといけないみたいね。」
「だね。」
渾身のギャグに笑い一つでも見せてくれればいいのに、彼の気分屋なところに飽き飽きする。
残念だ。
作戦変更だ。
「金曜日楽しかったね。夏樹君。」
「うん。楽しかった。」
「名前で呼んでくれないの?」
「み、美幸さん。」
「よろしい。」
少し変わった空気も和やかになったはずだ。
「ねぇ、保健室いかないの?」
「大丈夫だよ。いつものことだし…あ。」
彼は、いつもいじめられてきたことを隠したい様子だった。
「いつものこと?」
「う、うん。」
隠してしまいたいなら、無理にでも合わせてあげればもっと面白くなりそうだ。
「おっちょこちょいなんだね。」
そう言って笑ってみせる。
「おっちょこ…うん、そうなんだよ。怪我ばかりで心配させてごめんね。」
「気にしないでね?気を付けて歩くのよ?」
「うん…。」
無理に合わせすぎたかもしれないが、この思い悩む姿を間近で見ているという現状が愉快で仕方ない。
きっと、彼はまだ私に現実というものを隠したくて仕方がないのだろう。
こういう繰り返しをしているうちは、彼が苦しむはずだ。
それを考えるだけで私は、幸せに近づける気がする。
きっと、これからも彼は隠そうとするだろう。
いつか、教室にいる私の存在に気づくまでは。
彼はなんて愛らしいのか。
犬同然の彼は、従順にも私に下手な嘘をつき続けようとするはずだ。
その首輪を掴み続ける気持ちが、とてつもなく私を幸福へと導くのだ。
「そろそろ時間みたいだね。気を付けて帰るんだよ?」
「うん。今日も一緒に帰らない?」
「ごめん今日は用事があって無理そう。また誘うね。」
彼からの誘いを断る。
彼からの誘いを断る権限が発生したその瞬間、嬉しくなった。
主導権を完全に握れる瞬間に近づいている実感が湧いた私は、いつも以上に高く飛び上がれそうだった。
断られた彼は、あからさまに気を落としているが、そこがまたいい。
丁度良く、私が悪役にならず、加害者でいられる。
そして、彼はまた自分の教室という地獄に向かうのだ。
これ以上に最高の演目はないだろう。
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