えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

黄元に忍び寄る影

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 難民のフリをした郭脩に罵倒された黄元は、握り拳を地面に叩きつけ屈辱に打ちひしがれていた。
 そこに忍び寄る1人の男。

 ???「お前さん、宮仕の者であろう?難民にあのように怒りをぶつけられるなどあってはならんことじゃ。ワシで良ければ話を聞いてやるぞい」

 黄元「クソ難民の次に俺に突然話しかけてくるのが頭に被り物する爺さんとはな。俺も随分と落ちぶれたものだ。クソッ」

 ???「落ちぶれた?果て、ワシにはこの国を守ろうとする英雄に見えたがの。事実、劉備の難民受け入れによって、野盗にタダ飯ぐらいに空き家となっていた住居に勝手に住み着くなど問題は山積みとなっておる。そんな男が霊帝をも牛耳っているとあっては、蜀漢にも先は無いと思うがのぉ」

 黄元「俺もそう思ったからこそ、職場の同僚に話したんだ!だが、誰1人と理解すらしない!意気地が無いのだ!俺は何も悪く無い。悪く無い。なのにあのクソ難民ときたら、俺が惚れてる女の情夫だが知らないが好き勝手に命じやがって!ムカつく!ムカつく!ムカつく!」

 ???「そうじゃ。良いぞ。もっと吐き出せ。お前の負の感情をな」

 黄元「あんな底辺以下の難民如きが俺様みたいな上級国民に偉そうに指図しやがって!何様のつもりだってんだ!そうだ。簡単じゃ無いか。邪魔なら殺せば良い」

 ???「ククク」

 黄元「何がおかしいんだジジイ?テメェもぶち殺してやろうか」

 ???「いや、実に操りやすい馬鹿で助かったと思ってな」

 黄元が怪しげな爺さんの目を見るとまるで催眠状態にかかったかのように従う。

 ???「ワシの声が聞こえるな?」

 黄元「はい。始皇帝様」

 ???「お前は、どうすれば良い?」

 黄元「始皇帝様のために蜀漢に内乱を起こさせる」

 ???「宜しい。そのために何が必要だ?」

 黄元「始皇帝様の糧となる負の感情」

 ???「ククク。上出来だ。手始めは?」

 黄元「先程の難民に怪しげな薬を飲ませて、怪物にする」

 ???「それも面白いが。少し、違うな」

 黄元「うぐっ。先程の難民に劉備・劉禅を暗殺させる」

 ???「うむ。上出来だ。そのためにお前がすることは何だ?」

 黄元「始皇帝様のために、負の感情を持つ民を華北へと送り込むこと」

 ???「良し良し。では、行動に移れ」

 黄元「かしこまりました。始皇帝様」

 操られた黄元は、難民を含む民の中から上質な負の感情を持つものを厳選し、華北へと輸送した。
 全く予想だにしていなかった行動をする黄元を問い詰めるべく郭脩が訪ねてきた。

 郭脩「黄元殿、民を華北に送るなど何をされている?」

 黄元「しこ。曹丕様のためだ。民が多くいれば、それだけ兵力を増強できよう。ここで反乱を起こしても我らにあるのは死だけだ。先のことを考えたまでのこと。これでも優秀な宮仕という組織の人間なのでな。俺を脅している暇があるのならそちらもそちらで動いたらどうだ?そちらがこちらの弱みを握っているのと同様にこちらもそちらの弱みを握っていることを忘れるなよ?」

 郭脩「うぐっ」

 数日前の黄元と違い強気な態度に押された郭脩は、別に華北の曹丕の元に民が増えること自体はなんの問題も無いと引き下がるのだった。
 そこに再び現れる1人の男。

 ???「黄元よ。首尾はどうだ?」

 黄元「始皇帝様のために華北に負の感情を持つものを送りました。そやつらの怒りが何れ曹丕に向き、曹丕の中に眠る嫉妬という負の感情を増大させ爆発させるかと」

 ???「上出来だ。首尾よくできれば、あの女はお前のものだ」

 黄元「あの女?そんな些末なことよりもあの難民は如何なさいますか?」

 ???「ククク。余に対する信奉率が上がっておるな。上出来じゃ。あんな男は、ほおっておけ。ここで内乱が起きれば、どうせ助からん土塊だ」

 黄元「はっ。どうして、今まで俺はこんなに気持ちいい感情を押し留めていたのか。始皇帝様のお陰で、内なる進化を遂げられました。この命、どこまでも始皇帝様と共に」

 ???「ククク。お前も上質な負の魂となろう」

 黄元「この命が尽きたら何処までも始皇帝様のお側に」

 ???「心得た。では、引き続き劉備らに怪しまれるように動け。良いな?」

 黄元「心得ております」

 怪しげな男が消えると1人の女性が現れる。

 ???「黄元様、あの噂は本当でしょうか?」

 黄元「あの噂とは何だ?」

 ???「その黄元様が劉備に不満を持つものを密かに華北へと逃しているという噂です」

 黄元「劉備に不満?俺は。うぐっ。そうだ。劉備が霊帝様を蔑ろにして政を行うからこのようなことになった。難民としてなら何処へでも行ける。ここではなかったと言うのなら華北へと届けてやろう。その前に。お前の中に眠る負の感情を見せてみろ」

 ???「負の感情ですか?」

 黄元「そうだ。劉備が憎いだけでは、ダメだ」

 ???「はぁ。そうですね(阿斗様に頼まれて怪しげなこいつに近付いて見たけど思った以上に厄介かも。阿斗様に救われた私にはわかる。コイツ相当溜め込んでる。でも情報を得るためなら仕方ない。私の中には絶大な阿斗様への信頼があるからきっと大丈夫)劉備のボンクラ息子による性強要を受けて、凄く惨めな気持ちです」

 黄元「良い。身体を穢された負の感情は上質となろう。良かろう。手配しておいてやる」

 ???「(えっ?今ので良いの?なんか拍子抜けね)ありがとうございます」

 黄元「して、女よ。必要な情報は得られたか?」

 ???「カハッ(コイツ、まさか見抜いて。でも、何としてもこの情報だけは阿斗様にお届けしないと)」

 黄元「その傷でまだ抗うか。面白い。このままお前を追って、そこまでする主人とやらも刺し殺してくれよう」

 ???「(ダメ。それだけは。阿斗様は、私の心を救ってくれた光。例え、私に対する気持ちが無くても、お慕いしている阿斗様を巻き込むわけには。でも、この情報は必ず必要となるはず。最後に阿斗様にお会い、したかった。嘘、どうしてこちらに?早くお逃げになってくださいませ)」

 そう、この場に現実世界の蜀好きに暗愚と揶揄される男がいたのだった。
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