えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

死を装った後の蔡文姫の動き

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 何故、陳留にいたはずの蔡文姫が匈奴にも近い華北に居たのか。
 その説明をするには、蔡文姫が毒薬の小瓶で死を装うことに決めた数日後に戻る。

 蔡文姫「じゃあ。これを司馬の家に届けるのよ羊祜」

 羊祜「はい。叔母様」

 蔡文姫「あー。本当に可愛い。今は子供達と離れてるからママ成分が足りてなかったのよ~。むぎゅーってして良い?」

 羊祜「はい」

 蔡文姫「貞姫もお父さんも亡くして、辛かったわね。せめて、私の前だけでは強がらなくて良いのよ。もう。羊祜は、私にとっても大事な子ですもの」

 羊祜「叔母様。ぐすっ。ぐすっ。あの、失礼じゃなければ、養母様と呼んでも構いませんか?」

 蔡文姫「失礼だなんてとんでもないわ。えぇ。でも私と2人っきりの時だけにしましょうか。外だと場合によっては不都合もあるから。それに、その方が私もママ成分をたっぷり補給できるから」

 羊祜「えっ!実はそっちが本音だったり」

 蔡文姫「何か言いましたか?」

 羊祜「いえ。2人きりの時だけにします養母様」

 蔡文姫「宜しい」

 こうして、羊祜を見送った蔡文姫は荷造りを始め、平地育ちの蔡文姫のために匈奴にも平地の物を売りにきてくれていた商人と連絡を取る。

 蔡文姫「出身は、徐州と言ってたから。すぐに来てくれると良いのだけれど」

 徐州にある商人宅。

 郵便屋「陶商様の商屋で間違いありませんか?速達です」

 陶商「はい。これはこれは御苦労様です。すぐに御返事をお書きしますので、暫くお待ち頂いても。あ、中に入って、新作のお茶でも飲んで行かれますか?」

 郵便屋「ゴクリ。ちょうど喉が渇いていたもので、有り難くいただきます」

 そう蔡文姫の言う匈奴と取引のあった平地の商人とは、陶商のことであった。
 久しぶりに登場する陶商のことを知らない人のために一言で説明するなら。
 徐州を元々治めていた陶謙の長子で、劉備に徐州を譲り渡した後は、裏で商人として知り得た情報や重役とのパイプ役として、活躍していた。

 陶商「あー。この花の匂いは懐かしい。この便箋は、蔡文姫様ですね。烏桓たちとの交易の合間にちょくちょくと平地のものを買っていただきましたね。何々、そんなことが陳留で。成程、安全に国外に脱出したいですか。えっ!?場所指定で華北の鄴。そこは、曹丕殿のお膝元では?こちらに来ていただいた方が安全なのですが」

 郵便屋「あー。忘れるところでした。もう一つお手紙をお預かりしてたんでした。随分前に。えーっと。えーっと。これだ。今更、1ヶ月も前のお手紙をすみません。すみません」

 陶商「構いませんよ。貴方も苦労されてますね。郵便屋に配送屋となんだか聞きなれないものを作る劉義賢殿に」

 郵便屋「いえいえ。劉義賢様にお会いするまで、こんなやりがいのある仕事があるなんて、知りませんでしたよ。で、実はその手紙、劉義賢様からなんです。お願いします。渡しそびれてたこと絶対に言わないでください。配送屋をやってる兄貴から職務怠慢だなとネチネチと言われてしまいますので」

 陶商「いえいえ。女性の身でありながらあちこちに手紙を届けて、本当に偉いと思いますよ。お兄様にもよろしくお伝えください。配送屋のお陰で、うちの商品も全国何処でもお受け取りいただけるようになりましたから」

 郵便屋「はい。何れは、劉義賢様の言ってた食品もお届けできると良いのですが。流石に日持ちしないものは、お届けできません。干し芋や干し肉が精一杯の状況です」

 陶商「焦ることはありませんよ。長話をしてしまいましたね。こちらもお読みして、すぐに御返事を」

 郵便屋「いえ、そちらは御返事不要です。私がすっかり忘れていたのもそれが理由でして」

 陶商「成程。では、こちらも拝見して。何々」

 以下、劉義賢の手紙の内容。

『陶商殿へ
 この手紙を読んでいる頃、俺は既にこの世には居ないだろうと言うのは冗談だ。
 こんな話をいきなりしても信じてもらえるかはわからない。
 俺はこの世界の人間ではなく遠い未来の人間だ。
 陶商殿、俺の知ってる世界の歴史では、君は曹操殿との戦いで命を散らしていた。
 分かっている。
 こんな話をいきなりされて、困惑しているだろう。
 恩着せがましく陶商殿に頼ることを許してもらいたい。
 これは大変危険な旅路となる。
 その覚悟を持って欲しいとちゃらけてみた。
 ここからが本題だ。
 蔡文姫殿と申す人から手紙が届いたらその内容に従ってもらいたい。
 今は、何のことを言ってるのかわからないだろう。
 だが、これは未来で必ず起こる事なのだ。
 貴殿らの大事な徐州を簒奪した俺が陶商殿に頼ることを許してもらいたい。
 益州侵攻軍総大将 劉義賢より』

 陶商「簒奪だなんて、思っていませんよ。ずっと苦しかったのですね。貴方の頼みを断れると御思いですか。僕のやりたいことを即座に見抜いて、陰ながら力を貸してくれた多大な恩がある。貴方様のことを。恩などいくらでも着せてください。貴方様の頼みなら喜んで引き受けます。にしても、すっかり文字がぐらぐらだ。最初の文字は、それも遠くない未来のことなのではありませんか。劉丁様」

 郵便屋「あの。突然、涙を流されてどうかしたのでしょうか?」

 陶商「いえ。蔡文姫様のお手紙の御返事はこちらです。すぐに届けてください。速達です!」

 郵便屋「はい、かしこまりました!」

 郵便屋が向かうのと同時に陶商は準備を始める。

 陶商「思えば、あの時も烏桓との取引だけのところ。貴方様は、平地のものを欲しがる人は多いかもしれない匈奴まで足を広げてみたらどうだなんて。アレも分かってらしたんですね。蔡文姫様がそこに居られると。全く、貴方様は何者なのでしょう」

 こうして劉義賢を介して、繋がった縁が華北の人不足という窮地を救うのであった。
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