だから、私は愛した。

惰眠

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第六章

愛を告げる子鳥

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 彼と出会って一年を過ぎ、高校二年の夏になる。

 夏休み、彼とのデート。
 私は率先して彼の手を取り、先を歩く。
 まるで彼の首輪にリードを繋ぎ、散歩するかのように。

 私は、彼のことを一番に愛す。

 歪んだ純愛は、私が留めておくには大きすぎた。

 最近では、プライベートで彼と手を繋ぐことが当たり前になっている。

 彼が、私の元を離れることを考え、臆病風に吹かれているのかもしれない。

 私が、彼のことを最後の時まで愛し続けることができなければ、悔いしか残らないだろう。

 だからこそ私は、彼にこの気持ちを伝えることにした。

「もう、気づいてると思うけど、私、夏樹君のこと好きだよ?」

「ありがと。」

「夏樹君は?」

「僕も好きだよ。でも…。」

 彼は少し暗い顔をしながら下を向く。

「でもどうしたの?」

「ごめんね。気持ちに答えてあげれない。こんな関係辞めよ?」

「どうしたの?急に。」

「僕は、ダメな人だから。もっと一緒に居続けると美幸さんを不幸にさせてしまう。」

 彼はまた勘違いをしている。

 彼が、私を断るなんて権利など無いのに。

 私は、彼が許せない。

「そう。でも、私も諦めが悪いの。わかるでしょ?」

「そうだね。」

「だから、もし夏樹君に不幸にさせられるようなことがあったら、その時に別れればいいわ。だから、今からあなたは私のものになって?」

 私は歪んだ瞳で彼のことを見つめる。

 彼が私に惑わされてしまうように。

「わ、わかったよ。そこまでいうなら、僕だって強くは言わないよ。」

 彼は、私の瞳から目を逸らす。

 私の異様性に、憑りつかれそうになったのだろう。

 そして私は、彼を自身のものにした。

「じゃぁ、これからは、もっとよろしくね。」

「よ、よろしく。」

 私は、彼の頬に口付けをする。

「感謝の気持ち。これからもよろしくね。私の彼氏君。」

「は、はい。」

 半ば無理やりにその契約を交わす。

 悪魔のように引きずり込み、私は少しずつ、彼のその羽ばたく翼を折って自由を奪うことだろう。


 学校の中では、いつも通り、特定のタイミングのみしか会わなかった。

 だが、休日なんかの時間が空けば、彼に会いに行き、私は彼の手を執拗に握ったのだ。

 たまの気まぐれで、誤って引っ搔いたことにし、私の伸びた爪で、彼の手の甲を傷つけては心の中で喜び狂っている。


 彼が少しずつ、私という存在に色を決められ、染められてゆくのを感じる。

 その時、私はこれ以上にないくらいの幸福を感じたのだった。

 彼は、私ものだ。
 誰にも渡しはしない。

 今日も彼は教室という箱庭でいじめられている。

 教室のヒトカケラの私は、彼をうっとりと見つめる。

 彼の表情。
 彼の傷。
 彼の痛覚。

 そのすべては私のものだ。
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