私は死んだ。

歪む世界

悪夢の映画

　当時の私は学校に通うのが憂鬱だった。
　原因はいじめにあった。

　私が親切からクラスメイトの掃除当番を代わってあげたことが原因だったと思う。

　当時は、誰もがいい人で、優しくすれば喜んでくれるものと疑わなかった。クラスメイトが忙しいというので、役割を代わってあげた時もそうだった。
　教室を綺麗にしようと掃除をしていたら、きっと先生は褒めてくれるし、クラスメイトとの距離も近づき、きっともっと楽しくなるという軽い気持ちだった。
　実際、先生に褒めてもらえた。
　だが、これが本当は、別の人の役割だと知ると、怒鳴られた。

　役割は人それぞれあるもので、その人の役割を奪うのはよくないというのが、先生の言い分だった。

　暗い気持ちのまま自宅に戻る。
　自宅では、いつものように、顔を合わせることのない何とも言えない家族の空間があった。
　父と母にあるように私にも秘密ができるようになった。暗い秘密。

　次の日学校に行くと教室で怒声が広がっていた。
　僕に掃除当番を頼んだあのクラスメイトと担任の姿があった。

　彼が、僕の存在に気付くと、強い眼光で睨まれた。

　その日の放課後、彼から呼び出された。

　人気のない校舎裏。当時の私はあまりにも純粋だったのだ。
　微塵の警戒心もなくその場に連れられた。

　そして、多くの罵声を浴びせられた。
　とても酷く、まるであの担任の真似をするように。

　私は、どうしたらいいのかもわからず、謝罪と涙を交えていた。

　彼はきっとその私の姿に嬉しくなったのだ。
　許されたければと、条件を提示された。
　今思えばとても酷い条件だった。少しずつ条件も過激になり、見えないところに過激な跡が残る。お風呂につかるのでさえ辛かった。
　クラスのだれもが少しずつ、私から離れていった。
　担任に言えば、どうせ過激さを増すからと、頼るのが怖かった。

　家に帰ると、僕よりも酷く辛そうな両親の姿を毎日見ていた。
　だから、余計に仮面のような笑顔を作って安心させることに努めてきた。

　私の過去でとても酷い時期だった。

　テレビでは依然として私が忘れたかった過去が順に流れている。

　もうやめてくれと言いたかった。
　私は、石膏で出来た体のように椅子から微動することができなかった。

　テレビの中の私はずっと泣きそうな顔を噛みしめて、脳裏に死という唯一の逃げ道を何度も何度も繰り返し浮かんでは消えてを繰り返していた。

　首に手をかけては、両親の顔が浮かび心配をかけまいといつも苦しさの中で諦める。
　ナイフ持っては、死んだ後の両親の涙を想像して諦めた。

　両親は、いつも苦しそうにしているが、離婚だけは切り出さなかった。
　恐らく私の存在がまだいたからだろう。

　いまだテレビは、苦しそうに顔を陰でゆがめる私が映し出されていた。
　笑い声が聞こえる。

　この時からだろうか、笑い声にびくびくしなくてはならなくなったのは。
　笑われることが怖くなった。
　笑うことも少しだけ嫌になった。

　そして、高校卒業の時、私は、就職の道を選んだ。
　学びの場が嫌になったのもある。
　だが、一番に願っていたのは、両親の不幸かもしれない。
　私が、長くこの家に居座れば、思うように両親は離婚できず、苦しさを募らせ続けてくれる。そう思っていたのかもしれない。
　私は、両親のことを愛していたが、反対に、嫌ってもいた。

　私は、狂気の映像を見せられつつ、おかしくなりそうだった。
　私は、もっと早くから自殺願望であふれていたことを再認識した。
　私がそれでも生きていたのは、喜びや幸せという良い感情ではなく、憎しみや狂気じみた恨みのような執着だったはずだ。

　もう両親には頼っていなかった。
　自然と独り立ちできるようになっていた。

　そして、次の暗い過去である就職後の話へとチャンネル変更された。