えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟！兄上に天下を取らせるため尽力します。

5章 天下統一

青州の様子

　ここで少し、劉義賢の方を見ていこうと思う。
　袁燿による豫州攻め、呂布による兗州攻めと同じ頃、ここ青州では、劉義賢が魏軍に包囲されようとしていたほんの少し前のことである。

　寇封「叔父上、何を言って！？」

　張苞「いやマジなのかそれ？」

　関興「叔父上、いったい何を考えて」

　劉義賢の言葉に3人が絶句していた。

　義賢「おかしいか？」

　寇封「明らかに向こうは叔父上を殺すための兵を準備しているはず！それが全て、ただの陽動だなんて、信じられません！」

　義賢「まぁ、そうだろうな。こんな話、信じろってのがおかしな話だ。だが、向こうは俺をただ青州に縛りつけておきたいだけだ。そのため分厚く包囲するがそれ以上、攻城はしてこないだろう。攻城して万が一、逃げ道が別にあったなんてことになって、俺に逃げられて、別のところに参戦されたら困るからな」

　張苞「いや、そりゃ叔父上の言い分もわからないでもねぇよ。でもなぁ」

　義賢「俺が甥可愛いさに逃がそうとしてるって考えてるなら大間違いだぞ。寧ろお前らに手柄を立ててもらいたいから寇封を総大将に徐州の救援に向かってもらいたいって話だ」

　関興「本当に徐州が襲われるってお考えなのか叔父上？」

　義賢「十中八九な。俺の逃げ道は確実に閉じておきたいはずだ。海を渡って華北に逃れても向こうのテリトリーだ。兗州の守りを曹仁に任せていることからまず確実に俺を間接的に包囲したいのは間違いない。それには徐州の制圧は魏にとって絶対条件。本隊が洛陽に向かっていることからも内側から食い破ろうとしてるのは間違いない。奉先の想いを無にしないためにも徐州を失うわけには行かない。これは俺の我儘だ」

　関興「ふむ。わかりました。ただ、俺たちは変わった姿を見て欲しくて叔父上についてきたのだ。1人も残さないわけには行きません。関索を残していきます」

　義賢「関索も連れ出してもらいたいのだが。まぁ、新婚にそれは酷か」

　関興「叔父上、いつまで新婚だと言ってるのだ？関索はもう結婚して、5年は経ちますよ」

　義賢「そ、そうか。すまない。長い間、会っていなかったのに、いきなり4人も嫁を連れてきたものだからな。で、関索は？」

　関興「置いてきました。そもそも中から最中の声が聞こえてきたので」

　義賢「そ、それは仕方ないな。入室を憚られるのも」

　寇封「叔父上、話を戻しますが。叔父上の言う通りだとして、魏軍は誰を徐州に送り込んでくると？」

　義賢「曹操四天王の一角、矛の曹洪だろうな」

　寇封「！？本気で徐州を取りに来ると？」

　義賢「奉先が俺のためを想って、地理に詳しい兗州攻めを行うとしたら隙のできた徐州を奪おうと考えるのは、難しくない」

　張苞「それが本当なら俺たちで相手になるのかよ？」

　義賢「何だ苞？びびってるのか？」

　張苞「び、びびってなんかねぇよ」

　義賢「まぁ自信満々より。びびってるぐらいが丁度良い。相手の力量を見誤らないだろう？」

　張苞「お、叔父上には敵わねぇよ。ったく」

　義賢「お前も口癖が翼徳に似てきた。やはり、親子だな」

　張苞「それ褒めてんのかよ？」

　義賢「あぁ、褒めてるよ」

　関興「して叔父上、本気なら両翼を送り込むのが普通では？曹洪だけというのは」

　義賢「腑に落ちんか？」

　関興「恐れながら」

　義賢「両翼。ゴホン、夏侯惇と夏侯淵は、洛陽攻略に欠かせない存在だ。ここが囮とすれば、本気と見せかけるため鮑信を総大将にこの地に明るい于禁を副官に付けるだろう。余っている人材を見るに徐州を本気で落とすなら曹洪をおいて他にない。曹仁の守る兗州がそうそう落ちないだろう。寧ろ、呂布を釘付けにするために、引き延ばす算段を考えてるかもしれん。どうだ？説得力があると思わんか？」

　関興「確かに理には適っています。ですが」

　義賢「どうして、地味な俺が雲長や翼徳に信頼されていると思う？」

　関興「当初、劉備様の弟だからと想っていました。ですがこうして近くで見ていてわかります。1番合理的で、尚且つ劉備様のために犠牲を最小限に考えて行動されているところかと」

　義賢「成長したな。広く視野を持て興。お前はこの国に欠かせぬ次代だ。曹洪を超えよ。徐州の危機をお前たち3人で救え。それが俺からお前たちへの卒業試験だ」

　寇封「いつまで先生気取りなんです叔父上」

　張苞「俺って卒業してなかったのかよ！」

　関興「そういうことなら、叔父上を安心させるためにもお受けせざるを得ません」

　義賢「フッ。お前たち3人が一緒なら曹洪を超えられるさ。きっとな」

　そして現在。

　士仁「殿の言った通りでしたな」

　義賢「総大将、鮑信に。副官、于禁か。陣形は包囲ときたか。兵らに恐れず普段通りの生活を送るように伝えよ。夜襲の警戒は要らない」

　范疆「合点承知なんだなぁ。大声で」

　張達「馬鹿かお前は！お前の大声だと敵にも情報が筒抜けになるだろうが！俺が食料の配給の時にそれとなく伝えるからよ」

　麋芳「ヒィーーーーー。ほ、本当に本当に敵は攻めてこないんでしょうな。あわわわわ」

　士仁「相変わらずだなお前は。にしてもここまで殿の描いた絵図通りとは。相手に同情しますよ」

　義賢「相手の変化を見逃さないことだ。お前にもできるさ」

　士仁「俺は殿の部下で十分です。それに待遇も良いですから」

　義賢「雲長はやはりダメか？」

　麋芳「アイツは、いつだってイエスマンだけ囲むんだ。俺たちには厳しいもんだ」

　士仁「あの性格では、重要な局面で。その」

　義賢「わかっている。アレは雲長の性格だ。仕方ない。だから敢えて、イエスマンしか置いていない。裏切られる心配はないさ」

　士仁「そういう全てを手玉に取る殿に敬服しますよ俺は」

　義賢「フッ。そう褒めてくれるな。こそばゆい」

　魏軍が包囲するが時すでに遅い。
　主だった将は、各地に振り分け、ここにいるのは、ほんの数千人程度なのだから。
　そして、向こうの考えは俺を取り逃さないこと。
　即ち初めての城に何かしらの仕掛けがあるかもしれないと警戒して、攻めようとしないのだから。