3 / 12
歪む世界
悪夢の歩み
しおりを挟む
私は現状にひどく混乱し、絶叫を響かせた。歳の割に驚くほどの轟音。呼吸が荒くなる。心拍も上がっている。頬から垂れた雫が零れ落ちた時に少しの冷静さを取り戻した。
それが、私から流れ出たものなら死んでいてもおかしくはないほどの量の血液であった。
痛みはない。
その量に私が本当は死んでいたとしてもおかしくはないと感じた。
まともに前も見れないふらつく足を支えるように、壁伝えに少しずつ部屋の戸を開けた。扉の先には、変わらないいつもの廊下が広がっていた。少しほっと胸をなでおろすような思いだった。
この家は、亡き両親より受け継いだ一軒家だ。私には、彼女も、ましてや嫁もいない。一歩ずつ裸足の歩みを進め、暗闇をふらふらと動く。一人だけの広い空間に、ペタペタという音に床の軋む音が交じる。
背中にべったりとついているはずの赤黒い血液は、一滴たりとも落ちることはなかった。
私にとっては、物寂しい広いリビングに辿り着き。蛇口から冷えた水を受け取った。
まだ止まらない激しい心音を止めるように、静かに流し込んだ。
息はまだ荒い。
少しの深呼吸といつも通り繰り返される沈黙。
今は、この沈黙が果てしなく怖い。
沈黙を壊したくて、私はテレビのリモコンに手を伸ばした。
どっしりと椅子に腰を落とし。ボタンを押す。
つかない。
何度ボタンを押したところで、テレビに信号は送られない。
無音による恐怖の悪魔がまた私の胸に爪を突き立てた。
じんわりと汗が私をおぼれさせようとした。
もしかしたら、たまたま停電が起きたのかもしれない。
時計を見る。2:00を指し示していた。おそらく深夜だろう。カチッカチッと秒針が音を立てて、動いている。
頭がおかしくなりそうな空間から、すぐにでも逃げてしまいたいという気持ちと、汚れてしまった服をすぐにでも捨ててしまいたいという気持ちから、浴室を目指した。
浴室は、やはり変わりなかった。水栓を捻る。お湯は出た。
確認を終えると、服を脱ぐ、あまりにも汚れたその服の背を見るとまたおかしくなってしまいそうだったが、堪えた。
浴室に備え付けの鏡で自身のみっともない体を眺める。私の体には、当たり前のように傷一つない。
お湯を全身に浴びる。少しの鉄臭さも残らないように、全身を隈なく洗った。髪を洗う。手に何本も白い毛が絡みつく。これは紛れもなく私の体だ。
体を使い古されたボロボロのタオルで拭く。
まだ水滴の滴る足で、数歩先の衣服をとる。
着替えが済むと、私は、気分転換に外でも出ようと考えた。こんな夜更けに出歩くことは、誰の迷惑にもならないはずだ。
あのもう見たくもない部屋に私は向かう。携帯や、財布なんかは、そこに置いていたからだ。
そこには、何もなかった。まるで私が勝手な勘違いでもしていたかのように、汚れ一つない、いつも私の寝る自室が、そこにはあった。
私は、仕事や生活の疲れから、いよいよおかしくなったのだと、納得した。
必要なものを拾い上げ、私は、簡単な格好で、玄関に向かう。
玄関も相変わらずだ。
鍵を片手に持ち、玄関を開ける。
そこには、私がいた。
それが、私から流れ出たものなら死んでいてもおかしくはないほどの量の血液であった。
痛みはない。
その量に私が本当は死んでいたとしてもおかしくはないと感じた。
まともに前も見れないふらつく足を支えるように、壁伝えに少しずつ部屋の戸を開けた。扉の先には、変わらないいつもの廊下が広がっていた。少しほっと胸をなでおろすような思いだった。
この家は、亡き両親より受け継いだ一軒家だ。私には、彼女も、ましてや嫁もいない。一歩ずつ裸足の歩みを進め、暗闇をふらふらと動く。一人だけの広い空間に、ペタペタという音に床の軋む音が交じる。
背中にべったりとついているはずの赤黒い血液は、一滴たりとも落ちることはなかった。
私にとっては、物寂しい広いリビングに辿り着き。蛇口から冷えた水を受け取った。
まだ止まらない激しい心音を止めるように、静かに流し込んだ。
息はまだ荒い。
少しの深呼吸といつも通り繰り返される沈黙。
今は、この沈黙が果てしなく怖い。
沈黙を壊したくて、私はテレビのリモコンに手を伸ばした。
どっしりと椅子に腰を落とし。ボタンを押す。
つかない。
何度ボタンを押したところで、テレビに信号は送られない。
無音による恐怖の悪魔がまた私の胸に爪を突き立てた。
じんわりと汗が私をおぼれさせようとした。
もしかしたら、たまたま停電が起きたのかもしれない。
時計を見る。2:00を指し示していた。おそらく深夜だろう。カチッカチッと秒針が音を立てて、動いている。
頭がおかしくなりそうな空間から、すぐにでも逃げてしまいたいという気持ちと、汚れてしまった服をすぐにでも捨ててしまいたいという気持ちから、浴室を目指した。
浴室は、やはり変わりなかった。水栓を捻る。お湯は出た。
確認を終えると、服を脱ぐ、あまりにも汚れたその服の背を見るとまたおかしくなってしまいそうだったが、堪えた。
浴室に備え付けの鏡で自身のみっともない体を眺める。私の体には、当たり前のように傷一つない。
お湯を全身に浴びる。少しの鉄臭さも残らないように、全身を隈なく洗った。髪を洗う。手に何本も白い毛が絡みつく。これは紛れもなく私の体だ。
体を使い古されたボロボロのタオルで拭く。
まだ水滴の滴る足で、数歩先の衣服をとる。
着替えが済むと、私は、気分転換に外でも出ようと考えた。こんな夜更けに出歩くことは、誰の迷惑にもならないはずだ。
あのもう見たくもない部屋に私は向かう。携帯や、財布なんかは、そこに置いていたからだ。
そこには、何もなかった。まるで私が勝手な勘違いでもしていたかのように、汚れ一つない、いつも私の寝る自室が、そこにはあった。
私は、仕事や生活の疲れから、いよいよおかしくなったのだと、納得した。
必要なものを拾い上げ、私は、簡単な格好で、玄関に向かう。
玄関も相変わらずだ。
鍵を片手に持ち、玄関を開ける。
そこには、私がいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる