えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟！兄上に天下を取らせるため尽力します。

4章 三国鼎立

不穏な動きをする者

【襄陽】

　劉表の治める襄陽に怪しげな黒衣の道士服を守った老人が現れる。
　老人「ヒョッヒョッヒョ。高名な劉表様にお会いできてとても嬉しく思いますぞ」
　劉表「誰だこんな陰気なジジイを通したのは、摘み出せ」
　蔡瑁「さぁ御老人、ここは貴様の来るところではない。出て行ってもらおうか」
　老人「ヒョッヒョッヒョ。さてと中に入り込めさえすればこちらのもんよ。どれ。ワシは劉表の父。ワシは劉表の父。ワシは劉表の父」
　蔡瑁「これはこれは、殿のお父君様、よくぞ起こしくださいました」
　劉表「蔡瑁、貴様何を言っている。父ならとっくの昔に亡くなって。なんだこれは頭が割れるように痛い。あっ父上、どうしてこちらに」
　老人「ヒョッヒョッヒョ(さてとだいぶ力も戻ってきたわい)劉表よ。間も無く孫策が攻めてくる。兵力の大半を孫策の迎撃に充てるのだ。わかったな」
　劉表「父上の仰せの通りに致します」
　老人は、襄陽にて暗躍を終えると呉郡へと戻っていく。
　劉表「うっ。今のは。まぁ良い。孫策め。我が領土を狙うとは許しがたし、袁紹殿からは劉備の備えに回すようにと言われたが全兵力を持って孫策を急襲する。全軍進め」
　蔡瑁「承知」
　荊州の大半の兵を江夏に送り、江夏から長沙に向かおうとしている孫策軍の横っ腹を突く、果たしてどうなることやら。

【呉】

　呉郡では、孫策が着々と荊州攻めの準備をしていた。
　孫策「公瑾、上手くいったな。ありゃ劉丁のやつも俺たちが長沙攻めを誘導したことに気付いてないぜ」
　周瑜「あぁ、伯符。今度こそ劉丁に一泡吹かせてやろう。荊州全土の制覇をもってな。南の四郡を治める太守たちは皆、劉表からの待遇に不満を持っている。労せずして手に入れられよう。その後北上すれば荊州は、伯符のものだ。その後荊州を取り、曹操と事を構える」
　孫策「ハハハ。楽しみだぜ。娘にも早く会いたいしな」
　周瑜「全くだ。お互い婚姻して1年で子供が誕生するとはな」
　孫策「だな。だがこんなに嬉しいことはない。娘のためにも戦乱のない世をこの手で掴まねばならねぇ」
　周瑜「あぁ、俺たちも同じ気持ちだ。必ずこの荊州攻めを成功させよう」
　孫策「勿論だ」
　そんな面々を影から監視している男達。そこに近づく女性。
　柊「監視の役目、御苦労様です。翔ショウ・蓮レン」
　翔「柊姉さん。道士様から何か連絡は？」
　柊「まだないわ」
　蓮「本当に許貢様の仇取れんのかよ。道士様は何考えてんだ」
　柊「今は、言われた通り監視しておくしかないわ。私だって今にも飛び出して行って斬りつけたい気持ちを抑えているのだから」
　翔「柊姉さん、やっぱりまだ。いやそうだよな。内縁とは言え、旦那だったんだもんな」
　蓮「馬鹿、お前、それは」
　柊「もう大丈夫よ蓮。もうすぐ私たちの悲願が成就される。そんな気がするから」
　この3人は、孫策に紙一枚で斬首された許貢の食客たちで構成された闇夜団のメンバーだ。柊は、表向きは許貢の妻。翔と蓮は、双子の兄弟で産まれてすぐ捨てられ、許貢に拾われ育てられた。2人とも許貢のことを父のように慕い。優しい柊のことを姉のように慕っている。そんな2人は、許貢を殺した孫策の監視をしている。隙を見つけるためではなく見失わないためにだ。
　柊「それじゃあ、私はもう帰るわね」
　翔「あぁ。柊姉さん、こっちは俺たちに任せてくれ」
　柊が許貢の住んでいた邸宅に帰ると囲炉裏で黒い道士服を身に纏った老人が座っていた。
　柊「今日はそちらの姿で来たんですね于吉」
　于吉「そうであったな。ここでは、こちらでも良かったのだったな。報告してやる」
　于吉は、容姿を老人の姿から若々しい姿へと変える。
　柊「本当に不思議な人です。とても80を超えるようには見えません」
　于吉「ハッハッハ。これも我が呪術の成せるところ。若返りの秘術だ」
　柊「その話は必要ありません。報告を聞きましょう」
　于吉「先の蘆江では袁胤が全く役に立たんかったからな。せっかく、袁術を信奉する気持ちを利用して、袁術の顔の皮を身体の一部に縫い付けること。一定の血を集めることを言明したというに、よもや倒されるとは思っていなかったのだがな。まぁ、その血のお陰で我が呪術が満ちたのだから全く無駄ではなかったがな」
　柊「その血で許貢様が生き返るのですね？」
　于吉「うむ。我が呪術を持ってすればな(まぁ、魂はすでに昇天しておるだろうから物言わぬ操り人形だがなぁ)」
　柊「もうすぐ、私の悲願が許貢様が帰ってきてくださる。それだけで私は私は」
　于吉「孫策の方も問題ない。あやつの極上の血を持って総仕上げとし、許貢を復活させよう」
　柊「首尾はうまく行ったのですね」
　于吉「うむ。劉表を誑かし、孫策が攻めてくることを伝え。全軍で迎撃するように命じた。今頃江夏の黄祖の元に集まっているだろう。後は、前を強大な劉表軍に阻まれた孫策を背後から刺してやれば良い」
　柊「やっぱりその姿は慣れませんね。わかりました梟に命じて、孫策軍の兵の中に闇夜団を潜り込ませましょう。ようやく、私たちの悲願が叶う。孫策めその命を持って許貢様復活の礎となりなさい」
　于吉「全く注文の多い女じゃ。じゃが、これでワシも世話になった許貢に恩が返せるといったもんじゃ(生き返った許貢はワシの手足として動く操り人形だがなぁ。そして、それを介してお前たちもな。全く良い手駒をくれたもんじゃ許貢。ヒョッヒョッヒョッヒョッヒョ)」
　孫策の命運やいかに。