私は死んだ。

惰眠

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歪む世界

乖離した現実

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 玄関の戸を開けると、私が立っていた。

 その瞬間的異常現象に私は驚き、しりもちをついた。
 扉は、ゆっくりとまるで意思を持ったナニカのようにゆっくりと閉じた。
 バタンッと大きな音を立てて。

  いつも通り、スーツを着て、会社帰りの疲れ切った、死んだ魚のような眼をした私がいた。私はまるで私がいつもそうするように玄関をぼーっと見つめていたようだった。
閉じる瞬間私は見た。目の前にいた渡した不気味なほど口角をを上げで、何かを思いついたかのようにニヤリと笑っていた。
 その姿に私は若干の恐怖を覚えた。

 きっとまた幻覚だと私は、何度も心の中で唱え続ける。
 カサカサの老いた手が震える。

 私を追い込むかのようにテレビの音が聞こえる。

 テレビからは、少年の元気な笑い声が聞こえる。

 恐る恐るテレビのほうに戻ってみる。
 リビングへと続く扉を恐る恐る覗き、その隙間からテレビのほうに目をやる。

 そこに移っていたのは、楽しそうに庭に作ったビニールプールではしゃぐ小学生ぐらいの時の私だった。
 撮った覚えのない映像が第三者からの視点で流れている。
 恐らく父だろう。

 父はよく母と遊ぶ私を遠くから眺めているのが好きだった。
 いや、関わることを嫌っていたのかもしれない。

 父と母は、よくケンカをした。子供のころの私には、見せないところでいつも言い争いをしていた。
 私の前ではよく、仲の良い振りをしようと取り繕っていた。
 父や母と遊ぶのは子供のころの楽しみの一つだった。
 一つ心残りだとするなら、家族三人そろって一つのことで遊ぶという経験があまりにも少なかったことだ。

 どこかに行きたかったら、連れて行ってもらえた。
 遊んでほしかったら、遊んでくれた。
 勉強も優しく教えてくれた。

 しかし、二人がお互いを見つめて笑いあっているところをあまり見なかった。
 一緒の空間にいるはずが、別々のどこかにいるかのような苦しさが私はあった。

 気づくと私の頬には朝露のような涙が伝っていた。

 相変わらずテレビは、幼少期の私のまぶしい笑顔を振りまく映像が繰り返し流れる。

 恐らく当時は、こんな自分の姿など、想像しなかっただろう。

 テレビが映すのは、恐らく、小学生ごろまでの心から笑えていた瞬間だろう。
 とても懐かしく感じた。
警戒心は、とうに消えていた。

 私は重かった歩みをゆっくりとテレビの近くの椅子に進める。

 椅子に手をかけ座ると、ピッという音とともに映像が切り替わる。

 そこに移るのは、中学からの暗い過去だった。
 一瞬で、暖かみを含んだ涙は引き、顔面に、緊張したこわばりを取り戻す。

 手を急いでリモコンに伸ばす。
 何度も電源ボタンを押す。
何度も何度も押す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。

 消えない。

苛立ちからリモコンを壁にめがけて投げ飛ばした。
勢いよくぶつけられたリモコンは、バラバラに砕け散った。

 そして見たくない私の姿が映し出された。
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