えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

平原城攻防戦(転)

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 関索の失態に頭を悩ませる劉義賢は外の風に当たって、少し頭を冷やそうと考える。

 義賢「ふぅー。涼しい風が熱った頬を冷ましてくれる。もうすっかり秋模様だな。いや四季があるのは俺の産まれ育った国だけだったか」

 劉義賢の目にベロンベロンに酔った兵士が映る。

 義賢「騎兵隊を打ち倒したことですっかり羽目を外しているな。まぁ、酒ぐらいなら多めに見るか。ん?煙が上がっているあの方角は城壁の上か?何かあったのか!?まさか鮑信が夜襲を?こうしてはおれん」

 向かった劉義賢が目にしたのは、肉を焼き酒をかっくらう兵士たちの姿。

 平原守備隊A「おぉ太守様がきてくださったぞ。さぁさぁ。今宵ぐらい一緒に飲みましょうや」

 平原守備隊B「お前酔いすぎだぞ。太守様になんて口の聞き方だ。無礼講ってことで許してください」

 平原守備隊C「それにしても本当にこの兵器は良い。勝手に矢を撃って、敵兵をみるみるうちに壊滅させたんだからなぁ。ガハハハハ」

 劉義賢はこの光景を見て頭を抱えて絶句する。
 于禁が撤退したとはいえ、敵の間者がこの光景を見てないとは言い切れないだろう。
 それに俺たちが追撃するかもと警戒してその場に残っている斥候が居ないとも限らない。
 そいつらにこの姿はどう映る?
 平原城には食料も酒も潤沢にある。
 それも見せびらかすほどにと映らないか?
 しかし、ここで俺が怒鳴れば士気の低下につながる。
 昼間の関索に対する叱責とは違う。
 もう今更起こってしまったことに対して、どうしようもない。
 これも長くこの平原城に籠りすぎた結果か。
 何から何まで揃えた結果、兵や民たちに緩みが生じていたのだな。
 せっかく強攻を凌いだというのに、これでは本末転倒ではないか!
 食料が尽きるだろうと包囲に切り替えてくれれば作戦の練り直しもできたというに。
 いや、冷静になれ俺。
 ここで怒ってどうなる?
 悪戯に士気を下げれば、守れるものも守れなくなる。
 まだ負けたわけではないのだから。
 劉義賢は心を落ち着けるとその提案を受ける。

 義賢「ふぅー。それは良い提案だ。俺もちょうど少し酒を飲みたいと思っていた」

 現実世界では18の俺がこっちの世界では60に差し掛かろうとしている。
 何が言いたいかというと向こうではダメでもこちらでは合法だということだ。

 平原守備隊A「流石は太守様だ。ほれほれぐいっと飲んでくだせぇ」

 平原守備隊B「太守様、良いのですか?」

 平原守備隊C「太守様?そんなのどこにいやがんだ。お前は本当に可愛いなぁ」

 平原守備隊D「コイツ、酒樽を故郷に残してきた女だと思い込んでやがる。ここまで酔いたくはないものだ。グビグビ」

 義賢「頂こう」

 本当はここにいるコイツらを全員グーパンチで殴ってやりたい。
 だが、そんなことをすれば翌日から暴力太守だなんだと騒がれることになるだろう。
 変な波風を立てて、防衛に支障が出るのは良くない。
 確か俺のいる世界線では、奉先の奴は酒でハメを外した部下を叱責して、武器と馬を失って、曹操に敗北したのだったな。
 ここの世界線では俺の良き友人だが。
 酒というのは嗜む程度がちょうど良い。
 コイツらのように浴びる程飲むのではなくな。
 ふぅー。
 涼しい風で酒も冷める。
 それでこの惨事か。
 娯楽もなく閉じこもる毎日。
 何でもかんでも街の中に集めたのは間違いだったかもしれんな。
 反省するとしよう。
 さぁ、間も無く俺は死ぬだろう。
 鮑信がこのだらけきった油断の隙を付かないわけがない。
 しかし、劉義賢の予想に反して、数ヶ月の間鮑信は強攻から包囲へと切り替えていた。
 そして現在目の前に広がるのは約30万はいようかという兵。
 陣形は方円陣、中心が一見薄く見えるが大きな盾を上空に構え、その中で一糸乱れ抜いて動きで、進軍していた。

 義賢「成程。そちらはこの数ヶ月有意義な時間を過ごしたようだな」

 それに馬の姿はないか。
 それだけは良かったと言える。
 敵の機動力は未だに歩兵だけということだ。
 しかし方円でくるとは、好都合。
 狙い澄ました一撃で粉砕してくれる。

 義賢「郭淮、投石機の準備をせよ!」

 郭淮「承知」

 平原城から投石が飛んでくる。

 鮑信「フン。流石、大型兵器の多い蜀漢のことだ。当然、投石機も準備していることはわかっていた。全軍、着地点を見極め広く展開せよ!進軍は遅くて構わん!誰一人欠けることなく平原城に辿り着き、劉義賢の首を討つのだ!」

 鮑信歩兵隊たち「うおおおお!俺たちには、鮑信様が付いてるぞ!劉義賢、恐れるものぞ!」

 鮑信が手を振ると方円陣からコロコロと陣形が変わるが一分の隙もなく投石を回避していた。

 義賢「ハッ。ハハ。マジかよ」

 これを見て劉義賢の額から汗が流れる。
 あの数に取りつかれたら間違いなく平原城の終わりは目に見えてる。
 頼みの綱は、もはや郝昭が施したという守りの要とやらに期待するしかない。
 策を弄すにも俺は各紛争地域に兵を割り当てすぎた。
 歩兵だけなら投石で壊滅できると踏んでいた。
 向こうはこの数ヶ月で集団の動きに磨きをかけたのだ。
 あの速さ、着眼点の良さ。
 やはり鮑信は油断ならない男だったということだ。
 久々に言うよ。
 俺の完敗だ。
 劉義賢の額から流れる汗は止まらない。

 士仁「殿!まだ、何か秘策があるんですよね?」

 士仁にそう言われるがいや本当に秘策などない。
 万策尽きたという表現が正しい。
 騎兵が居なくともここまで準備を念入りにした鮑信。
 策を練り直そうとしたがこの包囲がすぐに強攻に切り替わるのではと気が気でなかった俺。
 勝敗は誰の目にも明らかだろう。

 鮑信「良し今だ!衝車を前に出せ!城門を破壊するのだ!」

 鮑韜「こちらも井闌車で援護するのです!城壁の上を速やかに制圧します!」

 鮑忠「梯子をかけろ!急げ!劉義賢を逃すんじゃねぇぞ!」

 きちんと攻城兵器も守っていたか。
 鮑信、此度は俺の。
 来世でまた。
 しかしかけられた梯子は、まるで剣にでも斬られたかのように全て薙ぎ払われ、それどころか衝車ごと切り裂き、返す刃が戻ってくる。
 これには鮑信も距離を取るべく全軍を下がらせようとする。
 そこに自律駆動型連弩車が追い打ちをかけた。
 劉義賢の目には、何がどうなっている?
 という疑問しか浮かばない。
 だが、鮑信の兵は逃げる背を撃たれ、倒れていく。
 そこは地獄のような光景であった。
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