えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

平原城攻防戦(結)

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 鮑信にとってそれは必然だった。
 この数ヶ月、斥候から聞く平原城の様子からもこちらの動きに困惑しているのが見てとれた。
 その間、着々と集団における動きを兵たちに訓練させた。
 投石への備えも疎かにしなかった。
 だが、あれは何だという疑問しか浮かばない。
 それ程に奇怪な形をしたそれは、かかった梯子を登り、攻め込もうとしていた兵を地面へと叩き落とし、絶命させる。
 城門に取り付いた衝車も押していた兵共々真っ二つにされた。
 ここで冒頭に戻る。
 だから鮑信が危険だと判断して背を向けて撤退を選んだのは必然だった。
 鮑信は蜀漢の大型兵器を気にして、背を見せずに撤退を命じた。
 だが兵たちは目の前の地獄に恐慌状態となり、何もかも捨てて、逃げ出す始末。
 その背を容赦なく蜀漢の新たな大型兵器に撃たれて、絶命していく兵士たち。
 鮑信は地獄を見ているかのようだった。

 鮑信歩兵隊A「ヒィッ。何なんだよアレ。斧の先端のような刃が動いて、衝車隊を真っ二つにしてしまいやがった。こんなの。こんなの。反則だろ。嫌だ嫌だ死にたくない。ガハッ。な、何で俺が、こんな目に」

 鮑信歩兵隊B「あんなのあんなのどうやって攻略するんだよ。む、無理だろ。ここにいたら死んじまう。逃げないと逃げないと。ギャッ。あ、あぁ」

 この様子を見ていた鮑韜は鮑信を援護するため井闌車の上にいる弓兵隊で援護しようと試みる。

 鮑韜「いけない!弓で援護するんだ!大型兵器に火矢を!」

 鮑韜弓兵隊A「はっ。グハッ。あの、兵器。斜め上にも、撃てる、のか」

 しかし、井闌車の上に立っていた鮑韜の弓兵隊が斜め上を向いた自律駆動型連弩車の矢によって次々と撃ち抜かれていく。
 この状況に鮑韜は眼下の援護よりも身を守ることを優先するしかなかった。

 鮑韜「馬鹿な!?こ、こうしていては。動ける者は弓を置き盾を構えるんだ!」

 しかし、圧倒的な優位を崩された兵たちの耳には届かない。

 鮑韜弓兵隊B「蜀漢に勝つなんて無理なんだ。たった千人?あの兵器があれば弓兵が10万いるようなもんじゃねぇか!俺は降りるぞ。ガッ。に、逃げ道、なんて、何処にも、ねぇって、ことかよ」

 鮑韜「冷静になってください!盾を構えて、落ち着いて敵の矢を」

 必死に落ち着かせようとする鮑韜だったが。
 ある者は腰が砕けて立てない有様で、そのまま射抜かれ。
 ある者は、混乱で逃げ出そうとしたところ、背を射抜かれ。
 ある者は、恐怖で動けなくなったところを容赦なく射抜かれた。

 鮑韜弓兵隊C「あ、脚がすくんじまって動けねぇ。ハッ。ハハッ。もうどうでも良いや。グフッ」

 鮑韜「あ、あぁ。兄上の作戦がこんなにも簡単に崩されるなんて、劉義賢ーーーー!!!!絶対にお前を許さない!」

 鮑韜は井闌車を駆け降りると両手に盾を構え、下で混乱している部隊を落ち着けるべく合流に向かう。

 鮑忠「嘘だろ梯子がかかって、まさに今から城壁に到達するってところで、無かったことにされるなんて。何なんだよあの動くバカデカい斧の先端はよ!おい、テメェら!下がれ!盾を構えろって言ってんだ!来るぞ!敵の矢の雨がな!」

 咄嗟に状況判断ができる点で鮑忠も鮑信に劣らず優秀ということである。
 しかし、こちらも大量に地面に落ちていく仲間を見た兵たちの顔はすっかり恐怖に染まっており、言葉は届かない。

 鮑忠工作兵A「おい嘘だろ。何で。何で。あと一歩であと一歩踏み出せば、城壁に到達したってのに。腕も脚も斬られて、落ちてるとか。ガハッ。う、うぅ。身体中が、イテェ。俺の身体、どうなって」

 鮑忠工作兵Aが最後に見た光景は、自分と同様に地面に落ち呻く仲間たちの姿だった。

 鮑忠「馬鹿野郎が!それ以上、進むんじゃねぇ!死にてぇのか!下がれ、下がれって言ってんだろうが!」

 鮑忠の悲痛な叫びも届かず。
 混乱に陥った兵たちは前後がわからないのか、足元がない空中へと足を踏み出す。

 鮑忠工作兵B「下がる?下がるって何処に?な、何で?俺、空を飛んで?ガハッ。か、身体、中が」

 鮑忠「兄貴や韜の奴は無事か。クソッ。声が聞こえる奴らは盾を構えて集まれ!俺に付いてこい。兄貴たちと合流する!」

 その頃、後詰を任された鮑卲と鮑勛の兵は無傷だった。
 だが前線の異変に気づいて、盾で身を守りながら前進した。
 そこで彼らが目にしたのは。

 鮑卲「うぷっ。こ、これは一体何がどうなって。父上は無事なのか?」

 鮑勛「兄上、あそこに父上が!」

 見つめる先では、少ない兵たちと共に盾で矢を弾きながら後退する鮑信の姿が。

 鮑信「ぐっ。あれだけいた兵がものの数時間で、ここまで。いや弱気になってはならんな。この身体が動く限り、指揮を取らねば。この戦はもう終わりだ。己の命を守るのだ。盾を構えて、飛んでくる矢を警戒せよ!」

 鮑韜「兄上、ご無事ですか?」

 鮑信「韜、お前も無事だったか。見ての通りだ。壊滅的打撃だな。俺が率いた兵も2割しか残らなかった」

 鮑韜「こちらもたった5千。10分の1となってしまいました」

 鮑忠「兄貴ーーーー。生きてたら返事してくれ。クソッ。鬱陶しい。矢に警戒しろテメェら!辺りをくまなく探せ!兄貴は絶対に生きてんだからよ!」

 鮑信「ここだ!お前も無事で何よりだ忠」

 鮑忠「兄貴、良かった。すまねぇ。俺の方も残ったのはこれだけだ」

 鮑信「たった数時間で、20万いた兵が3万しか残らないとはな。この失態は俺の首で許してもらうしかあるまい。ゴホッ。ゴホッ。ゴホッ」

 鮑韜「兄上!もう話さないでください!傷が」

 鮑信「フッ。俺も老いた。韜・忠、息子たちのことを頼んだ。ゴホッ。ゴホッ。ゴホッ。友よ。すまぬ。どうやら、俺は、ここ、まで、の、ようだ」

 鮑忠「嘘だろ兄貴!おい返事してくれよ兄貴!」

 鮑韜「忠兄上、今はそんなことよりも兄上を守りながらこの残った兵たちを指揮するのです!」

 鮑忠「ぐっ。わかった」

 鮑卲「父上!?」

 鮑勛「返事をしてください父上!」

 鮑韜「卲に勛!どうしてここに?ここは危ないすぐに引き返しましょう」

 鮑忠「クソったれが!絶対にこの借りはいずれ返してやるからな蜀漢のクソども!」

 鮑信のは率いた30万の兵のうち生き残ったのは、後詰として残っていた6万と于禁の元騎兵隊1万、そして攻城戦で生き残った3万。
 20万もの兵の命が失われてしまったのだった。
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