えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

文字の大きさ
559 / 821
5章 天下統一

陶商の矜持

しおりを挟む
 ここ徐州で1番の商会を持つまでになったかつて徐州を治めていた陶謙の長子である陶商。
 これは、彼が蔡文姫の手紙を受け取る少し前の話である。
 大きめの荷台に見た目ではわからない隠し戸があり、その後ろには、人が十分に寝転べる程のスペースを用意したカモフラージュ満載の馬車。
 本来の目的は、遠くに商品を運ぶ際に自分が寝られるように作ったスペースだが人を運ぶこともあると考えた陶商は、快適かつ安全を期すべく、さらにその床を外すことで、下にも奥行きを作り出した。
 奴隷商人なら誰もが欲しがるこの荷台のある馬車。
 これを制作したのは、諸葛亮の妻である黄月英と劉曄の友人である馬鈞だった。
 色々な人を無事に脱出させてきたこの馬車だが老朽化に伴い、新しく作り直すかどうか陶商は頭を悩ませていた。
 というのも劉義賢の新たなアイデアによって、配送屋と郵便屋が作られたのである。
 配送屋というのは、荷物を届けるのを専門とする職業で、郵便屋というのは、手紙を届けるのを専門とする職業である。
 陶商が数年ほど前に預かった子供たちの中で成人した兄妹がいて、彼らのために何かできることはないかとまだ彼らが小さい時に顔合わせを兼ねて劉義賢に相談したのがきっかけだった。

 義賢「久しいな陶商。此度の訪問、とても嬉しく思う。さぁ、入ってくれ董白も喜ぶ」

 陶商「失礼します」

 陶商の背に隠れて2人がどうしようかと悩んでいる。
 この2人が後に配送屋と郵便屋になる兄妹である。
 その後ろにも多くの子どもたちが居た。

 義賢「これは可愛いお客さんたちだな。さぁ、遠慮せずに入ってくれ。それにしても陶商に全く似ていないし、これ程子沢山であったか?あぁ、あの目の見えない御仁の連れていた」

 陶商「はい。お察しの通り、義妹の連れていた子供たちです。今は、多くの子どもたちに読み書きと計算を教えていまして、この2人はとにかく物覚えが早いので顔合わせの代表として、ほら挨拶をしましょうか」

 双子の兄「は、は、は。初めまして」

 双子の妹「こ、こ、こ。こんにちは」

 義賢「シャイなようだ。あっ。シャイというのはな。恥ずかしがり屋さんという意味だ。そう緊張する必要はない。親戚のおじさんに会ったみたいに気楽で構わない。子供というのは、そういうものだからな。変に気を違うことはないぞ。さぁ、一緒にご飯を食べよう」

 双子の兄「こんなにたくさん居ますけど」

 双子の妹「良いのでしょうか?」

 義賢「賑やかで、董白も喜ぶ。アイツは、俺なんかよりも子煩悩だからな」

 董白「ぎ・け・ん。聞こえてるわよ~」

 義賢「別に悪口を言っていたわけではないのだから良いだろう」

 董白「子供に甘いのが私だけだなんて言わないでよね。貴方だって牝愛にメロメロじゃない」

 義賢「ギクッ。仕方がないだろう。君に似て可愛い娘なんだから。メロメロにもなる」

 董白「私に似て可愛いだなんて、ポッ」

 双子の兄「お姉ちゃんの顔が真っ赤になった!」

 双子の妹「ホントだ。りんごほっぺだ」

 董白「もう。揶揄わないで。ほら。一緒にご飯を食べましょう」

 双子の兄「やったー」

 双子の妹「やったー。あれっ。背中に赤ちゃんがいる!可愛い」

 董白「牝愛っていうのよ。ほら挨拶してあげて」

 牝愛「キャッ。キャッ」

 こうして子供達を董白が連れて行き2人きりとなる劉義賢と陶商。

 義賢「あの子たちの将来に関して、俺に話があるのだろう?」

 陶商「!?お分かりになられていたのですか?」

 義賢「優しいお前のことだ。両親を戦争で亡くしたあの子たちには平和に生きて欲しい。だが、所詮は乱世。どこにいても巻き込まれるしお金という先立つものが必要だ。違うか?」

 陶商「全く、敵いません。そこまでお分かりとは」

 義賢「あの子たちは読み書きと計算はできるのだな?」

 陶商「はい。それが何か?」

 義賢「陶商、放浪売りは一旦やめ。いやお前のことだやめないな。放浪売りをしながらで良い。商会を持て」

 陶商「商会ですか?」

 義賢「あぁ。この国はこの先もっと大きくなるだろう。あくどい商人も現れる。それらを牽制できる大きな商会を作れ。そこで子供達を雇ってやれば良い」

 陶商「!?盲点でした。まさか、そんなやり方があったなんて」

 義賢「お前の商人としての矜持は、世界中何処にいても同じ値段で同じ物が手に入るそんな世界だったな?」

 陶商「はい。それが僕が商人を志したきっかけでもありますから」

 義賢「同じ値段というわけにはいかないかもしれないがそんな時代は必ず来る。俺は、その時。陶商、お前が第一人者になってくれると嬉しいと思っている。その第一歩として、荷物を届けることを専門にする配送と遠くに離れている家族や知人に手紙を届けることを専門にする郵便。この2つがあれば便利だと思わないか?」

 陶商「商人が今のように売り歩かなくても済むようになる。例え、戦地からでも家族に手紙を残すことができる。想いを伝えられる。それは、凄くいいですね」

 義賢「表向きは、別々に分ける。だが、裏でお前が全てを統括せよ。そして、支部を作り、子供たちを雇う。お前自身がこの人と仕事をしたいと思う人間にあったら面接もすればいい。人となりを知るためにな。お前は、聡明だ。初めて出会った俺に曹操殿を説得するのは、自分の仕事ですと言い切れる勇気もある。そんなお前に任せたいのだ。どうだ。この俺のアイデアを形にしてくれるか?」

 陶商「あいであ?」

 義賢「アイデアというのは、発想という意味だ」

 陶商「是非、僕で良ければ。劉丁様の発想を形にさせてください」

 義賢「頼んだ」

 陶商は、かつて劉義賢と交わした約束を胸に仕事に明け暮れ、そして現在、蜀漢随一の大商会へと成長させた。
 義妹の連れていた子供達を積極的に雇い。
 戦争孤児者を養育し。
 働きたいという人とは面談という形でその人となりを確かめた。
 蜀漢随一の大商会、その名を希望商会という。
 未来は希望に溢れているという想いを込めた名前である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...